Ultimate Justice 第6話 〜死の岩〜

1.back stairs front

EP0044年4月11日 月面恒久都市「フォン・ブラウン」

 宇宙世紀時代に完成した月面恒久都市「フォン・ブラウン」。未だに、その都市は色々な意味で活気に満ちていた。グラナダと共に、フォン・ブラウンはルナポリス連邦には加盟しなかった。その理由――巨大軍需産業コズモス・エレクトロニクス社の二大工場の存在――を、月面の住民なら誰もが知っていた。
 URES軍の最新鋭無人MS「マオン」の50パーセント近くが、この二つの月面都市のコズモス・エレクトロニクス社の工場で生産され、新たなMSの開発も進められていた。URESと関係が深いコズモス・エレクトロニクス社が、敵対関係にあるルナポリス連邦への加盟を許すはずかなかった。
 
 フォン・ブラウン港には、コズモス・エレクトロニクス社のロゴマークが至る所に見て取れた。そこには、URESが核を持ってしても沈める事が出来なかった巨大戦艦の同型艦が、URESの巡洋艦と同じ港に仲良く肩を並べている。誰が見ても、異様な光景だと思うであろう。しかし、港には一切民間人が入る事が出来ないように、厳重な警備網が敷かれていた。その警備の様子も、月の住民の目には異様に見えた。何故なら、警備をしている兵士が、見慣れている白いURES軍服だけではなく、赤い軍服を着た兵士も、多く混ざっていたからである。

 テーブルと4つの椅子。本当に、それだけしか存在しない質素な待合室では、4人の人物がテーブルを挟んで座っていた。一人は、あのマックス・イナダURES大統領、その横にはシール・グリーン将軍。彼等と対面して座っているのは、外惑星連邦の大統領であるローセルト・ライネルと、その息子であるヨシュア・ライネル中佐であった。誰一人としても、このような待合室で首脳クラスの会談をするとは思わないであろう。しかし、何故このような待合室が選ばれたのか。それは、単に港のドックから最短距離にあるという理由からだった。

 双方の護衛兵が、待合室から出ることを確認すると、マックス・イナダが最初に口を開いた。

「長旅ご苦労様です。ライネル大統領」
「ふん、こんなもの恒星間の旅に比べれば、短いものよ」
「・・・そうですか。しかし、先日の外惑星連邦の演技は見事でした。お蔭様で、ルナポリス防衛隊は全滅、ティエラ艦隊も90パーセント殲滅できました」
「それは良かった・・・・・・だが、我々の艦隊にも手を出したな?数隻が沈んだと報告を受けたぞ?」
「申し訳ございません。私の部下が勝手に動いてしまったために・・・」
「まぁいい。どちらにせよ、先発隊として送った艦隊は古い艦だけだ。それに、軍内部の厄介な反対勢力も始末できたしな」

 緊迫した雰囲気が、その部屋には満ちていた。この雰囲気にヨシュア・ライネルは圧倒され、いつの間にか額に汗をかいている自分に気が付き、ハンカチで汗を拭った。ヨシュアは、内心困惑していた。それは、目の前にいる二人のアースノイドから、凄まじいプレッシャーを感じていたからだ。

「さて、では本題に入ろうか?イナダ大統領」
「そうですね。私達もあまり時間はありませんので。休戦協定には、もう目を通されましたかな?ライネル大統領?」
「ああ、既に目を通したよ。ルナポリス連邦、ティエラ共和国は解体され、君たちURESの自治下になる。その代わり、君たちはEP0003年に締結した小惑星帯分割条約を破棄し、君たちが支配していたガンマ、デルタ両地帯を我々に譲る。大まかに言えば、このようなことだろう?」
「その通りです。あと、この1ヶ月間はお互いの領土を侵犯しないという項目もあったはずです」

 はて、そんな項目はあったかな?といった表情で、ライネル大統領は老いによってしわくちゃになった顔を、さらにしわくちゃにさせた。そして、また真面目な表情に戻り話しを続けた。

「・・・そうだったな。そのような項目も確かにあった。それでは、我々は色々と準備があるので、そろそろ地球圏を後にするよ」

 ローセルト・ライネルと、ヨシュアが立ち上がりその場を去ろうとすると、今まで口を閉じていたグリーン将軍が口を開いた。

「ライネル大統領。あのティエラの巨大戦艦。URESの領内を出て、そちらの国境付近に侵入したのをご存知ですか?そちらで、あの戦艦の処理を行って頂けないでしょうか?」
「1隻の戦艦も、URESは自分の力で沈める事が出来ないのかね?」

 この言葉に、マックス・イナダはカッとなり立ちあがろうとしたが、それをグリーン将軍が阻止し、謙虚にまた話し出した。

「私も歳を老いましたが、あの戦艦がどうも私の頭から離れないのです。何か厄介事の原因になりそうで・・・昔からの軍人の勘ですよ」
「グリーン将軍が、そこまでおっしゃるのなら、我々が処理致しましょう。しかし、それはティエラが、あの中立地帯から出てこれたらの話しですがな」
「といいますと?」
「あそは、そう『死の岩』と呼ばれている集団が居座っている場所です。あそこを通る艦は、二度と出てこないか、出てきても生存者が一人もいないか、どちらかしかないのです。我々外惑星連邦も、避けて通る地帯ですよ。もし、生きて出てきたら、我々が処理しますので、ご心配は無用です。それでは、失礼する」
 
そう言い残すと、ローセルト・ライネルとヨシュアは、さっそうと待合室から出て行った。
 
 ヨシュアは、やっとあの雰囲気から解放され、母艦へと続く廊下で乾ききった口を開くことが出来た。

「何故、休戦協定なんて結んだのですか?」

 ローセルト・ライネルは、ヨシュアの大統領でもあり、父親でもある。ローセルトは、ヨシュアが『大統領』と会話の冒頭につけない場合、それは階級のない、親子の会話だという事を理解していた。

「ヨシュア。戦争は、ドンパチをやるだけが戦争ではない。時には、じっと待って耐えることも勝利するためには必要なのだよ」
「しかし、これほどの戦力があれば、この1ヶ月でアースノイドどもを屈服させる事が出来たはずです!」
「ヨシュア。今、我々が月宙域に展開している主戦力を叩いても、URESにはまだ戦力が残ることになる」
「どういう意味です?」
「・・・」

 外惑星連邦の旗艦であるソネ級「ヒンメル」は、ティエラ共和国軍が所有するムンドと同型艦である。「ヒンメル」は、フォン・ブラウンが有する巨大宇宙港にも入ることが出来ず、フォンブラウンを少し離れた場所に停泊していた。そのため、二人は小型連絡船に乗りこまなくてはならなかった。

 連絡船に乗り、「ヒンメル」のブリッジへ辿りつくまで、ローセルトは口を閉じたままであった。ブリッジに入ると、ローセルトは無言でヨシュアに小型情報端末を渡した。そのディスプレイには、火星とその2つの衛星についての情報が表示されていた。

「なっ!?」

 ヨシュアは、それを見て驚きの声をあげた。彼が驚いたのは、火星圏にある全てのURES基地と、その戦力の合計値を見たからであった。

『モビルスーツの数2400、艦艇223』

 そうディスプレイは語っていた。これは、地球圏に展開しているURESの戦力と、ほぼ同規模の戦力が火星にあるという証拠だった。この情報端末を見て、やっとヨシュアは父親がすぐに戦争を始めない理由を悟った。

「これで疑問が解けたかな、中佐?」
「はっ。全ての疑問が解けました。大統領」

 軍艦の中では、親子という関係は存在しない。ヨシュアは、完璧な敬礼を返した。それは、彼が大統領の息子としてではなく、一軍人へと戻ったことを示していた。


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