Ultimate Justice エピローグ 〜歴史〜
EP0050年6月26日

 サッポロ郊外にある戦没者墓地に、肩にまで伸びた髪の女性が花を添える姿があった。そのような光景は、太陽系戦争ともデス・ロックス戦争とも呼ばれた戦争から、6年経った今となれば珍しいものだった。戦後、1、2年は世界中からも、そして太陽系外からも墓参りに来る人々がいた。しかし、今ではここの墓地へ来る人の数は僅かだった。

 彼女は、花を添えた墓の前で笑顔を見せ、そして目を閉じ沈黙の祈りを捧げる。「PED(大統領護衛隊)」と肩に記された制服を着る一人の女性が、目を閉じたままの彼女に近付き口を開いた。

「委員長、お時間です」
「もうそんな時間ですか・・・もうちょっとだけ居させてもらえませんか?」
「しかし、今日は外宇宙連合と新太陽系連邦構想を話し合う大事な会議ですよ?いくら、委員長の命令でも・・・」
「委員長としてではなく、友人としての頼みを聞いてくれませんか?」

 リナが深くお辞儀をすると、制服を着た女性は肩をすくめ溜息を付いた。

「分かりました委員長!私の負けです。でも、あと5分だけですよ」
「ルーン、ありがとう」

 リナ・ジュミリン。彼女は戦後、デス・ロックスに加担したコロニーや月面都市連合勢力との間の交渉や、外宇宙連合との会談などに追われる日々が毎日のように続いた。そんな中でも、1ヶ月に1度は必ずここサッポロ戦没者墓地へと足を運んでいた。

 彼女は、忙しくて精神的にも参ってしまうような時であっても、「彼」の墓の前に立つと不思議と疲れが癒され、消えかかっていた平和への希望の光を再び輝かせてくれた。

 ルーンが遠ざかっていく気配を背中に感じながら、リナは墓石に刻まれた「彼」の名をそっと指でなぞった。

クラスト・ミリング

 その名の人物の顔をリナは頭に浮かべながら、あっという間に過ぎ去ったこの6年という月日を振り返っていた。

 戦争が終結してからすぐ、リナ・ジュミリンは大統領という職務以外にも、各国からの強い要望で太陽系復興委員会の委員長という言わば、太陽系諸国の代表という大役を任される事となった。彼女の最初の仕事は、緑色の髪の女性、外宇宙連合代表デミハ・アーシタとの和平会談であった。そこでは、まず太陽系諸国と外宇宙連合との和平条約が結ばれ、次に国交の回復、そして太陽系諸国に対する外宇宙連合による技術援助も合意された。これにより、1世紀ぶりに太陽系と外宇宙は再会を果たす事となった。

 その後、NBC兵器によって傷つき汚染された地球の荒地は、外宇宙によってもたらされた新技術「ナノマシン」の散布によって、徐々に回復してきている。また、破壊された都市も徐々に復興し始めた。さらに、外宇宙連合からは、失われていた恒星間ドライブ・テクノロジーも贈呈され、その記念式典にてリナは初めて太陽系代表として外宇宙連合主星エイレーネへと訪れることとなった。

 戦後、分裂していた太陽系諸国も、リナが取り仕切る復興委員会を重ねるに連れて再び一つに結束し始めた。そして、EP0049年にはついに「太陽系連邦構想案」が各国によって合意された。これにより、半世紀を経て「太陽系連邦」復活の兆しが見えてきたのであった。

 「クラスト・ミリング」と刻まれた墓石の下に、「EP0023〜EP0044」と記されているのをじっとリナは見つめ呟いた。

「平和暦か・・・、最後だけでも平和になってよかったよね」

 今夜、「Era of Peace、平和暦」という暦と、外宇宙諸国が使用していた「宇宙世紀」の暦を統一しようという式典が開かれる予定であり、今日という日が「平和暦」を使用する事実上最後の日であった。太陽系諸国と外宇宙連合諸国、その両者の1世紀ぶりの再会と新しい時代の幕開けに相応しい「統一された時代」という意味を込め「United Era(統一暦)」とすることに決定したのであった。


「リナ委員長、時間ですよ」

 ルーンとは違う声がし、リナはゆっくりと立ち上がった。振り向くと、そこには同様にPEDの制服を着ているジョイス・ミラーが立っていた。無言で頷いたリナの表情は、墓地に来る前より悲しい表情をしているようにジョイスには思えた。

 リナとジョイスは、道路脇に停まっている大統領専用車へと足を向けた。しかし、大統領専用車にあと数歩という所で突然リナは足を止めた。


ラ、ラ・・・・・・


 一瞬、女性の歌声が聞こえたような気がした。リナはすぐに振り返り、遺体も遺骨も入っていないクラストの墓を再びじっと見つめた。

「どうかしましたか?」

 固まっているリナを不思議に思い、ジョイスは声をかけたが、リナは身動き一つせず、じっと何かを聞こうと耳を澄ませているようだった。時間が迫っていたので、ジョイスはリナに近付きもう1度声をかけようとした時、リナが振り向いた。その顔には輝くばかりの笑顔が戻っており、先程とはまるで別人のように力に満ちていた。その変貌ぶりに驚いたジョイスは思わず尋ねた。

「何かあったんですか?」
「・・・何でもないです。さぁ、行きましょう!」

 リナは、「頑張れよ」と言う声をはっきりと耳にした。そして、その声の主が誰であるかもリナには分かっていた。

(クラスト・・・私、頑張るから)


 U.E.0001年6月26日――平和暦は終わり、外宇宙と太陽系の再会によって再び同じ「時」、「統一暦」が動き始めた。統一暦によって生み出された平和は、人類にかつてない程の繁栄をもたらすこととなる。

しかし、憎しみの連鎖から人類はいまだ抜け出せずにいた・・・

Ultimate Justice 完

あとがき
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