Ultimate Justice 第20話 〜輝く日〜
3.devastation

EP0044年6月25日 デス・ロックス旗艦「キリネ」

 外宇宙連合の艦艇は、一気にデス・ロックスの後方へと距離を詰めMSを次々と放出した。外宇宙連合のMSを見た同盟軍の誰もが、「ガンダム」と呼ばれる赤い機体を連想した。2本の角、そして2つの目。確かに、クラストが操るガンダムとは似ていたが、機体の色は赤ではなく緑であった。さらに機体の様々な場所が細かく違ったが、クラストの乗るガンダムから発展した機体だということは容易に予想についた。

 数十機の緑色のガンダムの動きは、まるで一つのように動いていた。完璧とまで言えるフォーメーション。そして、その射撃の正確さには目を見張るものがあった。撃破するのに、苦労したデス・ロックスのボールや、ノウヘッドがおもしろいように次々と光球へと変わる。外宇宙連合の勢いに、デス・ロックスは押されっぱなしになる。そして、その勢いと同調するかのように、同盟軍もデス・ロックス陣営の反対側から総攻撃を開始した。

 デス・ロックス旗艦「キリネ」には、撃沈、撃墜といった情報ばかりが目立つようになった。しかし、その情報をまるで気にとめる様子もなく、ドウィック・サーキス2世はブリッジの中央にある艦長席に座っていた。
 そこに、彼が待っていた瞬間が訪れた。一人のクルーが近付き、彼の耳元で一言「解除できました」とささやいた。彼は、艦長席を立ち上がり不気味な笑みを浮かべながら、全軍への放送を開始した。

『デス・ロックスの我が同胞よ。とうとう我々が3世代に渡り目指してきた目的を達成する事が出来るのだ!見よ、我々の手には今この蒼い星を焼き尽くす炎が握られている。今こそ、我々の念願であった地球への復讐をやり遂げるのだ!』

 その言葉が言い終わらない内に、「キリネ」から数十のミサイルらしき物が、勢いよく蒼い星へ向かって突き進んでいった。それを確認した僚艦は、本命であるNBC兵器がどれだか悟られないように、通常ミサイルを発射させた。

  ドウィック・サーキス2世は、小さくなるミサイルを満面の笑みを浮かべながら眺めていたが、次の瞬間その笑みは消えた。眩しいばかりの光が、戦場全体を覆った。数十の核兵器が誘爆したのであった。その光は本当ならば地球の大地を焼くはずだった。怒りの表情を露にし、ドウィック・サーキス2世は自らの夢を打ち砕いた相手を見つけようと必死になった。

 すると、「キリネ」に向かってくる自らの目と同じ色をした赤い機体を見つけた。

「なぜ邪魔をする?蒼い星は、人を飛べなくさせているのだぞ!なぜそれが分からん!?」

 聞こえないと分かっていながらも、ドウィック・サーキス2世は突き進んでくる赤い機体に語り掛けた。すぐに、キリネを護衛している数十のボールとノウヘッドが、赤いガンダムを取り囲み「キリネ」から遠ざけて行く。

「首領。第二波の準備完了しました」
『全機に告ぐ、何としてでもミサイルを守り通せ!』

 再び、数十の悪魔の兵器が次々と「キリネ」から発射される。蒼い星への道のりで、二つ、三つと巨大な火球が膨れ上がる。その火球は、自らの短じかい輝く運命を知っているかのうように、可能な限り敵味方関係なく呑み込んでいった。

 クラストは、憎しみの塊である核兵器が存在している事に気付き、第一波を撃破することに成功した。しかし、第二波になると、クラストの周りには数え切れないほどのデス・ロックスのMAが展開していた。ファンネルを使い、何とか2つ核兵器を破壊する事に成功した。さらに、ファンネルで3基目の核兵器を攻撃したが、ボールが射線の間に入り自らを爆散させ、核兵器を守った姿を見たクラストは、彼らの憎しみ、執念の大きさに驚嘆するしかなかった。

「3基のミサイルが、大気圏突入を開始!」

 クルーが発した言葉にドウィック・サーキス2世は歓喜の声を上げた。この事実は、同盟軍側も察知していた。核兵器が地球へ向かったという情報が入ると、すべての戦闘行為が自然と止み宇宙は再び闇に包まれた。


 ミノフスキー粒子散布下にも関わらず、デス・ロックスが放った3つの悪魔の兵器は目的地へと着実に突き進んだ。3基の内1基は、何とか目標へと到達する前に地上からの迎撃に成功した。巨大な火球が南米大陸上空で膨れ上がったが、地上への直接的な影響はなかった。しかし、この先数十年は消えることのないであろう大量の放射能が、大気中に撒き散らされたことに変わりはなかった。

 残りの2基は迎撃をくぐり抜け、1基はヨーロッパのベルリン、そしてもう1基はアジアのシンガポールに着弾した。2基の核兵器は、7世紀以上前に広島と長崎に投下された物の倍以上の破壊力を持っていた。瞬時にシンガポールとベルリンを巨大な火球が覆った。両都市の中心部は超高温状態に置かれ、次に衝撃波と熱風が襲いかかり、両都市の上空を巨大なキノコ雲が空を満たした。


 サッポロの総合司令部のスクリーンには、核攻撃後の2つの都市のリアルタイムの映像が流されていた。それを横目で見ながらトウジョウは、オペレーターに声をかけた。

「ベルリンとシンガポールには、どれだけの市民がいた?」
「ベルリンの住民は、ほぼ宇宙への脱出を完了しています。残っていた住民は2,300人程だと思われます」
「シンガポールは?」
「シンガポールは、軌道エレベーターへの中継港でしたので、数百万人が核の爆発の時点でいたと思われます」
「くっ・・・!

 トウジョウは何も出来なかった自分を呪った。



 破壊尽くされた2つの都市の映像が、デス・ロックス旗艦「キリネ」の大型ディスプレイにも映し出された。

「グズグズするな!すぐに第3、第4波準備し発射しろ!」

 それを茫然と見つめながら何もしないブリッジクルーに、ドウィック・サーキス2世の怒声が飛んだ。しかし、ブリッジにいる誰一人として、ドウィック・サーキス2世の命令を実行に移すものはいなかった。

「どうしたというのだ?まだこれは、序曲に過ぎないのだぞ?地球を破壊し尽くすまで撃ち続けるのだ!」

 オペレーターが、何か思いつめた表情で席を立ち上がり、ドウィック・サーキス2世の前に立った。

「首領。もう充分です。これ以上、同じ人間を殺すのは間違っています」
「何を今更いいだすのだ?我々はこの瞬間を数百年待ち続けてきたのではないのか!?お前達の祖先も、この日を夢見ながら死の床へついていったのだぞ?」
「しかし・・・」

 オペレーターの口から言葉が出る前に、彼の意識はドウィック・サーキス2世が放った銃弾によって途切れていた。一向に作業を再開しないブリッジクルーをぐるりとドウィック・サーキス2世は見渡した。そして、無言のまま次々と引き金を引いた。

 ブリッジに鳴り響いた銃声が止んだ。その時、ブリッジに立っている者は、引き金を引いた本人以外いなかった。


 戦況が一転したのは、シンガポールとベルリンの現地映像がデス・ロックスの艦艇へ届けられてからだった。その映像には、建物という建物は消え去り、緑も消え、人の姿も全くないただの焼け野原になった2つの都市の光景があった。

 その映像を見た各艦の艦長たちは、今まで盲目的にドウィック・サーキス2世に従ってきた自分たちに対して疑問を抱きある決断をした。

『無条件降伏』

 突然、戦闘中であるデス・ロックス艦艇の約半数から外宇宙連合と同盟軍に「降伏する」という通信が次々と送られてきたのであった。同盟軍の幹部の誰もが、第3波の発射までの時間稼ぎではないかと疑った。しかし、実際に降伏を通達してきた艦艇は戦闘を中止し、その所属下にあるMAは帰艦した。この行動を見て、同盟軍は彼らの降伏を受諾し、すぐ様この戦闘区域から離脱するように勧めたが、返ってきたのは「共に戦い、罪を償う」という声だった。また、この突然の「降伏」にデス・ロックスに、今まで従っていたコロニー、月面都市連合、外惑星連邦は「降伏」を申し出て、同じように「共に同盟軍側に立って戦う」と通達した。

 この降伏、いや反乱の様子は、ドウィック・サーキス2世にの耳にも届いた。すぐ様、彼は降伏しなかった艦艇を結集させ、残った数百の艦艇を率い蒼い星へと駒を進めた。

 共に戦う事を選んだデス・ロックス等の数百隻にも上る戦力は、優勢であった同盟軍と外宇宙連合をさらに優勢へと導くこととなる。しかし、降伏した艦艇とそうではない艦艇を見分ける為に、一時陣営を立て直す必要があった。その僅かな時間が、ドウィック・サーキス2世に蒼い星をさらに傷つける時間を与えてしまった。

 ようやく陣営を立て直し、同盟軍が一気に攻勢をかけようとしたまさにその瞬間。同盟軍に衝撃が走った。数十分前に都市を廃墟にしたのと、全く同じ光が宇宙に輝いたと思うと、光が暗闇へ消えのとほぼ同時に、さらに人類に絶望をもたらす数十の光が地球へと吸いこまれていった。

「迎撃はどうした!?」

 地球に優々と突き進む、悪魔の兵器群に対する迎撃が一向に進まない野を見て、トウジョウは怒鳴った。何故なら、第1波や第2波を食い止めたように、すぐに迎撃が始まるはずだったからだ。しかし、オペレーターから返ってきたのは、「迎撃開始します」とトウジョウが期待していたものではなかった。オペレーターが返した答えは、絶望の淵に追いやられた表情だけだった。

 トウジョウの予想とは違い、NBC兵器を迎撃する為に、旗艦「キリネ」の前方に展開していたはずの同盟軍戦力は、第3波のNBC兵器が発射される前の、核攻撃によってほぼ壊滅していたのであった。

 NBC兵器を弾頭に詰めた34の悪魔は、それぞれドウィック・サーキス2世自身によって設定されたコースを歩みはじめた。大気内で、途中地上軍による最後の抵抗によって8つの悪魔はその目的を遂げる前にこの世から消え去った。しかし、ドウィック・サーキス2世の憎しみを宿した残りの26の悪魔は、前回放たれた悪魔と同様に役目を全うした。

 今回は一瞬で都市を廃墟にする火球が膨れ上がる事はなかった。それを見た同盟軍は、核攻撃が不発に終わったのだと安心した。だが、その安易な考えはすぐに着弾したであろう都市を映しだした映像によって、もろくも消え去った。

 一瞬の内に廃墟になると思われていた街は、全ての建物が何の被害もなくいつもと変わらぬように立っていた。一つだけ違ったのは、街全体に生きている活気が全く感じられない事だった。この都市の住民は、今から3時間後に避難させられる予定であったので、人っ子一人もいないという状態はおかしかった。

 映像がズームアップされると、その映像を見ている全ての人間は凍りついた。物のように、老若男女を問わずバタバタと道の至る所で倒れている。それは、着弾したと思われる他の都市も全く同じであった。それは、核ではなく猛毒ガスによる大量殺戮であった。

 トウジョウは、目の前にあるモニターを怒り任せに叩きつけた。そして、何とか喉から声を絞り出し命令した。「何としてでも第4波を発射させるな」と。


4.Seeing the time
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