Ultimate Justice
第3話〜動き出す宇宙〜

1.Awakening

E.P.0044年4月5日 ティエラ共和国軍ソル級戦艦「ムンド」艦内


(この船は、月に向かっているのだろうか)
 
 待合室の巨大な窓には、灰色で無機質な月が姿を現していた。月で生まれ育ったキムは、3年ぶりに間近で故郷をみながら、「両親は元気かな?」と、ふと懐かしさに心を奪われていた。

「キム、もしかしてお父さんとお母さんが懐かしいの?」

 意地悪な笑みを浮かべたミカの顔が、キムの視線一杯に広がった。

「バカ言うなよ、誰が・・・」

 懐かしくないといえば、自分の心に嘘をつくことになる。だから、キムはそれ以上言葉を出さなかった。

「誰が何よ?ねぇ」

 ジョイス少佐に案内された待合室の中で、見慣れたミカとキムのやり取りに目もくれず、クラストは部屋の片隅で一人考えにふけっていた。

(何で俺は、あの光の束が敵のものではないと分かったんだ?)

 クラストは、自分が発した言葉――このビームに敵意は感じられない――が頭から離れずにいた。
 
 待合室の自動ドアが空気を排出する音をたてて開いた。小柄な女性と、爽やかな笑み浮かべている男性が入ってきた。あの赤い2機のガンダムのパイロットだろうということは、3人には大体予想がついた。

 この艦艇まで誘導してくれた時に、ジョイス・ミラーと名乗った佐官がクラストに歩み寄ってきた。その眼差しは、自分の考えていることを見抜いているかのようだった。

「君は、ニュータイプだから・・・そう感じたのよ」

 ジョイスの発言に、クラストもだがミカとキムも驚かずにはいられなかった。ジョイスの横にいる男性、彼は笑顔を絶やさずクラストに話しかけた。

「ジョイス少佐の言う通りですよ。クラスト少尉、あなたはニュータイプです」

 表情を崩さぬまま、その男はジョイスの言葉を後押しした。

「ニュータイプ!?」キムとミカの声がユニゾンした。
「いきなり、何を言い出すんだ?」

 クラストの口からも思わず言葉が出てしまった。

「いきなりって、親切にあなたの疑問に答えて上げたのよ」

 ジョイスは首をかしげあなたの方こそ何でそんな質問するの?と言った表情を浮かべながら、クラストを見つめた。

「俺は、何も疑問に思っていない」

 自分の深い部分を触られたような感じがし、クラストは自分がニュータイプだという事実を拒絶した。

「・・・嘘ですね」

 やれやれと言わんばかりに、男が首を振った。

(こいつら、心が読めるのか?)
(そう。私たちは、心を通じ合わせることが出来るわ)
(そうですよ。クラスト少尉)
(なっ!?)
 
 聴覚ではなく、頭の中に直接話し掛けられるような感じがした。いや、実際にジョイスと男の口は開いていない。彼女らは、クラストの心に直接語りかけたのだ。

「そんなバカな・・・」

 クラストは、超常現象を目の当たりにしたように顔を真っ青にした。ミカとキムは、何が起こっているか見当もつかなかった。なぜなら、ただ見詰め合って、突然クラストの顔が真っ青になったからだ。

「ちょっと、あんたたちクラストに何やったのよ?」

 ミカは、クラストを敵から守るように彼の前に出た。その傍らで、キムも彼女らを睨みつけている。

「何をやったって?ただお話しただけよ?」

 ジョイスは、満面の笑顔でミカの視線に答えた。

「おはなし?」

 クラストは、ミカを自分の後ろにやった。

「ああ、そうだミカ。お話中だったんだ。彼女たちと・・・」

 ミカは困惑しながらも、後ろに引き下がった。

「ジョイス少佐だったな。何を言わんとしているのかは分かった。だが、いきなりそんなことを言われても、俺はどう反応をして良いのか分からない。まず、俺は地球生まれだぞ?そんな、俺が何故ニュータイプなんかに・・・」
「地球生まれだから?そんなこと関係ないわよ。だって、人は常に進化しているのよ。人によって個人差はあるし、その環境が左右する。でも、ある日突然覚醒してしまう人もいるのよ。君のように」
「ちょっと、何が何だかさっぱり分からん!クラスト、一体どう言うことだ?」
 
 ジョイスとクラストの会話を遮るように、キムが二人の間に割って入った。しかし、クラストはどう答えていいのか分からず、結局言葉が見つからなかった。
 ニュータイプという存在を、クラスト自身あまり真剣には信じていなかった。当時の軍が宣伝のために作り出した虚像だろうと、心の中で決め付けていた部分も少なからず存在した。だが、その考えは実際に心に語り掛けられたことにより、今まで培ってきた価値観が、全てひっくり返されたような不快感を味わった。

 そのような不快感に浸っていたクラストだったが、突然キムがさっきまで見つめていた巨大な窓の向こう、そう宇宙に何か「敵意」のようなものを感じた。
(なんだ・・・何かが来る?)

 そのクラストの様子を見たジョイスは、微笑を浮かべて言い放った。

「君も感じたでしょう?感じたことを確かめてみれば?そうすれば、君も自分自身で納得できるんじゃない?」

 彼女はそう言い残すと、横に立っていた男と先ほど入ってきた自動ドアを出ていった。クラストには、彼女の後を追う道しか他に道はなかった。

「おいっ、クラストどうしたんだよ!?」

 キムの問いには誰も答えてくれなかった。クラストは無言のまま、キムとミカの前を横切り、ジョイスたちを追った。
 
 キムとミカは、少しのあいだ待合室に取り残された形になった。一体何が起こっているのか、さっぱり分からなかった。二人は顔を見合せ、とりあえずクラストを追うことにした。

2.Sympathyへ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送