Ultimate Justice 第1話〜新たなる戦乱〜


E.P.0044年4月5日 太平洋上

 青い海、青い空、白い雲、そして、光と熱を数億年に渡り1日も欠かすことなく提供し続けてくれている太陽。

(太陽か・・・)

クラスト・ミリングは、眩しい光を手で遮りながら天を見上げた。

(・・・太陽系連邦)

ふと、そんな言葉が頭に浮かんだ。

 宇宙世紀中期は、一般的に「宇宙戦国時代」と呼ばれていた。そんな最中、太陽系中にあった数百以上の国家を一つにまとめあげた樹立したのが『太陽系連邦』だった。その後、300年にもわたって太陽系に秩序をもたらしてきた。まさに火の打ち所のない完璧な民主主義国家だったと、両親から嫌と言うほど幼少時代から聞かされてきた。
 
 でも、それは偽りだった。両親の仕事の関係で、住みなれた地球からL4コロニーへと上った時に通ったハイスクールに入ってから初めて分かったことだが。

 太陽系連邦の腐敗しきった官僚主義。アースノイドを優遇する相次ぐ法律の制定。そして、圧倒的軍事力による抵抗者への徹底的な弾圧。どれも、地球のパブリックスクールで習ったこととは、全く正反対のことを教えていた。それまでは、人類の夢でもあった太陽系連邦を崩壊に追いやったスペースノイド達が憎く、何故太陽系連邦をこれほどまでに嫌うのか理解できなかった。でも、スペースノイドの視点からの歴史を見たとき、自分の偏見はことごとく崩れ去った。

 偽りの太陽系連邦の姿を聞かされ育った自分は、真実をスペースノイドにより教えられ、地球生まれ、地球育ちの自分を「アースノイド」と差別するその理由もわかった。数百年にも渡ってアースノイドによる弾圧に耐えてきたスペースノイドたちが、簡単に両手を広げて受け入れてくれるはずはない。差別を受けるに値する、いやそれ以上の差別をアースノイドは、スペースノイドに対して行っていたからだ。

(一体俺は何を考えているんだ。こんな時に・・・)

 夢心地になっていたのだろうか、無意識にクラストは昔の幼少時代の日々を振りかえっていた。

『ピーッ』と、機械音が鳴り響いた。
 
 その音で、ここがモビルスーツのコクピットの中だったということを、クラストは思い出した。今はMSによる自動操縦で、太平洋上のあるポイントに向かっていた所だった。彼は、ふと後ろを振り返った。一人の女性が補助パイロット用のシートで、瞳を閉じ静かに寝息を立てて眠っていた。

(疲れるのも無理ないか・・・)

クラストは、遠い過去のように数時間前の出来事を思い出した。


1.Storm wind

E..P.0044年4月5日 地球圏連合共和国 首都サッポロ

 クラストは珍しく早起きし、急いで朝食をとり久しぶりにクリーニングに出した制服のジャケットを羽織りマンションを出た。クラストはエレカーで、ミカ・ルケードとキム・ジョンソンのマンションへ向かった。

 ミカとキムは、恋人同士で既に同居しており、結婚式も間近だという噂もある。同居しているおかげで、別々の所へ迎えに行かずに済んだから、クラストに取ってはありがたいことだった。前の基地にいた時は、二人の家が街の正反対にあったので毎朝忙しかったのは、今は良い思い出となっている。
 クラスト自身、何故自分が送迎をしているのか分からなかったが、既に習慣となってしまっていたので、嫌とも思わなくなっていた自分がそこにはいた。
 
 もうすっかり春だなと思いながら、やっと見慣れてきた街並みにクラストは目を移した。住宅密集地に入ると、2人の人物が交差点の横に立っていた。もちろん、クラストを待っている2人だった。

「おっ、今日は珍しく1分も遅れないじゃないか。クラストさんよ」
「当たり前じゃないか。今日が、PEDとして初めて大統領の護衛をするんだからな」

 あご髭を生やした金髪の男が話しかけてきた。キム・ジョンソンだ。その横には、まだ起きたばかりなのか立ちながらメイクをしているミカ・ルケードの姿が目に入った。器用にもメイクをしながら、こちらに朝の挨拶代わりに手を振っている。

 2人を乗せたエレカーは、スピードを上げ高層ビルが立ち並ぶオフィス街を抜け郊外へと走っていった。
 3人は、1週間前までホンコンにある東アジア地区の基地に配属されていた。しかし、突然1階級特進付きの条件で大統領護衛隊(PED)に引き抜かれたのであった。

 着いた先は厳重な警備の下にある大統領官邸であった。今まで、大統領官邸の周辺で護衛はしたことがあったが、運悪く一度も大統領を見ることが出来なかった。エレカーから降りると、すぐに警備員が一人一人のIDをチェックしはじめた。必要以上に長いチェックが終わると、ようやく大統領官邸の敷地内へと入ることが許された。3人は、いつもならよく喋りうるさい方なのだが、もうすぐ大統領に会えることに緊張し誰も口を開かなかった。

 歩くこと数分。とうとう官邸の玄関の前にまできた。しかし、3人とも玄関の前に立ち止まり、誰が玄関を空けるか、いやドアをノックするべきなのか牽制しあっていた。すると、ドアが自分から開き見覚えのある顔が3人の前に現れた。PED隊長のエリク・ナウム少佐だった。

「おい、お前たち何やってるんだ?早く来い、大統領がお待ちだぞ」

 ナウム少佐に連れられるまま、ぎこちない足取りで大統領が待つ部屋へと向かった。3人は、ナウム少佐にならい敬礼をし部屋へ入った。
 
 そこには、いま太陽系でもっとも注目されている女性が整然と立っていた。彼女こそ、地球圏連合共和国(URES)の大統領リナ・ジュミリンだった。腰まで伸びた長い金色の髪、女性なら誰でも憧れるほどスレンダーな身体、そしてその美貌。見たものは誰でも、彼女の虜になってしまうほどの美しさだった。

 何故、彼女がこんなにもスタイルが良いのかと一時メディアが取り上げた。その答えは、大統領になる前までモデルの仕事をしていたので、スタイルには今も気をつけているのだろうとのことだった。

 リナ・ジュミリン大統領は、若干18歳で大統領に就任したこと、又、数年前に暗殺されたジョーイ・ジュミリン元大統領の娘だということで、マスコミは大きく取り上げた。しかし、彼女の出生よりも容姿の方が、国民にとっては大きな話題となった。瞬く間に、彼女は太陽系全土の女性にとって、ファッションリーダーとなり、男女問わず人気のある「アイドル」になっていった。当初は、彼女の容姿だけに注目が集まったが、彼女の大胆な革命的な政策実行能力も、幅広い世代のスペースノイドに支持され、単なる「アイドル」としてではなく、政治家としても評価されるようになった。

 そのリナ大統領が目の前にいる。そう思うだけで、クラスト、ミカ、キムの3人は大統領を直視する事さえままならなかった。

「大統領。この3人は私の部下です」
 
 エリク・ナウム少佐がそう言うと、少佐に向けられていた大統領の視線が、3人の方へ注がれる。大統領は何ともいえない微笑みを見せていた。

「おはようございます。何かあった時は、よろしくお願いします」

 この笑顔を見れただけでも、3人はPEDへ転属して良かったと感じた。PEDは、URES軍の中でも嫌われている部門の一つであった。その理由は、一言でいえば退屈な勤務である。PEDは、大統領を自らの体を張って守るということはない。何故なら、その任務をこなす大統領専属のボディーガード・チームがいるからだ。では、一体何をPEDはするのか?
 実は、PEDの主な任務といえば、演説やパレード時の周辺の安全確保、官邸の護衛、そして大統領専用車の護衛であった。

「ところで大統領、今日の恒例のパレードなんですが、最近大統領の政策に反対するグループが脅迫などを行っているので、オープンカーだけはやめていただきたいのですが・・・」
「それぐらいのことでしたら、構いませんわ」
「そうですか、後この3人はMSのパイロットでして、万が一のためにモビルスーツ3機をパレードに同伴させて頂きたいのですが」
「いいですよ。少佐の方が護衛のエキスパートですから」
「はっ、よろしくお願いします」
 
 ナウム・エンリケ少佐は、ちらりとただ突っ立っている3人を見て、挨拶ぐらいしろと手で合図した。3人は、慌てて挨拶をし大統領官邸を後にした。

『ふぅ・・・』

 3人は官邸を出てやっと緊張感から解放された。3人の顔がパァーと明るくなった。リナ大統領を間近で見れたという満足感からだろう。そこへ、迫ってくる少佐の姿が3人の視界にしっかりと入ってきた。

「お前たち、さっきの大統領に対する無礼は何だ?子供じゃあるまいし、ちゃんと挨拶ぐらいも出来ないのか?」
「申し訳ございません。あまりにも、緊張していたので・・・」
「ふん、あんな小娘・・・いや大統領に緊張する必要はない」
 
 3人とも、少佐の一言を聞き逃さなかった。ナウム少佐は3人の視線に戸惑い、「早く持ち場へつけ」と言い残しその場を去っていった。

「なんだよあれ。リナちゃんを小娘呼ばわりしちゃってよ」
「ほんと、ムカツクよね」
 
 キムとミカが、逃げるように去っていった少佐の背中を見つめながらぼやいている。

(やっぱり、リナ大統領ファンクラブに入っているという噂は本当だったのか)

クラストは、その二人の会話を聞いて確信した。

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