BEYOND THE TIME 第3話 「ファースト・コンタクト」 | |
P:0000 6月9日 地球圏 ビービービー 鳴り響く警告音、「X」と「:」が重なったようなマークが全天周囲モニターに無数表示され点滅し続けている。 (なんなの?<ターンX>が怯えている?・・・いえ、違うこれは一体なに?) エルは自分ともまた人とも違う思惟が頭の中に流れ込んでくるのを感じていた。すると、正面のモニターに突如ウィンドウが開き<ターンAガンダム>という機体の名前とそのデータと思われる数値が表示された。 「<ターンAガンダム>?あのヒゲの機体の名称?」 エルは<ターンX>という機体にあたかも人格があるかのように質問してしまった自分に驚き、正気を保とうと左右に頭を振った。 「私、どうしちゃったのかしら・・・」 しかし、次の瞬間、機械と人間の声が混じったような合成音声が脳髄に響いた。 (ターン・・Aガ・・ンダムハ、我ガ・・・宿敵) (あなたは、あの機体を知っているの?) エルは<ターンX>と思われる意思に向かって取りあえず問いかけてみた。しかし、返ってくるのは「ターンAガンダムは、我が宿敵」というフレーズのみだった。すると、エルは絶えず流れ込んでくる<ターンX>の過去の記憶からその意味を探り出そうと思惟に意識を集中した。そして先ほど感じた怒りとも憎しみとも言える<ターンX>の感情を理解した。 それは、300年以上前と思われる戦闘風景であった。あの<ターンAガンダム>と呼ばれる機体とこの<ターンX>が死闘を繰り広げ、場所と時を変えながら全く同じような風景が幾度となく繰り返され、そして、いま現実に目の前にいる<ターンAガンダム>を見た。 (テキヲ・・・タオセ) (ターンAガンダムを倒す?) (ソウダ・・・キミナラ・・デキルハズ・・今マデデ・・イチバン・・優秀ダカラ・・) (私が今までで一番優秀?) 『エル大尉!目標は<グローセンバーグ>ではなかったのですか?』 セルヒオの一言でエルははっと我に返った。既に<ターンX>は<ターンAガンダム>と交戦状態にあったことを、初めてこの瞬間エルは悟った。長い間、<ターンX>の意思と話していたと思っていたが、実際には数十秒の出来事であったことが、コクピットのモニターに映し出されている作戦経過時間から理解できた。 『ええ、そうよ。目標は反乱軍の旗艦よ』 すぐに目標である<グローセンバーグ>へと向かわせようとしたが、<ターンAガンダム>がその行く手を阻んだ。すると、<ターンAガンダム>のパイロットから通信が入ったことを知らせる音がなり、通信ウィンドウがポップアップした。そこには、まるで機械のように無表情な紅い瞳を持つ少年がコクピットシート座っていた。すると、突然その少年が口を開いた。 『君も見たんだろ?この二機の間にある因縁を・・・』 『戦闘中の敵相手に何を言うのあなたは!?』 交戦中の相手に通信をしてくるなど非常識な行動を取った少年に動揺しながらも、エルは必死に<グローセンバーグ>へと向かおうと、<ターンAガンダム>を振り切ろうとしたが、尽く進路を塞がれていた。 『君はこの定めから逃げるのかい?』 『なっ?』 『君の機体もこの<ターンA>と戦いたがってるじゃないか?分かるだろう?幾つもの世代を超えた戦いに決着を付ける責任が僕たちにあることを?』 『あなたは、自分で何を言っているのか分かっているの?』 言葉では否定しても、なぜか少年が言っていることに納得してしまっている自分がいた。しかし、そのことを認めるわけにはいかなかった。自分はこの機体のパイロットであり、あくまでも優先されるのは軍の命令だからだ。しかし、その間にも次々と<ターンX>の無機質な合成音声がエルの脳を震わせる。 (決着ヲ) (私、どうしちゃったの・・・?) (ソウ・・決着ヲ・・・ターンAト) (何で私が?私は関係ない!) (関係ハ・アル・・キミハ・我ガ・・パイロット) (そんな理由で?私に関係あると言うの?理不尽過ぎよ!) <ターンX>の思惟が流れ込んでくるにつれて、<ターンAガンダム>と戦いたいという衝動の波が次々とエルを襲う。今まで数多くの戦闘をくぐり抜けてきたが、これほどまで心が動揺したことはない。自分の中の何かがおかしいと思いながらも、その何かがエルには理解できなかった。 『運命を受け入れるんだ。君とその機体を倒し、その<ターンX>を今度こそ完全に葬り去る』 今まで進路を防ぐだけであった<ターンA>が攻勢にでた。<ターンA>の大型ビームライフルにロックされたことを告げるアラームがコクピットにけたたましく鳴り響く。<ターンX>との会話で全く現在の状況を把握していなかったエルは、これから回避運動をとっても間に合わないことを自分の予知能力で理解し、これが自分の最期だと感じとり目を閉じることしかできかなかった。 しかし、いくら経っても何も起こらない。代わりにあの合成音声が頭の中を直撃した。今までは無感情な声であったのに初めて感情的になったような<ターンX>の声だった。 (ナゼ、戦ワナイ!?) エルは、なぜ自分が生きているか不思議でならなったが、すぐにその理由が分かった。<ターンX>は頭、胴、手足と各パーツを自動的に分離しビームの直撃を避けたのだった。エルは、<ターンX>がこのような性能を持っていることを知らされてもいなかったし、今までの戦闘で分離したことは一度もなかったから、ただただ驚くことしかできなかった。 「なっ、どういうこと・・・各パーツがファンネルになるの?」 (ソウダ・・・ターンAニ対抗スルタメ・・・幾多ノ改造ヲ経タ我ガ真ノ姿ダ) 『大尉!大丈夫ですか?』 『無事ですか、大尉?』 セルヒオとクリスからは、<ターンA>のビームライフルが<ターンX>に直撃し、<ターンX>が爆散したかのように見えたのだった。 『ええ怪我はないわ。ターンXには元から各パーツが分離できるシステムが備わっていたみたい』 二人から安堵の息が漏れるのが感じられた。しかし、それも束の間<ターンA>が乗っている下駄のような補助兵器から小型ミサイルが次々と発射される。 『目標を変更。このヒゲの機体・・・<ターンAガンダム>をまず殲滅します』 『了解って、ガンダム!?』 セルヒオとクリスの息のぴったりと合ったユニゾンに感心しながらも、エルは冷静に「そうよ」と返した。 『私の機体が、依然あのターンAガンダムと呼ばれる機体と戦闘した記憶が残っているの。そのデータを二人にも転送するわ』 『確かに、よく見るとガンダムの特徴を備えてるようだけど、あの髭は何なんだ?』 『付ける場所間違えたとか?』 『無駄口叩いてる暇はないわよ』 エルの叱責と同時に三機を狙ってミサイルが飛来する。セルヒオとクリスは避けきれず小規模の爆発が二機の<シング>を襲った。 『二人とも大丈夫?』 『ええ、助かりました大尉』 『大尉、ありがとうございます』 エルが操ったファンネルによってミサイルは<シング>のビームバリアーに直撃する寸前に破壊されたのだった。 『あなたたち、本当にカテゴライズド6なの?』 エルがきっ、と二人をモニター越しににらんだ。セルヒオとクリスはエルの眼差しに少し怖気付いたが、エルが自分たちの命のことを真剣に考えてくれているのだとようやく悟った。 『あなたたちが、今までどのような隊にいたかは知らないけど、戦闘中はふざけないでお願い・・・・・・もう仲間を失いたくはないの』 『えっ、はっ了解いたしました』 セルヒオとクリスはエルに真面目な顔で敬礼する。 『敬礼なんてしてないで手伝ってくれる?』 『あ』 二人のユニゾンがエルのコクピットに響く。くすっと、エルは二人に聞こえない声で笑った。本当におもしろい人達だ。今までの部下とは全く違う性格の持ち主だった。今までの部下と違って自分を「人間」として扱ってくれる・・・・・それだけで私は嬉しい。 エゼエルは「イラつき」を覚えていた。あの銀色の<ターンX>を直撃したと思ったら、バラバラとなったパーツが自分を攻撃し始めたからだった。また、それだけでなくこの機体<ターンA>が突然自分に語りかけてきたことだ。 『あなたの力はこんなものなの?』 「黙れ」 女性の声がコクピットに響く。<ターンA>の思惟が音声となってエゼエルに語りかけるのだった。その声はどこか遠い昔に聞いたことのあるような声だったが、その声の主の顔は思い出せなかった。 『このままだったら、あなたカノジョに負けるわよ?』 「黙れと言っているのが聞こえないのか<ターンA>!」 エゼエルは、はっとする。「感情」が噴き出てきたのだった。おかしい、感情制御システムは正常に動いている、なぜ感情的になっているのだ。混乱、困惑の波が続けてエゼエルを襲う。 『そう、あなたに足りないのは人間らしさ、感情よ』 「キミが僕の感情制御システムに侵入したのか?」 『ええ、そうよ。あなたは機械ではなく、人間でしょ?』 「この98%機械化した僕を人間と呼べるならな」 『いくら、体を機械化してもあなたは人間よ』 「くっ、いいから制御システムを戻せ。戦いに集中できない、このままだと負ける」 『そうね、負けてもらっては困るわ』 一体この<ターンA>の思惟は何なんだ。エゼエルは未知なる存在と遭遇したような気分だった。<ターンA>が今までこのように喋ったことはなかったし、AIか何かが積んであるというデータもない。こんなことを考えている暇はない。今は目の前にいるアルテミフ議長の計画を妨害する<ターンX>とその僚機を排除することだけに集中するだけだ。 大型ビームライフルを構え、<ターンX>を狙い撃つが合体と分解を繰り返し次々とビームを回避する。あたかも、実戦であたかも運用試験をしているかのような光景にエゼエル苛立ち始めた。 「馬鹿にしているのか!・・・また感情制御システムを弄ったのか?」 『いいえ、ワタシは何もしてないわよ』 <ターンA>の意思がにやりと笑ったかのような印象をエゼエルは感じた。それが余計にエゼエルを刺激した。 合体と分離を繰り返し、次々と放たれるビームを避けつつ、エルはこの<ターンX>のファンネルと化した機体の制御方法を模索していた。すると再び合成音声が語りかける。 (戦ウ決心ガツイタカ) 「いちいち語りかけないでくれる。気が散るわ」 (ソウカ。戦ウノナラ、最大限我ガチカラヲキミニ貸ソウ) 「分かってくれてありがとう。で、どうやったらこのファンネル達は言うことを聞いてくれるのかしら?」 次の瞬間、今まで不鮮明にしか見えなかったファンネルの動きが見違えるように感じることができるようになった。エルは思わず「すごい」と呟いた。意識をそこまで集中しなくても、まるで自分の手足のようにファンネル達が動いているのが分かった。今まで様々なファンネル搭載機を操縦してきたが、ここまで鮮明かつ簡単にファンネルを扱える機体はなかった。 「何をしたの?」 (キミヲ我ガパイロットトシテ認メタダケダ。キミの名前ハ?) 「名前?こんな戦闘中に・・・エルよ」 すると、<ターンX>の正面モニターに文字が浮かび上がる。
「何十回もこの機体に乗ってきたのに、やっと私がパイロットとして認められたみたいね」 「ソノ通リデス」 今までとは違い、ターンXの合成音声は脳髄に響くのではなく実際の音としてコクピットに響いた。 『大尉、何ですか今の声は?』 通信回線が開いたままだったので、セルヒオとクリスにも<ターンX>の声が聞こえていたようだった。「Xの声よ」とだけ返し<ターンAガンダム>に向けてファンネルによる波状攻撃をしかけた。先ほどまでの<ターンX>の動きと違うことに、あの紅い瞳のパイロットが驚き慌てた感情をエルは読み取った。このままいけば一気にたたみ込めると判断し、セルヒオとクリスに挟み撃ちをするように指示をする。 ファンネルの猛攻に合い回避行動に精一杯な<ターンA>に、さらにセルヒオとクリスが乗る<シング>によるビームライフルとファンネルの攻撃が加わる。<ターンA>が搭載している対ビーム防御システムである機体をすっぽりと覆うビーム・バリアーによってビームの雨は防がれ機体に直撃はしない。しかし、ビーム・バリアーといっても万能ではなく、メガ粒子のビームを受け続ければ、その許容範囲を超え消滅しMSはビームに対して無防備になる。この時代にはMSのほとんどがビームバリアーを標準装備しており、現代のMS戦ではいかに敵MSのビーム・バリアーを迅速に無効化できるかに勝敗が大きく左右されるといっても過言ではない。 『ガンダムと呼ばれるだけあるな、化け物だこいつ』 クリスは、三機からの集中攻撃を受けてもなおビーム・バリアーで防御している<ターンA>を驚きの表情で見つめた。これだけの攻撃を受けてもビーム・バリアーが消滅しないということは、とんでもないジェネレーターを搭載していること以外に考えられなかった。 『大尉、何ですかあの光?』 クリスの問いかけに対してエルは一瞬何のことか分らなかった。しかし、<ターンA>を注視するとその機体から何やらキラキラと光る粒子のようなものが放出されているように見えた。 綺麗という言葉が似合う光景だったが、それと同時に何か冷たくも残酷な意識のようなものがあの光る粒子に宿っているようにもエルには感じられた。 「警告、<ターンAガンダム>ノ月光蝶システムノ稼働ヲ確認」 「えっ?」 エルは、突然鳴り響いた合成音声に聞き慣れない用語を問い返そうとした。エルが口を開く前に月光蝶システムのデータが正面モニターに映し出される。そのデータにざっと目を通しただけでその月光蝶システムと呼ばれる兵器の威力とその恐ろしさが伝わってくる。大量破壊兵器、いやあの重核兵器ディストーション以上の兵器、文明破壊兵器と言った方が正しいかもしれない。 「こんなのが使われたら、今ここにいる艦隊が消滅するわ・・・」 「ハイ、99.9%ノ確率デ壊滅シマス」 「あのシステムに対抗できるものは何かないの?」 沈黙。 「<ターンX>答えてくれない?何かあるんでしょ?」 「一ツダケアリマス」 「なに?」 「私ノ月光蝶システムヲ使用スレバ対抗デキマス」 「どういうこと、もしかしてこの機体にも同じシステムが搭載されているということ?」 「ソウデス」 「でも、どうやって制御するの・・・こんな複雑なシステムを」 「人ノ意思デス」 「えっ?」 「月光蝶システムハ、破壊ト再生両方ノ側面ヲ持ツ・・・」 <ターンX>の合成音声を遮り警報が鳴り響いた。目と鼻の先に巨大な質量、巡洋艦クラスの物体がワープ航行から脱出してくることを警告していた。ワープ航行から脱出してくる物体の近くにいることは、その不安定な重力フィールドに呑み込まれ、下手をするとこの「宇宙」から消え去る危険性があった。物体が大きければ大きいほど、重力フィールドが展開される範囲も広く、危険度は増すのであった。 『二人とも緊急回避よ』 『言われなくても、わかってます大尉』 『こんな戦場のど真ん中にワープしてくるのは、どこのどいつだ!』 確かにワープ航行から出る時に現れる青色の渦が出現したが、巡洋艦クラスの物体は一向に見当たらない。すると、突如漆黒の闇から銀色のフォルムの巡洋艦が露になった。 『エゼエル、まだ時は満ちていない。すぐに艦へ戻るのだ』 一般の共通回線である人物の声が戦場一帯に響いた。銀河系で一番有名な人物といっても過言ではないこの最終戦争を起こした張本人アルテミフその人の声だった。 第4話「システム」前編へ |
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