BEYOND THE TIME 第2話 「構築」 前編


P:0000 6月9日 地球 北アメリカ南東部ルイジャーナ地区

 人類が銀河系の遥か彼方までその生活圏を伸ばしてから、何世紀もの月日が流れたが、ここ北アメリカ大陸ルイジャーナ地区には人類が宇宙に進出する以前の街並みが再現されていた。ルイジャーナ地区は、古代文化保護区として認定された多くの保護区の中では、戦争による被害を受けずに済んだ数少ない地区であった。

 古い街並みを少し郊外にいくと、突如として巨大な岩山がぽつんとそびえ立っている。平原の真中にこのような岩山が独立してあるのは奇妙な光景であった。それもそのはず、これは山ではなく太陽系外から運ばれてきた資源小惑星であった。地球の各地には、このような資源小惑星――地元ではメテリアル・マウンテンと呼ばれている――が至るところにある。宇宙から必要な資源を随時運搬するよりも、地球に資源小惑星を設置した方がコストが安いということで始められた。しかし、資源小惑星が設置されたのは、数十世紀も前の話であって、今では資源は抽出され尽くしただの山と化しているのが現状である。

 そんな、今では地元住民さえも寄り付かないメテリアル・マウンテンに、2ヶ月前から作業用MS、重機などの出入りが激しくなっていた。メテリアル・マウンテン内部には昔、資源を運び出すために作られた坑道がある。坑道を奥深く進むと、資源が取り付くされできた開けた空間が突如として現れる。その空間では、白い防護服のようなもので身を包み作業する者、そして作業用の小型MSが自らの2倍はあろうかというこの時代のMSとは明らかに違うフォルムをした濃緑色のMSを軽々と持ち上げ運んでいる。かなりの年代物のMSのはずなのだが、その装甲は新品のようであった。そのMSが運ばれていく様を、作業を中断し休憩している二人の男が見つめていた。

「しかし、わざわざこんな石器時代もののMSを製造して、こんな場所に保管しろなんて、いったい何が目的なんでしょうね?」
「さぁな、俺らには理解できないことをあの方はいつも考えておられるからな・・・」
「そういえば、そろそろ潜伏してた部隊も活動しはじめるって話ですし。あの方の計画がやっと実行されるってことですよね?」
「ああ、だから俺らもこうして駆り出されて作業してるわけよ。おっと、おまえよそ見せずにちゃんと作業しろよ!特に今おまえが扱ってるものが何かくらいはそのマークを見てわかるだろ?大事に扱えよ」

 注意された男は、指差されたマークを見てギョッとし、かなりのスピードで運転していたトレーラーの速度を一気に緩めた。トレーラーの荷台には、大きなナノスキン加工された箱が積まれており、その側面には黄色の円形の中に赤い三角形の頂点が3つ中心の円に向かうマークが記されていた。その宇宙移民以前から使用されているマークは、その積荷の中身が放射性物質であるということを示していた。

「か・・・核までここに保管するんですか?」
「ああ、これもあの方の計画の一部だ。地球のあちらこちらに、ここと同じように古代のMSを保管してる。ある場所には戦艦まで保管してるらしいぜ。まぁ、ここは戦艦の代わりにもっと凶悪な核兵器を保管するけどな。さぁ、雑談はここまでだ、作業に戻るぞ」そう言い、男たちは命令されている保管作業へと各自戻っていった。



同日 衛星軌道上 外宇宙連合部隊アトロポス 旗艦「ブルーリッジ」 

 太陽の光を浴びて、蒼く輝く地球の風景は何千年経っても大きな変化はないように見える。しかし、実際にはこの3世紀にも渡る戦争の末、大気は汚れ、海は汚染され、地球上に住む多くの生物がその姿を消した。

「人はいつの時代になっても変わらんな・・・」
「シーチィ少佐、何かおっしゃりましたか?」
「いや、何でもない。ただの独り言だ」

 ズン・シーチィ少佐は、いつの間にか独り言を言っていた自分に少々驚きながらもオペレーターに返答した。ズンは、つい先ほどまでブリッジの窓から眺めていた足元全体に広がる蒼い星から、ブリッジ前面に投射されているホログラムに目を移した。ホログラムには、現在共同戦線を張っている新太陽系連邦軍の戦力を示す赤いマークがあった。その赤いマークの倍あるのではないかと思うほど外宇宙連合の戦力を表す青いマークが密集して表示されていた。それを見ながら、よく短期間でこれだけの戦力が集まったものだと感心した。

(アルテミフが地球に戻ってくるのを口実に、主力部隊を地球圏に呼ぶことに成功した訳か・・・カエサー大統領がやりそうなことだ)

 ズンは再び蒼い星「地球」に目を移した。3世紀もの間、両者が命を削り合い戦い続けた理由はただ一つ、この「地球」のためであった。そもそも、この戦争が始まったのは、太陽系連邦による「永久中立地帯」であった地球への侵攻に主な原因がある。

 幾度もの戦いによって疲弊しきった地球を再生させるためには、破壊者である人間を地球から排除するという大胆な政策が、汎銀河共和国によって行われた。地球上に住んでいた人間は例外なく一人残らず宇宙へとその居住を強制的に移され、地球は「永久中立地帯」と定められた。それにより、地球は数千年以上にも渡る人類の支配から初めて解放され、地球は数百年かけて多くの傷を癒すこととなった。しかし、その地球再生計画のプロセスが太陽系連邦の侵攻によって妨げられ、再び地球環境破壊の元凶である人類が再び住むようになってしまった。

「ところで、パイロットは到着したのかね?」
「はい、パイロットは既に到着しておりますが、現在MSを積み込み中です」
「そうか、MSの積み込み作業を急がせろと言え、我々アトロポス部隊は、衛星軌道上に集まってる連中とは別の任務を授かっているのだからな」
「了解致しました」

 積み込み作業が行われている様子を見ながらズンは、オペレーターに命令した。丁度、宇宙空間では非対称のシルエットを持つ銀色のMSターンXがこの船に積み込まれようとしていた。長き戦乱を終わらせることが出来る機体として、外宇宙連合軍内ではもっぱら噂されている。ズン自身も、ターンXに積まれている「月光蝶システム」という兵器が、どのような物なのかは一通り聞いている。しかし、本当に聞かされた通りの能力と威力を持つのか疑問に覚えていた。

(ターンXか・・・このMSが最後の希望という訳か、私にはそうは思えないがな。だが・・・それが真実になることを祈ろう)


同時刻 旗艦「ブルーリッジ」 モビルスーツ格納庫

「へぇー、これがあの有名なターンXか」

 セルヒオ・クロダは、最終戦争前期から活躍していたと言われている伝説の機体に思わず魅入ってしまっていた。興味心からか、セルヒオの足はいつの間にかターンXの頭部にあるコクピットへと向けられていた。

「わっ!」

 コクピットハッチからコクピットへと乗り込もうとした瞬間、セルヒオの目の前に現れたのは蒼い瞳の少女の顔であった。まさか人が乗っているとは予想もしていなかったセルヒオは、驚きのあまり危うくコクピットハッチからころげ落ちるところであった。先鋭MS部隊「ν(ニュー)」のエースパイロットである自分が、コクピットから転落して負傷なんて冗談じゃないと思いながらも、重力制御装置によって発生した人工的な重力はセルヒオを確実に床へと引きつける。床に叩きつけられることを免れたのは、少女がとっさに手を差し伸ばしてくれたからだった。

「あ、ありがとう」
「どういたしまして・・・で、何か御用ですか?少尉さん」

 何事もなかったかのような面持ちで蒼い瞳の少女は、ちらっとセルヒオの軍服の襟元についている階級章に目をやり答えた。

「いや、ちょっとコクピットの中を覗いて見たかっただけさ。なんだって、あのターンXだからな」
「そうですか」

 整備服姿の少女は、「じゃあ、中をご覧になりますか少尉さん?」と言い、セルヒオはコクピット内部に入ることが出来た。セルヒオは、少し彼女が「少尉さん」といちいち付けるのが気に触ったが、伝説の機体であるターンXのコクピットに入ることが出来たのだから、すぐにそんな些細なことはどうでも良くなった。

「これがターンXか・・・ニュータイプが乗って初めて最高のパフォーマンスを出せるわけか」
 セルヒオは興奮気味に思わず考えていることを口に出してしまった。
「少尉さんは、ニュータイプなんですか?」
 間髪入れず、整備服の少女が意地悪っぽく尋ねてきた。一瞬、むっとした表情をセルヒオは見せる。が、この少女がνMS部隊やその部隊で自分がエースパイロットであるということは知る訳もないだろうと冷静に分析し、怒っても大人気ないと自分に言い聞かせた。ため息をつき、笑顔でセルヒオは答えることにした。

「俺も“一応”ニュータイプの端くれさ。これでも、まぁまぁ良い戦績は残してきてるんだぜ?まぁ、この艦に配属されたエル大尉にはさすがにかなわないけどな。ところで、エル大尉ってどんな人か君は知ってるかい?」
 一瞬驚いた表情を少女は見せるが、すぐに優しい表情へと変わった。
「いいえ、会ったことはないので分かりません。少尉さん」
「そうか、おっとそろそろブリーフィングの時間だ。またな、かわいい整備士さん」
「また近々どこかで。少尉さん」
 意地悪そうな笑顔を浮かべ少女は手を振った。セルヒオはどことなく違和感を覚えながらも、笑顔によってさらに可愛さが増した彼女に手を振りながらコクピットを後にしブリッジへと向かった。


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