BEYOND THE TIME PROLOUGE 



シーシッシー シーシッシー ラーセッセー ラーセッセー

 遠くから聞こえてくる歌声に、老人は目を閉じ耳を澄ませながら、あることをふと考えていた。

(わしはこんな所で何をやっているのだろうか?)

年を越せ 夜を越せ 年を越せ 夜を越せ

(はて、いつからこんな歌が唄わられるようになったのだろうか?)

 次々と浮かぶ疑問に老人は時間を割いて考えてみた。しかし、いくら考えても老いによって物忘れが激しくなった今、答えを導き出すことは難しいと老人は考え、潔く思い出すことを止めた。老人は、ゆっくりと目を開き、炎の光りによってほのかに明るくなっている方向を眺めた。

男は男 女は女 男は男 女は女

 様々な歓声や人々のざわめきが歌の合間から聞こえてきた。それは、この祭りがクライマックスに近付いている証拠だった。

年を越せ 夜を越せ 年を越せ 夜を越せ

 老人は月の光に照らされた自分の手に目を注いだ。しわくちゃになった皮膚は、自らが生きてきた長い年月を物語っている。そう、大きな罪を背負い生きて続けてきたこの数百年という時を刻み込んでいた

ホワイトドールのご加護のもとに ホワイトドールのご加護のもとに

(ホワイトドール?どこかで聞いた事のある名前だな)


「祭司さま!」

 突然、声をかけられ老人は顔を上げた。目の前には、急いで走ってきたせいか、顔に汗が滴る15歳になる少女が立っていた。「どうしたんだい?」と口を開く間もなく、少女は老人のしわくちゃな手を掴み、ぐいぐいと歌声が響く方向へと引っ張っていった。

「いきなり祭の途中にいなくなっちゃたと思ったら、こんな遠くにいるんだもの!もう、祭司さま早くしてください。聖痕を授けるのは祭司さまの役目でしょ!」

 15歳の少女に言われて、老人は自分が祭司だということを思い出した。あの光り輝く日以来、ただ背中に六つの痣があるというだけで、いつの間にか「祭司」やら「聖者」として崇められてきたのだった。

「祭司さまは、もう年寄りなんだから勝手に出歩いちゃ駄目ですよ」

 少女の輝く瞳が自分自身に強く向けられた。

(どこかで、見たことのあるような瞳じゃな・・・)

「そう言えば、祭司さまって今年でいくつになられたんですか?」

 少女は、祭司と呼ばれる老人の手をぐいぐい引っ張りながら尋ねた。老人は、胸のポケットに閉まってあった四角い物を取りだし眺め、ぶつぶつと呟いた。

 少女は老人が見つめている「PP::-524」と何やら数字と文字を表示させている四角い物体に目をやったが、その数字と文字が何を意味するかは理解できず、老人に訊ねてみることにした。

「・・・祭司さま?それ一体何ですか?」
「ああ、これは時を刻む道具じゃよ」
「時を刻む・・・?」
「そうじゃ。年を数えるものじゃよ」
「なーんだ。そんなの頭で数ええればいいじゃない。人はそんな数えきれない程長く生きるわけじゃないんだし・・・祭司さまって本当に物忘れが激しいんですね」

 老人はその道具を見ながら再びぶつぶつと呟いた。何か気の触ることを言ってしまったのではないかと、少女は不安になり何か声をかけようとした。しかし、その瞬間に老人と目が合った。少女は、老人が持つその紅い瞳に吸い込まれるような錯覚に一瞬陥ったが、老人の発した言葉ですぐに現実へと戻された。

「542じゃ」
「えっ?何が542なんです?」
「君が尋ねた問いへの答えじゃよ」

 老人は笑みを浮かべ少女を見つめた。

「問いへの答え?」

「祭司さま、早く早く!これに乗ってください!」

 少女の疑問に老人が答える暇もなく、4人の少年が老人を山車の上に乗せて、嵐のように少女の前から連れ去っていってしまった。老人の姿が祭りが行われている方向へと消えていくのを眺めながら、少女は祭司が発した「542」という不思議な答えを立ち止まって考えていた。


「542って、まさか年齢のこと!?まさかね・・・」

 少女はとうとう祭司さまがボケてしまったかと最初は考えたが、あの紅い瞳には、確かに数百年という時を生きてきた深みというか、命の重みが刻まれていたようにも感じた。もし、老人がボケておらず彼が本当に500年という月日を生きていたのなら、親から聞かされた「黒歴史の最後の戦い」の時代にも生きていたことになる。

「うーん、でもあり得ないわね」

 少しだけ立ち止まり考えてみるものの、少女はすぐに祭りの声が聞こえる方へとゆっくりと歩き出す。村でも謎だらけの祭司さまの謎を垣間見れたことは大きな収穫だったが、彼女にとってそれは今さほど重要な事ではなかった。なぜなら、今日は彼女の姉が成人を迎える少年少女の代表に選ばれ、最初に聖痕を授かる名誉ある日だからだ。彼女はこれから起こるであろうお祭り騒ぎに胸躍らせながら、少年達に連れ去られた老人の後を追いかけていった。




>>第1話「奪還」前編へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送