Ultimate Justice 第13話 〜衝突〜
1.where they meet again

EP0044年6月12日 月面恒久都市 フォン・ブラウン

 この3ヶ月という短い期間で、世界情勢は目まぐるしくその姿を変えた。2ヶ月前に、外惑星連邦とURESとの間で休戦協定が結ばれた。それは、ティエラ共和国とルナポリス連邦の解体、アステロイド・ベルトの譲与、そして一時的な休戦を約束した。しかし、その休戦協定は僅か7日でその役目を終えることとなった。

 今、その協定が締結された同じ部屋で再び会談が開かれようとしていた。そこには、外惑星連邦大統領ローセルト・ライネル、作戦司令官ヨシュア・ライネル、URES大統領マックス・イナダ、最高司令官シール・グリーンの4人の姿があった。だが、前回とは何かが違った。解体されたはずのティエラ共和国大統領リュウ・ドマスティー、そして、外惑星連邦とURESの謀略により失脚された元URES大統領リナ・ジュミリンの姿があるからだ。

 リュウ・ドマスティーと、リナ・ジュミリンが部屋に一歩足を踏み入れた時、既に着席していたマックス・イナダとシール・グリーンは気まずそうに、リナを見上げた。

 そんな視線を感じながらも、リナはもう彼らに対して怒りや憎しみと言った感情は沸かなかった。世界が凄まじく早さで、この数ヶ月の間に動いてしまい、リナ自身大統領だった頃から、もう数十年も経っているように感じていた。

 2人が着席し、6人は丸いテーブルを囲むように座ったまま沈黙が一時部屋を覆った。そんな中、シール・グリーン将軍が思いかげない行動を取った。将軍は、リナとリュウ・ドマスティーに視線を向け、謝罪の意を込めて頭を少し垂れた。その行為が、その部屋の雰囲気を一気に変化させた。将軍が顔を上げたのを確認すると、ローセルト・ライネルが喋り出した。

「我々は、スペースノイド、アースノイド、オールドタイプ、ニュータイプという差別に関係なく、太陽系に住む同じ民として、共通の危機が迫っていることは確かだ。デス・ロックスの本隊が、間もなく太陽系に到着するであろう。我々が、もし別々に戦えば、彼らの前に敗北を喫するであろう」
「そこで、共同戦線を張ろうと言う事だな」

 グリーン将軍が再確認する。ヨシュア・ライネルが立ち上がり、スクリーンに映されている地球圏の図を指しながら説明に入った。

「そうです。彼ら――外宇宙人とでも言いましょうか――は、必ず地球圏を攻撃、或いは占領するつもりでしょう。そこで、我々は共同戦線をまず月周辺に敷き、そして最終防衛ラインを地球衛星軌道上に敷きます」
「しかし、あのテクノロジーにどう対抗するのです?」

 リナは、ここにいる全員が懸念している問題の核心に触れた。

「現在、我々URES軍は、全力でウィアロンの修理を進めている。外宇宙人と言っても、彼らも人間でろう。そうならば、NBC兵器など持てる兵器を駆使し撃退するしかあるまい。それしかオーバーテクノロジーに対抗できる術はない」
 
 マックス・イナダは、過去人類が何とかして使用を防いできたNBC兵器の使用をさらりと言ってのけた。

「そのNBC兵器で、外惑星連邦を崩壊させるつもりだったのだろう?」

 リュウ・ドマスティーは、マックス・イナダが人の生死をゲーム感覚のように扱っているのに腹が立ち、イナダを睨みつけた。

「まぁ、ドマスティー大統領。今は、外宇宙人をどう撃退するかが先だ。身内で争う暇はない」

 ローセルト・ライネルは、リュウ・ドマスティーをなだめる様に手をドマスティーの前に伸ばした。ドマスティーは、仕方なくそれ以上何も言わない事にした。

「ところで、消えたデス・ロックス部隊の行方は掴めないのかね?」
 
 グリーン将軍の質問に対し、ヨシュア・ライネルはウィアロンが大破された直後の映像をスクリーンに映した。デス・ロックス艦隊は、ウィアロンのコントロール・ルームと2つの巨大粒子加速器の接続部分だけを破壊した後、デス・ロックス艦隊は再び「空間を歪め」消え去ったのであった。既に6日前のことであった。

「確実な情報はありませんが、恐らく太陽系外に迫ってきているであろう本隊と接触していると思われます」
「ということは、彼らも今、作戦会議中だということか・・・。では、月の防衛線にはどの戦力を置くのかね?」
「今のところ、NBC兵器を搭載したURES艦隊を主戦力とし、敵に出来る限り大きな打撃を与えるのを目的とします」
「もし、月の防衛線が突破されれば?」
「地球の衛星軌道上に、ウィアロン以下残存戦力を全て投入し、そこを最終防衛ラインとします」
「もし、最終防衛ラインも突破されれば?」
「・・・地球は、外宇宙人の手に落ちるでしょう」

 ヨシュア・ライネルのその言葉に、一同は沈黙した。URESと外惑星連邦の戦力を集めれば、それは凄まじい数になる。しかし、この数ヶ月の戦いの中で、双方ともかなりの数の戦力を失っていた。デス・ロックス本隊についての、具体的な戦力の規模や装備も分からないまま、防衛作戦を展開させなければならない。それに、この半世紀近く一度も共に戦った事のない者同士が、果たして共同作戦を展開することが出来るのか。様々な不安が一同の頭の中を巡っていた。

「本当に、デス・ロックスは地球に攻め込んで来るのでしょうか?」

 リナ・ジュミリンの口から出た言葉には、イナダ、グリーン将軍はともかく、今まで苦境を共に乗り越えてきたリュウ・ドマスティーさえも信じられないというような驚きの表情を見せた。

「何をいまさら?」
「いえ、ただ単純に疑問に思っただけです。デス・ロックスは、私達に宣戦布告もしていませんし、それにエイレーネ・・・」
「またエイレーネ平和主義を持ち出す気かね?リナ・ジュミリン君?」

 この席に入り、初めて元副大統領であったマックス・イナダがリナ・ジュミリンの目を真直ぐに見つめた。

「ただ、私は100年間平和を持続することが出来た国が、そんなに簡単にも平和を捨て、武力で訴えるようなことをするとは思えないのです」

 リナは政治家の父親の下で生まれ育った。しかし、彼女は政治家には絶対にならないと、忙しくて家を空けている父親の姿をみてパブリック・スクールに通う頃に決断していた。それに変化が訪れたのは、彼女がジュニア・スクールに通い始め、歴史の授業で「地球から何光年と離れたある国では、平和主義が今も守られている」といった先生の言葉が忘れられなかったからだ。

 それから、彼女はエイレーネ平和主義について調べ始め、その平和主義という思想に共感したのであった。そんな時に、彼女の父親であり当時URES大統領であったジョーイ・ジュミリンが暗殺される事件が起こったのであった。その事件が、彼女を政治家への道へと進ませた。政治家になって、エイレーネのような国家を太陽系にという思いを持って。いわば、エイレーネは彼女の政治人生と切っても切れない関係にあった。

 リナを冷やな目でマックス・イナダは見つめていると、一人の兵士が礼をし入ってきた。イナダの耳元で何かをささやき、一枚のデータファイルを手渡し、部屋から退出した。

「リナ・ジュミリン君、これが君のエイレーネからの答えだそうだ」

 イナダは勝ち誇った顔をしながらデータファイルをリナの前に差し出した。リナは怒りを覚えたが、それを押し留め差し出されたデータファイルに目を通し、リナは愕然とした。

「そんな・・・」

 そのデータファイルには、ちょうど10分前にデス・ロックスから送られてきた電子文書が保存されていた。そこには、太陽系に存在する全ての国家の72時間以内の武装解除、無条件降伏という要求、そして、それが守られない場合、デス・ロックスは無差別に太陽系諸国に対して攻撃を開始するということも。

 リナの横で、力なくドマスティーが呟くのが聞こえた。

「全面戦争か・・・」


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