Ultimate Justice
第4話〜光〜

3.intersection

EP0044年4月9日 地球 URES軌道ステーション403『ジュダ』

 青い惑星を背景にしながら、リング型の軌道ステーションが、常に一定の高度をとりながら惑星を周回している。

 軌道ステーション403『ジュダ』は、地球軌道上に存在する12の巨大人工建造物の一つである。名前は軌道ステーションとなっているが、実質はURES軍の宇宙要塞基地のようなものである。地球圏に危険が迫っていない今、その主な任務は、地球を出入りする船、機体の監視とチェックである。しかし、今は続々と青い惑星から上がってくる艦艇の停泊所と化していた。

 『ジュダ』が有する最大のデッキでは、大勢のURES兵士が列をなしてある人物の到着を今か今かと待っていた。

 そこへ、1機の小型宇宙船が4機の護衛MSに挟まれながら到着した。宇宙船のハッチが開き、二つの人影が姿を現した。

「敬礼!」

 士官の合図とともに、500人以上の兵士が一斉に敬礼をした。その二つの人影は、マックス・イナダ大統領とシール・グリーン将軍だった。その二人に、一人の男が近付いた。服装からして将校であろう。

「お待ちしておりました。大統領、そして将軍」

 き然とした態度で、一人の将校は国家元首と軍の最高司令官に話しかけた。イナダは、その将校の顔をじっと見つめ表情が和んだ。

「久しぶりだな、アマルティア・トウジョウ。会うのは何年ぶりだ?」
「はっ。あの時以来ですから・・・20年になります」
「そうか・・・20年も時は流れたか・・・」
「わしを見ればすぐに分かるだろう?こんな老いぼれになってしまった」
 
 二人の会話を横で聞いていたグリーン将軍が、自分の老いた姿を強調するかのように話し出した。

「グリーン将軍。本当にお久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「トウジョウも、元気そうでなによりだ・・・ん?」

 グリーン将軍は、トウジョウの軍服に目を凝らした。それにつられるかのように、イナダも同じように軍服を目を向けた。

「わしが知っておるトウジョウは、あの時はまだ中尉だったぞ?」
「ほぅ、今は中将か?」
「はい。私が、ここまで出世できたのは、今日という日をいつも夢見ていたからであります!」
「そうか。やっとまた私達の時代が来る。今度は、もう誰にも邪魔はさせない。中将、アレは用意できたんだな?」
「はっ、120、今回の為に用意しました」

 イナダはニヤリと、自信に満ちた表情で二人を見つめた。その会話の様子を、500人の兵士は身動き一つせずに聞くほかなかった。世間話をしながら、3人はデッキから姿を消した。



同日 周回軌道上 ティエラ共和国軍 戦艦「ムンド」内

 既に、40隻以上の外惑星連邦艦艇が到着していた。その艦隊の姿は、堂々たるもので見る者を圧倒した。

「これだけの艦艇が集まれば、URESにも勝てるような気がしませんか?」

 ティエラ共和国軍ソル級戦艦「ムンド」のCIC(戦闘情報センター)にある、大型スクリーンに映し出せれるFOP艦隊を見て、キールが横に立つクラストに話しかけた。

「そうだな。これだけ早くここまでの戦力が揃うとは、URESも思わなかっただろうからな」
「本当は、勝てると思ってないんでしょ?」

 突然後ろから、女性の声がクラストに向けられた。後ろを振り向くと、ミカの姿が目に入った。

「もう大丈夫なのか?」
「うん。これ以上部屋に引きこもってても、死んだキムは戻ってこないからね」
 少し照れながら、ミカはクラストに答えた。クラストは、久しぶりに笑顔を見せた。

「そうだな。一緒にキムの為にも頑張ろう」
「うん。そうだね」

 ミカも、クラストの笑顔につられて同じように微笑んだ。キールが、クラストに何で勝てると思わないのか疑問をぶつけてきた。

「何でって、キールもジョイスも見ただろ?URESのもう一つの新兵器」
「無人機の他に?」
「そうだ。あの青い機体。パイロットの能力を向上させるシステムが搭載されている」

 キールとミカは、あの青い機体の凄まじさを思い出し身震いした。ミカが、怒りを込めて言い放った。

「キムを殺した機体ね」
「そうだ。あいつには、UBCSとは別の何かが搭載されていた・・・」
「何で、クラストはそれがわかったの?」
 ミカは不思議そうにクラストの顔を見つめた。
「俺が、リナ大統・・・リナを助ける時に、UBCSのサポートシステムと思ってスイッチをONにしたんだ。そうしたら、自分でも不思議なほどに視界が広くなって、無意識の内に考えるだけで機体が動いていた。まるで・・・」
「・・・ガンダムに乗っているよう・・・。そうだろ、クラスト?」
 クラストが言い終える前に、キールが代わりに終わらせた。
「そう。キールの言う通り。まるで、ガンダムに乗っているのと同じようだった。考えるだけで、ほとんど機体をコントロールできた・・・。あとで、あのジェスIIIを調べてみてくれ、そのシステムが発見できると思う」
「クラスト、それが勝てないと思う要因ってこと?」

 ミカが、クラストの顔を覗きこむようにし問いかけた。クラストは首を縦に振った。

「そう。でも、何か違う憎しみの塊みたいなのを感じるんだ」

 CICに、敵接近の警報が鳴り響いた。すぐに、オペレーターが現在の状況を説明し始めた。クラストたちは話を中断し、急いでMSデッキへと向かった。

「敵の数25、熱源からしてMSのものと思われます。接触まで7分」

 オペレーターの説明に、ドマスティー大統領は舌打ちした。何故、この至近距離まで敵機を発見できなかったのか、様々な疑問が浮かび上がったが、今はこの現状にどうのように対処するかが先決と考え、監視員に怒声をあげるのを控えた。

「本当に敵機は25機だけか?周辺をくまなく探せ、URESはステルス機を開発したかもしれんぞ!」
「敵機分散し、互いに距離を取りながら向かってきます。25機の内2機が、この艦に向かってきます!」
「くっ、何をするつもりだ!?早くMSを出せ」
 このMSの不可解な動きに、ドマスティーは何か不快感を覚えた。
「接触時間修正します。接触まで後2分。この速度からして、無人機だと思われます」
「迎撃開始!」

 月の表側に展開していた艦艇の多くから、MSに対して数多くの破壊を司る光の線が伸びた。しかし、MSはその光の線をいとも簡単にすり抜ける。外惑星連邦艦隊から、数機のMSが発進された。しかし、接近するMSはその迎撃に出たMSなど全く気にも止めず、凄まじいスピードで横を通りぬけていった。

(狙いは艦艇のみか?)
 ドマスティーは、強まるばかりの不快感で額に汗がにじみでていた。

「MSはまだ出せないのか?」
「はい。後2分は必要です」

 戦艦「ムンド」より先に、外惑星連邦の巡洋艦2隻に、敵機は襲いかかるように見えた。しかし、そのMSは、巡洋艦2隻のちょうど真中の位置を通過しようした。その瞬間だった。CICの大型スクリーンが眩い光を放った。CICにいたクルー全員が、眩しくて目を開けていることが出来なかった。

 少し光が弱まり目を開けると、そこにはあるはずのない太陽があった。その太陽に、2隻の巡洋艦が呑まれていた。

「何だ?」

 クルーの誰もが、何が起こったのかさっぱり分からなかった。しかし、ドマスティー大統領が答えを口にした。

「・・・核か!」
 
 クルー全員の表情が、一瞬にして凍りついた。宇宙世紀時代でさえ、核兵器が使用された戦争は数えるほどしかない。太陽系連邦が崩壊した原因でもある、「ニュータイプの反乱」でさえ核兵器は使われなかったといわれてる。今や、核兵器は教科書にしか載っていない兵器であった。それが、今目の前に展開されていた。

 オペレーターは、一瞬この凄まじい光景に目が奪われていた。しかし、すぐに正気に戻り、青ざめた顔で叫んだ。

「敵機接近!!ビームバリアーを展開します」

 戦艦「ムンド」の全体が、鈍く光り始めた。ビームバリアーを展開したのである。恒星間を亜光速で航行時、様々な小隕石が艦艇に衝突する。亜光速で接触をすれば、下手をすれば小さな核兵器並の威力にもなる。そのよう小隕石などに耐えられるように、ビームバリアーは恒星間艦艇には必須装備であった。しかし、その膨大な消費電力をまかなう為に、ビームバリアー装置を搭載できるのは巨大艦ぐらいのみであった。

「全員、衝撃に備えろ!」

 ぐっと、ドマスティーは肘掛を力強く握った。またも、同じ光。まるで、スクリーンから熱さが伝わってくるようだった。月の軌道上では、20以上の小さな太陽が次々と現れては消えていった。

「ビームバリアー、出力20パーセント低下。艦への被害は・・・ありません」

 幸いだったのは、MSが搭載していた核は小型のものだったことだ。クルーの顔に生気が戻り始めた。クルーは、あの悪魔の兵器と呼ばれていた核兵器の攻撃に生き残ることが出来て、胸を撫で下ろしてた。

「結集した艦隊の状況は?スクリーンに出るか?」
「少しお待ち下さい」

 スクリーンが回復する。月の表に集結していたFOP、そしてティエラの艦隊の多くの艦艇が爆発に呑まれ、また被害を受けていた。救援信号を出す艦艇が後を絶たなかった。

「くっ、何てことだ・・・」

 絶望的な風景が眼前に広がっていた。さらに、絶望の淵に叩き落す声が、艦全体に響いた。

「さらに、敵機15機接近。先ほどと同じタイプだと思われます」
「核による自爆攻撃か・・・。イナダめ、スペースノイドを絶滅させる気か!?」

 ドマスティーは、肘掛を思いきり叩いた。が、その音は敵の接近を示す警告音と、脱出艇からの救援信号音でかき消された。



――EP0044年4月9日
後に、「太陽系戦争」と呼ばれる人類最大の戦争が始まった瞬間だった。



第5話〜撤退〜へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送