Ultimate Justice 第17話 〜星の瞬き〜
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EP0044年6月21日 最終防衛ライン

 夜明けが訪ることのない暗闇の宇宙に、一斉に生まれた数多くの光の輝きは、あたかも宇宙の夜明けのようだった。その光は、皆同じ方向へと向かって行く。そう青い星、地球へと。

 一瞬の出来事だった。青い星は光に覆われ輝いた。デス・ロックス艦隊による一斉艦砲射撃は、その光に呑みこまれ消えていった。

 地球を覆った光こそ、地球を囲む12の軌道ステーションが持つ、最終防御兵器パレ・デラ・ルズ、「光の壁」であった。それは、各軌道ステーションに備えられた、発生装置を展開する事により、地球をすっぽりとビームバリアーで覆うことが可能だ。しかし、その光の壁も長時間展開する事は出来ないのが問題であった。
 
 光の壁が、うっすらと消え始めたかと思うと、青い星の近辺には、二枚の光る翼によって、くちばしのような細長い物体が照らされた。すると、そのくちばし状の先端から、巨大な光条が発射され暗闇を裂いた。光条は月の方向へと伸びていく。巨大機動砲台「ウィアロン」の発射であった。


「ウィアロンによる攻撃は、失敗したもよう!依然として、敵艦隊は侵攻中!」

 総合司令部に、悲鳴に似た声をオペレーターが上げると、グリーン将軍が悔しそうに「くそ」と言い放った。その光景を見て、ドマスティ―は何か不自然だと感じ眉を潜めた。

(ウィアロンが誤射だと?おかしい、この2日間で微調整し、試射も完璧だったはずだ)

 自分が知らない、何か大きなことが裏で動いているのではないかと、ドマスティーは一瞬不安になった。しかし、戦闘中に下手な不安を抱くと決断を鈍らせる。そう考え、よぎる不安を振り払った。ドマスティーは、グリーン将軍が真剣な様子で、アマルティア・トウジョウに近付くのが見えた。何かと疑問に思ったが、これ以上変な想像をしても、何も変わらないと思い、巨大スクリーンに目をやった。


「トウジョウ中将、私と一緒に来てくれんか?」
「・・・今ですか?」

 アマルティア・トウジョウは、困惑した表情でグリーン将軍を見つめた。トウジョウは、最終防衛ラインの主戦力である第1軌道艦隊の指揮官であった。既に戦闘が始っているのにも関わらず、指揮官が司令部から離れるなど、非常識に思えたからだ。しかし、グリーン将軍の顔は真剣そのもので、異議を唱えることは出来なかった。


 トウジョウは、案内されるままグリーン将軍の個室に入ると、そこには体調不良で治療中と言われていたマックス・イナダ大統領が座っていた。しかし、顔色も良く、体調が悪いような感じではなかった。そして、いかにも元気そうに立ち上がり、笑顔でトウジョウを迎えた。

「よく来てくれた。我が同志よ」

 イナダはトウジョウの手を取り、向かいのソファへと座らせる。イナダもソファに座り、一息付いてから喋り出した。その最初の言葉はトウジョウを驚愕させた。

「我々、URES軍は今から12時間後にデス・ロックスと同盟関係になる」
「・・・どういうことですか!?」
「言った通りだ。デス・ロックスと手を結ぶ」
「・・・裏切るのですか?同盟関係にある同じ太陽系の民を?」
「同じ?トウジョウ、お前は何か大事なことを忘れていないか?外惑星連邦のやつらは、憎きスペースノイド、ニュータイプだぞ?」
「それは、そうですが・・・。今、同盟を破棄してしまえば、勝てる可能性も少なくなります」
「勝てる・・・?何を言っている?奴らアウトサイダー、外宇宙人に今の私たちの力で勝てるわけがなかろう。テクノロジーの差を見たまえ」

 不気味な笑みを浮かべるイナダとグリーン。トウジョウは、自分が踏み入れてはいけない場所に、一歩踏み入れてしまったように感じた。そこで、はっとトウジョウはあることに気が付いた。

「ウィアロンが外れたのは・・・まさか?」
「そうだ。外れたのではなく、わざと外させたのだよ」

 先程のウィアロンの射撃によって奪った敵戦力は、たったの3隻だけに留まった。発射数分前まで、幾度も整備点検されていたウィアロンが、こうも簡単に目標を外すわけがない。ウィアロンを護衛し、その威力を目の当りにしたことのあるトウジョウにとって、先程の射撃はあまりにも不自然であり、わざと外したとしか思えなかった。そして、それは的中した。

「デス・ロックスとの同盟は一時的なものだ。奴らの技術を奪った後は、奴らを太陽系から消し去ればいい」
「しかし、我が軍の中にどれだけの者が、このことを知っているのです?」

 イナダは、部屋の隅に腕を組み立つグリーン将軍を見上げ、そしてトウジョウに視線を戻し、愉快そうに言った。

「ここにいる3人だけだ」
「いつから、この反乱を企てていたんです?」
「いつからだったかな?たしか、第1防衛ラインが敷かれる前からだ」
「そんな前から・・・」

 トウジョウは、これまでの必死に戦かってきた現実が、芝居だったという事実を受けいれる事が出来なかった。そうであれば、死んでいった自分の部下たちになんと説明すれば良いのか。

「では、デス・ロックすとの同盟関係になるまでの12時間。その間に死んでしまう我が軍の兵士達はどうなるのです?」
「デス・ロックスには、なるべくURES軍以外の戦力を狙うようにと言っている。だが、カモフラージュのために、少数だが我が軍の兵士にも犠牲になってもらうがな・・・」
「尊い犠牲ということですか・・・?」
「そういうことだ・・・トウジョウ中将、君を呼んだのは、こんなことを話し合う為ではない。君には、第1軌道艦隊の任務から離れてもらい、地球へ行ってもらう」

 自分たちの兵士の生死の問題を、「こんなこと」とグリーン将軍が述べたことに、トウジョウは引っ掛かったが、反論しても意味がないことは分かっていたので、何も言わなかった。

「地球ですか?」
「ああ、地球の地上軍を統括し、万が一、外惑星連邦とティエラの残存戦力が地球に降下した場合に備えて欲しい」
「・・・分かりました。すぐに降下します」
「いや、すぐではなく、タイミングを計らって降下したまえ」

 トウジョウは頷き、部屋から去ろうとする。すると、背中ごしにグリーン将軍の声が聞こえた。

「共に、輝く未来を創り出そうではないか!」

 トウジョウは、再び振り向き敬礼をし、部屋を後にした。イナダとグリーンは、満足そうに笑みを浮かべ、トウジョウが部屋を出るのを見守った。しかし、部屋を出たトウジョウの顔は険しく、どこにぶつけていいのか分からない苦い思いで一杯であった。

(これが、未来のためだというのか・・・)


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