Ultimate Justice
第4話〜光〜

1.love and hate

EP0044年 4月7日  ルナポリス連邦 領内

 月は重苦しい雰囲気に覆われていた。それは、ルナポリス連邦――EP0043年に、月面都市の95パーセントが参加して設立された――が、ティエラ共和国を支持すると公に発表したからだ。

 この公表により、ルナポリス連邦はURESと交戦中のティエラ共和国を支援することになり、URESを敵にまわす事になることは誰もが分かっていた。その結果、月面都市のあらゆる宇宙港は、戦場となるであろう月から少しでも遠く離れたいと願う多くのルナポリスの住民によってごった返していた。

 ルナポリスのティエラ支持発表の30分後には、木星圏から冥王星圏まで治める巨大国家、外惑星連邦もティエラ共和国の支援を決定、と同時にURESに宣戦布告をした。この宣戦布告によって、太陽系全土が戦場となりいつ戦火に覆われてもおかしくない状態となった。

 ティエラ、ルナポリス、外惑星連邦の首脳はすぐに合同会議を開き「スペースノイドの解放、自由」を共通の目的とし軍事同盟を結んだ。

 同盟の結果、月周回軌道には凄まじい数の艦艇が勢揃いしていた。木星圏からの支援部隊の第一陣として、惑星間巡洋艦15隻の艦隊が既に到着していた。その後も続々と外惑星連邦から艦隊が向かっているという状況だった。ティエラ共和国は、自国コロニーに防衛艦隊だけを残し、残る全軍を月へと集合させた。


ティエラ共和国軍 ソル級戦艦 大統領室

「早期決着こそが、重要なキーとなる」
 ティエラ共和国大統領ドマスティーは、言葉を発したディスプレイに映る老人を見つめていた。その老人こそ、外惑星連邦の大統領ローセルト・ライネルであった。いつ見ても、不気味な目をしているというのが、ドマスティーの彼に対する印象だった。

「確かに。長期戦に持ちこまれれば、太陽系の端から端まで伸びるであろう補給ラインを、こちら側が死守することは厳しいでしょう」
「その通り。惑星間航行技術は、我が外惑星連邦の方がURESよりは上だが・・・それにも限界がある。今だに、宇宙は人間にとって広すぎるのだよ」
 
 宇宙に進出して数百年経った今も、光を越える速度、超光速航行を実現させることは出来ていない。超光速の研究は、各国で盛んに行われているが、いつ開発が成功するか分からない研究よりも、より現実的な研究の方に資金が流れているの事実である。それが、超光速技術が実現されない要因の一つでもあった。しかし、近年太陽系外の恒星国家が、その技術を開発に成功したという噂もある。

「宇宙・・・いえ、太陽系でさえ我々人類には、まだ広すぎます。・・・しかし、早期決戦に持ちこんでも、果たしてそう簡単にURESは落ちるでしょうか?」
「問題は、URESの新兵器であろう。君たち、ティエラは彼らの新兵器を実際に体験したのだろう?」

 ライネルが言う新兵器とは、URES軍が開発したUBCS(無人戦闘管制システム)兵器のことであった。

「はい」
「それで感想は?」
「意外に厄介だということです。ミサイルの方も、驚くほど俊敏な回避運動を取ります。また、無人MSもやはりベテランパイロット並の動きを見せます。ただ一つ気になるのは、UBCS兵器以外にも何かURESが、MS用に開発したのではないかということです」
「ほう、というと?」
「彼らは、公にはニュータイプ研究は行っていないと言っているのはご存知だと思います。しかし、先日の戦闘で私の方のニュータイプのパイロットが、無人MSではなく、有人MSにてこずったのです」
「そのニュータイプパイロットは、例のMSに乗っていたのかね?」
「はい、勿論です。しかし、今まであの二人がてこずった相手などほとんどいなかったと言っても良いです。それ位、二人のニュータイプ能力はずば抜けています。ですが、それ以上の動きをURESのパイロットが見せた・・・」
「考え過ぎかもしれんぞ。そのパイロットが、君のところへ逃げ込んだURESのパイロットのように、ニュータイプ能力があるのかもしれない」
「はい。そうかもしれません」
 ライネルは、ニュータイプ並の能力を見せたURESパイロットのことなど、微塵も気にせず、すぐに話題を変え締めくくった。
「我々、外惑星連邦の本艦隊は早くても3日後に到着する予定だ。それまで、何とか踏ん張ってもらわなければ困る。特に、月は地球へ侵攻するための重要な戦略拠点だからな。武運を祈る。以上」

 敬礼をしながら、ディスプレイの画面が通常の待ち受け画面に変わるのを待った。

(ふぅ、あの老人と話すと、いつも疲れるな)

 ドマスティーは、額ににじみ出た汗をふき取った。先日の戦闘で、ジョイスとキール二人を苦しめたURESのパイロットのことが頭から離れなかった。

(私の考え過ぎであればいいのだが・・・)


URES軍 ノア級巡洋艦「イワナミ」

「親父、何で俺たちにあの戦艦を沈めさせてくれなかった!?」

 キンブルは、艦長室は防音壁で覆われているに関わらず、通路まで彼の叫び声は聞こえていた。

「言ったはずだ。お前の任務はUBCS兵器の調整だと。なのに、何故勝手に攻撃をしかけた!?」

 親父と呼ばれた男、URES大統領マックス・イナダは息子に怒鳴り返した。その形相に、さすがにキンブルも縮こまってしまった。

「処分を受けなかっただけでも、グリーン将軍に感謝するんだな。どちらにせよ、数日で大規模な戦闘が始まる。そのための貴重な戦力であるUBCS兵器を、お前は独断でどれだけ使用したと思っているのだ?」

 キンブルは、先日の戦闘を全て独断で行っていたのである。しかも、無人MSは50機中の半分を撃破され、ミサイルも30パーセント使い切ってしまっていた。

「一人の指揮官の独断が、勝てる戦を負け戦に変えることもある。それを、心に深く刻んでおけ。命令があるまで、『ジュダ』で待機していろ。これ以上私に恥をかかせるな!」

 通信が一方的に切られた。キンブルは歯を食いしばりながら、父親の言うことを聞いていた。

(一人の指揮官の独断が、負け戦を勝ち戦に変えることだってあるんだよ!)


巡洋艦「イワナミ」 MSデッキ

 先日の戦闘で、キムを死に追いやったMSが、照明がほとんど灯されていないMSデッキで、不気味な青い輝きを見せていた。
「リー少佐、身体の調子はどうですか?」
 リーは、顔を上げその男の顔を見つめた。その男、フィリップ・ヘインズ中尉は、多くの戦場を共にした戦友でもあり、4年前に殺された恋人の実の弟でもあった。
「心配してくれてありがとう。アークスの調整が上手くいったみたいで、軽い頭痛だけで済んだわ」
 その言葉を聞き安心したのか、フィリップの表情が和んだ。
「でも、さすが少佐です。アークスを完全に使いこなせているのですからね。自分なんて、アークスを起動させたら15分くらいで限界ですからね」
「でも、もう大丈夫よ。この調整が終われば、どんなパイロットでも30分以上は扱えるようになるわ」
「ここまで、アークスがこれたのも、少佐のおかげですね」
「そうかな・・・」
「少佐は、もうちょっとで死んだかもしれないじゃないですか?アークスが今あるのは、少佐の頑張りの結果ですよ」

 アークス(Ability Reinforcement Control System)、能力強化管制システムを、URESはUBCSの開発と同時進行に行い、パイロットの能力を一時的に急激に上昇させるアークスというシステムの開発も完了していたのであった。彼女は、このアークス計画の初段階から、テストパイロットとして参加していた。開発初期に、彼女は一時昏睡状態にまで陥ったこともあった。しかし、彼女はめげずに、テストパイロットを続けた。
 フィリップが、アークスが存在するのはリーのおかげだと言った事は、単なるお世辞ではなく事実だった。
 先日の戦闘で、リー少佐の乗る機体には最終調整を兼ねてアークスが搭載されていたのであった。今までは、アークスを起動させると、パイロットは精神的、肉体的に多くな負担がかかる為、各パイロットによって起動させられる時間というのは限られていた。しかし、今回のリー少佐による調整により、どんなパイロットでも30分間は起動させることが可能となったのである。

「私には、宇宙人のような超人的能力なんてないから。だから、宇宙人に勝つにはこのシステムが絶対に必要だったのよ。アークスがなきゃ、宇宙人とまともに競り合えない自分も情けないけれどね・・・」
 アークスが搭載されている、コンピューターをまるで自分の子供のうように撫でながら遠くを見つめていた。彼女にとってアークスは、死んだヨセフスと自分を結びつける子供のような存在なのかもしれない。

「・・・少佐をここまで動かしてきたのも、兄への愛からですか?」
「・・・愛?そんな綺麗なものじゃないわよ。・・・・・・私をここまで動かしてきたのは、ヨセフスを殺した相手に復讐するため・・・そう、憎しみよ」
 最後の言葉を言いおわる前に、リーは純粋過ぎるフィリップの瞳から、視線をそらせた。フィリップは、彼女の横顔から一瞬だが恐怖というものを感じた。

(ここまで、憎しみは人を突き動かすことが出来るのだろうか)

「もう要件はない?アークスの微調整をしないといけないから」
「あっ、はい。では!」
 フィリップは敬礼をし、青い機体から遠ざかった。
「アークスと、UBCSか・・・。URESは、とんでもないもの作っちゃったな」
 ぽりぽりと頭をかき、フィリップはMSデッキを後にした。リーは、フィリップがいなくなったことを確認すると、調整の為に動かしていた手を休め、一息ついた。

(愛か・・・。私、ヨセフスをまだ愛しているのかな?)

 こんなことを考えている場合じゃないと、彼女は頭を左右に振った。

「ヨセフス、これが完成すれば・・・やっとあなたの仇が取れるわ」
 リーは、ヨセフスからプレゼントされたネックレスにそっとキスをした。そして、また黙々とアークスの微調整を行うために、キーボードに手をのばした。

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