Ultimate Justice 第7話 〜赤い機体〜

1.no choice

EP0044年4月14日 戦艦ムンド ブリッジ

 上から下まで、黒いノーマルスーツを身に着けた兵士らしき人物が続々と、ブリッジに入ってきた。その中で、一人だけヘルメットが赤い人物がいた。赤いヘルメットを被った男は、キャプテンシートに座るドマスティーの前に立ち、バイザーを開け、ドマスティーを直視した。

「初めまして、リュウ・ドマスティー大統領」

 ドマスティーは、その男の顔に見覚えがないか、自分の記憶を辿った。

「初めまして・・・だな。デス・ロックスの・・・」
「エスティン・シャアです」

 ドマスティーが見せた表情で、シャアは何を言いたいのかを悟ったのか、小さな笑みを浮かべた。

「私の名を聞くと、会う人は皆、あの宇宙世紀のシャアを連想させるんですよ。私は、宇宙世紀のシャアとは全く関係ありませんのでご心配なく」
「そうか・・・、それを聞いて安心した」
 
 シャア・アズナブルの消息が分からなくなってから、数百年という時が経つというのに、今だに反URESのテロリストの中には、『自分はシャア・アズナブルの再来』とか『ジオンを復活させる!』などという者が存在している。シャア・アズナブルという人物は、あの白い悪魔のパイロットであるアムロ・レイと共に、今でも多くの人々に英雄として知られている。
 
 何故、ドマスティーがその名に反応したかというと、真意は定かではないが、宇宙世紀中期には、シャア・アズナブルのクローンが現れたという逸話も残っている。秘密裏に、ニュータイプ主義を掲げる外惑星連邦なら、シャアのクローンを新しい指導者として祭り上げる可能性があったからである。

「では、デス・ロックスのシャア殿、私達の戦艦を占拠してどうするつもりです?」
「私達は、別にこの戦艦には興味はありません。確かに、太陽系内の最先端技術を使っているようですけれど、私達カイネーンにしてみれば、おんぼろの旧式ですよ」
「カイネーン・・・?」
 
 ドマスティーが、どこかで聞いた事のある言葉だと、何とか思い出そうとしていると、横にいたリナ・ジュミリン補佐官が代わりにその答えを述べた。

「・・・エイレーネの方々・・・ですか?」

 リナの言葉を聞き、シャアは驚いた表情を見せた。エイレーネ恒星国家の人々は、自分たちを『カイネーン』と呼んでいる事は、ほとんど太陽系内では知られていなかったからである。

「ほぉ、まさか太陽系の方々が、私達を覚えているとは夢にも思いませんでしたよ。もう忘れられているかと思いましたよ」
 シャアの言葉に、周りの黒いノーマルスーツを着た兵士も頷く。
「本当なのですか?」
「ドマスティー大統領。既に、あなたは私達の技術を先ほどの戦闘で見ましたでしょう?」

 シャアの言う通り、先ほどの先頭ではティエラのMS、そしてこの戦艦ムンドは全く歯が立たなかった。かすり傷一つさえ、デス・ロックスの巡洋艦に与える事は出来ていない。それを思い返しながら、ドマスティーは納得し頷いた。ところが、リナは強い口調で言った。

「しかし、何故『平和主義』を唱える恒星国家が、このような兵器をお持ちなんですか!?」

 リナの指摘は正しかった。太陽系連邦の発足と共に、エイレーネという恒星国家は誕生し、太陽系連邦と交流があった当時は、平和主義国家として存在しており、一切の軍事力は保持していなかった。

「・・・リナ・ジュミリン元URES大統領は、歴史にも精通しておられますなぁ」

 大げさに、シャアは腕を組み感心したような仕草をした。それを、リナは睨みつけた。その視線を感じ、シャアはすぐに真面目に語り始めた。

「しかし、その歴史は既に100年以上前のものですよ。時代は変わるのですよ・・・」

 100年以上前の、太陽系連邦の混乱期に、エイレーネ恒星国家とは交流が途絶えている。誰も、このシャアという男が言っていることが、真実か否かを確かめる事は出来なかった。リナは、納得はいかなかったが、返す言葉が見つからなかった。

「では、何がお望みなんだね?」
 ドマスティーが、改めてエスティン・シャアに聞きなおした。
「一部始終は見させてもらっています。URES、外惑星連邦にも見放されたのでしょう?ならば、私達デス・ロックスと手を組むというのはどうでしょうか?」

 あまりにも突然の提案で、ドマスティーもリナも顔を見合わせた。これは、思いもよらない好機だった。しかし、ドマスティーもリナも、その裏に何かがあるのでは?という疑念も捨てることは出来なかった。が、すぐに二人は自分たちに選択肢はないという現実を見た。既に、戦艦ムンドは武装した数百名の兵士で占拠され、ブリッジの壁の仮想窓にはデス・ロックスのMSが、ビーム兵器の銃口をブリッジに向けている。二人は同時に、同じ事を考えた。

(断れば、死しかない・・・か)

 二人の顔をシャアは見ると、承諾したと悟りドマスティーに手を差し出した。

「では、まず私達の本拠地に参りましょう。そこで、これからのことをゆっくりと話し合いましょう。同志よ」

 デス・ロックスのMS部隊と巡洋艦に守られながら、外惑星連邦もURESも入ることのない、アステロイド・ベルトの奥深くへ戦艦ムンドは姿を消した。


2.only wayへ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送