Ultimate Justice 第12話 〜波〜
1.where the truth flows

EP0044年6月2日 外惑星連邦 戦艦『ヒンメル』

「今日、ここに御二人を招いたのは、我々の思惑を知って頂くためです」

 そう口火を切って話し始めたのは、外惑星連邦大統領ローセルト・ライネルである。

「承知しています。しかし、一つ疑問があります」

 今、リュウ・ドマスティーの目の前に座る老人は、1度は自分達を裏切った。しかし、同盟を結び、数週間共にしただけで、今まで心の内にあった怒りや憎しみが嘘のように消えつつあった。そんな自分の心境の変化に少々驚いていた。そんな時に、「三人だけで食事会をしたい」とライネル大統領が直々に要望をしてきたのであった。そこで、またドマスティーは驚くことになる。招かれた三人とは、ライネルとドマスティー、そしてエスティン・シャアではなく、リナ・ジュミリンのことであった。

「・・・何故、私がエスティン・シャア閣下ではなく、リナ・ジュミリン補佐官を今日の食事会へ招いたという事かね?」
「はい、そうです」

 リナも黙って、ライネルが答えを口に出すのをただ待った。

「エスティン・シャア、彼は油断ならん」
「どういうことですか?」ライネルの意外な返答に、リナは無意識のうちに口を挟んでしまった。

「君達二人に、彼自身から説明しているかもしれないが、彼はアウトサイダーだ。確実に」
「アウトサイダーというのは?」
「あまり君達には馴染みのない言葉だったな。アウトサイダー、つまり外の者だということだよ」
「確かに、彼自身そうおっしゃっていました。この太陽系の均衡を保つ為に、恒星国家から遣わされたバランサーだと」
「バランサー?均衡を保つだと?ふん、よくそんなことが言えたものだ」

 その言葉に、ドマスティーとリナは困惑した表情を浮かべた。

「いいかね、彼らこそがこの太陽系の秩序を乱してきたのだよ!」

 ライネルの顔は怒りに満ち溢れ、何もない空間を睨みつけた。あたかも、そこに、怒りの対象がいるかのように。一瞬の沈黙の後、再びライネルは口を開いた。

「・・・デス・ロックス、彼らが太陽系連邦を崩壊に導いた張本人だ」
「どういうことです?」
「彼らは、300年以上前にエイレーネ恒星国家、いやエイレーネ平和主義国家を、太陽系外に建国した人類の末裔であろう。エイレーネは、最初の100年間は、その名のとおり完全平和を実践した国家だった。しかし、その繁栄の中、宇宙世紀の始りと同様に、人口増加が問題となり、彼らは数多くの恒星系へとその生活圏を広げていった」
「それと太陽系連邦の崩壊と、一体何の関係があるんです?」
「まぁ、そう急ぐな。1世紀前には、地球生まれの開拓者から、恒星系生まれの者たちへと世代交代が行われた。その中のある者は、人類発祥の地である太陽系、特に地球を訪れたいと強く願う者が多くいた。当時、国交が存在した太陽系連邦に、彼らは数十万人規模の帰還許可を申し出た。どのような、返事を太陽系連邦は返したと思う?リナ補佐官」
「・・・ノーですね」
「その通り。太陽系連邦は、地球への人口増加を懸念した。というよりも、官僚である自分達の住む場所がなくなるのが恐かったのだろう。太陽系連邦は、その申し出を拒否した。しかし、外宇宙人は忍耐強いのか分からんが、数百回にも及ぶ交渉で、1度に訪問する人数を数十人規模に縮小するとまで言ったが、それでも太陽系連邦は首を縦に振ることはなかった」
「それで、太陽系連邦を打倒するしかないと考えた・・・・でも、その時にすぐに武力で侵攻すれば・・・」
「よかった。だが、彼らにはその当時、戦力という戦力はなかった。まだ、平和主義の名残があったようだ。そこで、小規模な戦力を編成し、秘密裏に送りこみ破壊工作、情報の錯乱など、色々な任務をさせた。それが、デス・ロックスと呼ばれる部隊だ。アステロイド・ベルトは、身を隠すのに適した場所だったのだろう。その後、彼らはスペースノイドとアースノイドを決定的に対立させる事件を起こした」
「まさか、連邦議会爆破事件!?」

 リナは、その事件の名を思い出した。連邦議会爆破事件――その名の通り、当時、月面に設置されていた太陽系連邦議会が開催中であった時、何者かが仕掛けたスーツケース型爆弾により、多数の死傷者を出した事件である。そして、この事件の首謀者は、太陽系連邦と対決の意を露にしていた「ニュータイプ原理主義」であると、太陽連邦は断定した。既に関係が悪化していた外惑星圏と、太陽系連邦を対立させる決定的な事件となり、十数年にも及ぶ「ニュータイプの反乱」へと発展したのであった。

「それが、太陽系連邦を崩壊に導いたニュータイプの反乱の始りだった?」
「そうだ。そして、今彼らが本格的に動き出したということは・・・」
「太陽系に侵攻してくる、本隊が来ると言う事ですね」

 リナが、そう自分に言い聞かせるように呟くと、ライネルは頷き、笑みを浮かべた。

「やっと、御二人も現状がわかったようだ。だから、リナ補佐官を呼んだ」
「だったら何故、私がURES大統領であった時に、そのような重大問題をおっしゃって下さらなかったのです?」

 リナは、険しい表情でライネルを見つめた。ライネルは、真直ぐにその視線を見つめ返した。そして、リナに鋭く突き刺さる言葉を言い放った。

「もし、あなたが大統領であったのなら、今の話しを信じたかね?」
 
 リナは、ライネルの視線を避け、下を向き頭をゆっくりと横に振った。
――もし、私が大統領の時、このような話をを聞かされたら、絶対に信じなかった)

「リナ補佐官、あなたは、エイレーネの完全平和主義を理想とされていた。それは良い事だ。しかし、私が外宇宙から敵が来ると言っても、耳を傾けなかっただろう。そうであるのならば、あなたを失脚させる必要があった。あなたが失脚した後、我々はマックス・イナダと手を結ぶ予定だった。しかし、我々とイナダとの間の思想、主義の溝は思った以上に深く、交渉は決裂してしまった。その結果、共に太陽系を守るはずが、戦う羽目になってしまった。イナダは、当初からその予定だったらしいがな・・・。結局は、デス・ロックスの思った通りになってしまったわけだ」
「そんな、主義、思想の違いで・・・」
「主義や思想の違い、それこそ我々人類を形成しているものだ。そう簡単には変えられないのだよ。我々も、分かり合えなかった。ニュータイプ主義国家と自称しながら・・・だ。私を憎むのなら、憎めばいい。しかし、せめてもの償いに、御二人に真実を知ってもらいたくてね」
「あなたを憎むことはしませんよ。しかし、現実的にURESとの和平は無理なのですか?」

 じっと聞いていたドマスティーがライネルに尋ねた。もし、ライネルが言っている事が本当であるのなら、いつ外宇宙から大艦隊が攻めてくるか分からない。そうであるのなら、一刻も早くURESと太陽系の共同防衛作戦を展開させなければならないからだ。

「URES、いやイナダは、本気でスペースノイド、特に地球圏外のスペースノイドを虐殺しようと考えておる。現実に、URESは次々とNBC(核、生物、化学)兵器を積んだ艦隊をいくつも編成しておる。それに、ウィアロンさえ使用したのだ。今更、NBC兵器の使用を躊躇するわけはないだろう。イナダの望みは、我々スペースノイドなしの太陽系だよ」
「そうであるなら、URESを一刻も早く打倒し、太陽系を安定させ、外宇宙との対決を考えなければ・・・」
「問題はそこだよ。ドマスティー大統領。我々は、半世紀かけてURESを転覆させる程の戦力を準備した。しかし、まさかあのウィアロンを使用するとは予想していなかった。今は、URESが圧倒的に有利な状況だ」
「しかし、外惑星連邦はあの無人兵器を無効化するウィルスを発明したのでは?」
「発明はしたが、既にURESはそのウィルスを無効化する修正プログラムを全無人機に搭載している。新たなウィルスを、何度か試したが、修正プログラムの完璧と言っていいほどの防壁に阻まれておる」
「そんな、外宇宙からの敵が攻めてくるというのに、何も対応ができないのですか?」
「URESの圧倒的有利という状況であるから、我々はデス・ロックスと手を結んだのだよ?そうでなければ、手を結ぶ前に蹴散らしていたわい!」
 
 ライネルは、ドマスティーに苛立った気持ちをぶつけるようにそう言った。

「取り乱してしまってすまない。デス・ロックス、彼らをどうするか、これからどうするのか、太陽系の存亡をかけたこの現状に、御二人の助言が必要だから、ここに呼んだわけだ」

 リナとドマスティーは、初めてこの戦争の裏で密かに流れていた真実を知った。外宇宙という忘れ去られた世界から、いつ襲ってくるか分からない敵。映画のような世界が、現実であることを、そして、国家の頂点に立ちながらも、全く知らなかった自分たちの無知さ、その両方を身に染みて感じた瞬間だった。


2.facing the past
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