Ultimate Justice
第5話〜撤退〜

1.decision

EP0044年 4月9日 月周回軌道

 数十、数百という数のMSのテールノズルの閃光が、灰色の星へと向かっている。その光の中心に、ルーン・リーが操る青い機体はいた。そして、その横には、同じタイプの黒く塗られた機体があった。

「リー少佐!月周辺に展開している敵艦隊に大損害を与えたと、報告が届きました!」
 ノア級巡洋艦「イワナミ」のオペレーターの興奮した声が、ルーン・リーのヘルメットに内臓されているスピーカーから、大音量で流れた。
「もうちょっと小さな声で喋ってちょうだい」
「は、はい。すみません」
「情報はそれだけ?敵MSは迎撃に出ているの?」
「え〜っと、はい約50機は・・・」
「あと、あのバカでかい船は沈んだの?」
「・・・沈んでいません。ビームバリアーらしきものを搭載しているらし・・・」
「了解、もういいわよ」

 オペレーターの声が、ぷつんと途切れた。ルーン・リー少佐が、一方的に回線を切ったのであった。「イワナミ」のオペレーターは、興奮したらいつまでも喋ると言う癖をもっていたからだ。彼女は、通信回線をプライベートに切り替えたことを確認すると、ゆっくりと喋り出した。

「まさか、核を使うとはね・・・」
「旧世紀のこっとう品が、まだ存在していたことが信じられませんよ。でも、我々攻撃隊が楽になったのは確かですね」 

 冷静な男性の声が、彼女のヘルメット内に響く。恋人だったヨセフスの実の弟、フィリップ・ヘインズ中尉の声だった。容姿も似ているが、声もそっくりで、自然とリーはヨセフスのことを思い出してしまう。
「そうね。こちらは第一波が120機、同じ規模のが第四波まで続くわ。それに対して、相手は50機前後、多くても100機。戦力差はこちらが圧倒的に有利ね。あとは・・・」
 リーは、横に完璧なフォーメーションで飛んでいる無人機を、ちらりと横目で見つめた。
「この無人機マオンが、どれだけ成果を見せてくれるかしらね」
「そうですね。マオンが、どれだけの戦いをしてくれるか。でも、パイロットたちもアークスを使えるようになったので、大分戦果は期待できると思います」
「だといいわね」
「では、少佐、またイワナミで!」
「了解」

 フィリップの乗る黒く塗装されたジェスIIIは、2機の無人機の僚機と共に、リーの編隊から離れていった。リーが目を月に向けると、華やかな光がついたり消えたりしていた。既に、攻撃隊の先頭が交戦状態に入ったのであろう。それを確認すると、いつものようにネックレスに口付けをし、ヘルメットのバイザーを閉めた。それは、彼女にとって戦闘に入る前の一種の儀式となっていた。


ティエラ共和国軍 戦艦ムンド 戦闘ブリッジ

「敵MS接近中、数・・・100以上!」

 オペレーターの悲痛な声がブリッジ中に響いた。先ほどの核攻撃で運良く助かり、非常脱出ポッドで脱出した者の救出が終わったばかりだった。
 リュウ・ドマスティーの頭の中では、「撤退」という2文字が浮かんでいた。しかし、戦略的に重要な月を失うわけにはいかなかった。ドマスティーは、腕を組みながら悩んでいた。

(これほどまでの戦力を、URESは整えていたのか・・・不覚だな・・・)

「残存の艦艇の数は?」
「28隻です」
「28隻か・・・。50隻以上やられたということか」
「航行不能な艦艇は放棄しろと、外惑星連邦の連中にもに告げろ!」
「そのようなこと、勝手によろしいのですか?」
「構わん、信号弾を送れ!責任は私が取る」

 このオペレーターの報告を聞き、ドマスティーは撤退を決断した。

(月の宙域さえも守れないか。あの老人に怒られるな・・・)

 URESは、無人機による自爆核攻撃により、78隻の反URES勢力の戦力を75パーセント近く削ぐ事に成功した。地球圏に向かっている外惑星連邦の大艦隊が到着する前に、せめてティエラ艦隊だけでも壊滅させるというのが、URESの目的であった。それは、まさに成功しつつあった。


「MSが全機帰艦するのを待つな!生きている艦艇は、すぐに離脱を開始しろ!」」
 リュウ・ドマスティーの大声が、ブリッジ・クルーの耳に入る。
「パイロットたちを見捨てる気ですか?大統領?」
「そうではない。残っているパイロットには、ムンドに帰艦するよう伝えろ。充分スペースはある。ムンドは、艦隊の離脱コースとは別のコースを取り、敵を一つでも多く引き寄せる」
「この艦を沈める気ですか?」
「そうは言っていない。何とかして生き延びるさ。この艦は大き過ぎる。艦隊と一緒に行動すれば、すぐに艦隊も見つかってしまう」
「しかし、あまりにも無謀ではないですか?敵機は数百いるんですよ?」

 大統領の揺るぎない表情を見て、オペレーターはそれ以上を言うのをやめた。大統領の声が月の宙域に展開している艦艇にも届いたのか、一斉にエンジンに火が灯り、艦艇が全速力で離脱し始める。

 戦艦「ムンド」の、戦況を映し出しているスクリーンでは、次々と艦艇が月の周回軌道から離脱して行く姿が、リアルタイムで映されていた。それを確認すると、別ルートに戦艦ムンドは動き出す。

 敵接近の警報が、ムンドの艦内に響き渡った。

「MS部隊接近中です!」
「敵も、大きな獲物が良いらしいな」
 ドマスティーの思惑通り、URESの攻撃隊は月から離脱した艦隊を追わずに、巨大戦艦をターゲットにした。

「MS部隊は出れるか?」
「はい」
「ガンダムはどうだ?」
「2機出せます」
「ガンダムのパイロットは、誰だ?」
「クラスト・ミリング少尉と、キール・クレーシー大尉です」
「そうか・・・。まだジョイスは出れないか?」
「はい、残念ながら」
「各パイロットに、艦隊が離脱するまでの、時間稼ぎだけしてくれれば良い、と伝えろ。艦隊が離脱したら、速やかに帰艦しろともな」
「了解しました」

 ジョイス・ミラー少佐は、あの青い機体との戦闘後、精神的に不安定な状態に陥っていた。数日経った今も、精神は不安定で、多大な集中力が必要とするガンダムを操縦することは、まともに出来る状態ではなかった。

「クラスト、大丈夫か?」

 キールの声をが聞こえたのは、クラストがMSデッキへ通じる通路のリフト・グリップから手を離した時だった。無重力で流れていきながらも、巧みにも身体を回転させて、キールの方へ向けた。

「ああ、大分宇宙にも慣れた」
「いや、そうじゃなくて、身体の方だよ。連続しての出撃じゃないか?」
「そんなに俺はやわじゃないよ。それに、俺達がこの敵さんを食いとめなきゃ、離脱した艦隊もすぐに追いつかれてしまうだろ?」
「君は、つい数日前までURES軍人だった。なのに、何でここまでスペースノイドに、手を貸してくれるんだい?」
「それは、何ていうか・・・言葉じゃ説明できないな・・・」
「ごめん、僕の方が変な質問しちゃったようだね」
「いや、良い。ちゃんと答えられるように考えておくよ」

 そう言い残し、クラストは赤いガンダムへと流れていった。キールが指摘した通り、クラスト自身、何故自分がここまでしてスペースノイドの為に戦うかよく分かっていなかった。

(本当に、俺は何の為に戦ってるんだ?)

2.Colors
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