Ultimate Justice
第5話〜撤退〜

3.first step

ティエラ共和国 戦艦「ムンド」

「全てのMS帰艦しました!」
「よし、全速でこの宙域から離脱。亜光速航行へ!」
「了解」

 全てのMSが帰還したといっても、出撃したMSの大半が撃破されたことによって、残りのMSが帰艦することが出来たといっても過言ではないだろう。それだけ、URESとの戦力差は圧倒的だった。数十隻の艦隊が、この戦艦ムンドを攻撃し続けている。

 数秒ごとに、ムンドの中では衝撃で艦内が揺れた。ビームバリアーという、現代防御兵器の中で、最強の盾を装備している戦艦だからこそ、絶える事のない数十隻の巡洋艦クラスのメガ粒子ビーム攻撃にあっても沈まずにいた。

「大統領、ビームバリアーの出力が徐々に下がっています」
「これだけの、ビーム攻撃によく耐えている方だ。第一、このバリアーは戦闘用ではないですよ、将軍」
「はい、そうですが、このまま何もしないのですか?」

 先ほど、ブリッジに上がってきたマルコ・タン大将が、ドマスティー大統領に落ち着かない様子で話し掛けていた。

「何もしないのではなく、何も出来ないのですよ。ビームバリアーは最強の盾ですが、それを展開中はこちらは防御体制のままです」
「くっ、このままだと、いつかビームバリアーは破られますぞ!」

 タン大将の大声が、ブリッジ・クルーの注目を集めた。やれやれといった表情で、ドマスティー大統領は将軍の耳元で小さな声で言った。

「亜光速に達すれば、相手の艦隊は追って来れないはずです。それまでの辛抱ですよ」

 タン大将は、やっとドマスティー大統領がやらんとしていることを理解したらしく、先ほどまでの落ち着かない様子ではなく、胸を張ってクルー全員を見渡していた。

URES UBCS巡洋艦 「イワナミ」

「何やってる!あのビームシールドを何とか破壊できないのか!?」

 キンブル艦長の金切り声が、またもやクルーを怯えさせていた。どうか自分がターゲットにはなりませんように!とクルー全員が祈っていた。

「おい、どうなってるんだ!」

 今回ターゲットにされたのは、オペレーターであった。戦闘中に艦長との会話が一番多い彼女は、いつも怒鳴られたばかりいた。

「・・・敵のシールドは、徐々にですが・・・弱まっている事は確かです」
「じゃあ、後どれくらいでビームシールドを突破できるんだ!?」
「このペースで攻撃をし続ければ、30分・・・」
「何だと!そんなにノロノロとしていたら、奴等は亜光速に達してしまうぞ!そうなれば、こんなのろまな大艦隊ではとても追尾なんてできっこない!」
「・・・そんなこと、私に言われても・・・」

 彼女は、艦長には聞こえない声で呟いた。隣に座っていた、レーダー監視員が同情の意を込めて、彼女の肩をぽんぽんと叩いた。

「残りの核はどれだけある!?」
「20基です」
「全部ぶち込め!」
「しかし、URES軍司令部に使用許可を頂かなければ・・・」
「関係ない!後でオヤジに説明しておく!」
「・・・」
「早くしろ!」
「はっ、はい!」



「敵20機が接近中です!」
「MSか?」
「はい」

(MS20機で、何をしようというのだ?)
 
 ドマスティーは、ふと疑問に思ったが、1秒後にはまたあの攻撃だと気が付き、オペレーターの後ろに近付いた。

「オペレーター、核兵器を20基、一度に食らったら・・・ビームバリアーは持つか?」
「えっ、少々お待ち下さい」

 突然、大統領が自分の後ろにいたのに、オペレーターであるスーザン・ヤング伍長は驚くが、それ以上に大統領の言葉の内容に驚いた。

「搭載されている核兵器の威力にもよりますが、先ほどと同じ1メガトン級であれば・・・」
「バリアーは持たないか・・・何とか振りきれないか?」
「・・・駄目です。敵機の加速度の方が、こちらを上回っています」
「そうか」と言い残し、大統領はキャプテンシートへと戻った。

「後部ビームバリア―を一時解除し、敵機を迎撃する!後方へ向けられる砲塔は、全て後方へ照準を合わせろ。ミサイルも発射できるだけ発射しろ!だが、一発も無駄に使うなよ。敵機の足止めさえ出来れば、亜光速で逃げ切れる!」

 大統領の命令で一気に艦内が忙しくなった。この攻撃は、大きなリスクを伴うものであった。ビームバリアーは、大出力のメガ粒子砲でなければ、貫通する事も出来ない。また、実弾兵器も防ぐことが出来る完璧な防御兵器であった。しかし、それを展開中であれば、自ら攻撃をすることも出来ない。攻撃するなら、一時的にビームバリアーを解除する必要があった。そこを、敵に狙い撃ちにされる可能性があったのである。

 まさにそれを、イワナミの艦長であるキンブルは狙っていた。さすがに、易々と核の火球に呑み込まれるような、相手ではないことを知っての行動であった。だてに、キンブルは大佐という階級についているのではない。

「あの巨大戦艦は、必ず後方のビームバリアーを解くはずだ!あいつの、機関部へ艦隊の一斉射撃を食らわせてやれ!!」キンブルは、自分が考え付いた「高度」な戦術に有頂天になっていた。

 そして、その瞬間が訪れた。鈍い輝きが戦艦ムンドの後方部から消えた。普段は暗黒がたち込めている宇宙が、双方から放たれた数え切れない多くの光条で明るくなった。その中で、一際大きな光が二つ、三つと続いた。核の爆発だった。それに唖然としたのは、URESの方だった。大艦隊からのビーム攻撃と、戦艦ムンドからのビーム攻撃に、20機の核を積んだMSは挟み撃ちをされる形となった。さらに核の爆発は、ビーム攻撃を回避しようとした核搭載MSを呑みこんだ。核の誘爆は始まった。十数個の大きな華が、宇宙をさらに明るく照らした。

「今だ、ビーム撹乱膜弾を発射しろ!」

 ドマスティー大統領の声と共に、数十発のミサイルのような筒型の物体が発射された。そのミサイルは爆発はせず、霧のようなものを戦艦の後方周辺に散布した。URESの大艦隊から放たれた光は、ムンドに接近するにつれて威力を急激に失っていった。

「くそっ!MSはどうなった!」

 キンブルは、オペレーターに怒鳴りつけた。オペレーターは、ディスプレイで情報を確認したが、報告するのを躊躇した。

「どうした?核は生きてるのか?」
「・・・全滅です。双方の攻撃により、誘爆しました」
「じゃあ、敵艦の被害は!?」
「ビーム攻撃も、何か霧のようなもので威力を失いました。おそらく、アンチ・ビーム兵器だと思われます。ミサイル攻撃は、その後再展開されたビームバリアーによって、全て破壊されています」

 キンブルは、顔を真っ赤に染め、オペレーターに怒鳴り返そうとした。しかし、すぐにその表情から血の気が失せていった。

(無断で核を使ったにも関わらず・・・。オヤジに何ていえば・・・)

 キンブルは、何も言わずにブリッジを後にした。それを不思議そうにブリッジ・クルーは見届けた。

 戦艦ムンドは歓喜に満ちていた。一度だけでなく、二度の核攻撃を生き延びたから当然であろう。戦艦ムンドは、その後亜光速に達し、地球圏からの離脱に成功した。


時は、EP044年4月10日。
この戦いは、始まった戦争の序章に過ぎなかった。

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第5話あとがき
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