Ultimate Justice 第6話 〜死の岩〜

2.betray

EP0044年4月11日 戦艦「ムンド」

「どういうことです!?」

 ドマスティー大統領の困惑した声が、ブリッジのクルーを驚かせた。ドマスティーは、ヘッドフォンを付け、プライベート回線で話していたからである。
 戦艦ムンドは、つい数時間前にURES領内を離脱する事に成功した。やっとクルー全員が胸をなで下ろした所だった。ドマスティーは、自分の発した声がおもっていたよりも大きく、ブリッジ・クルー全員の視線を集めてしまったことに気がついた。彼は、回線を保留し、キャプテンシートから立ち上がって大統領室へ向かった。

「もう一度お尋ねします。ライネル大統領、何故いきなりURESと休戦協定などを締結しなさったのですか?」
『何度も言わせないで欲しいな、ドマスティー君』

 音声だけだが、ドマスティーは、老人――外惑星連邦大統領ローセルト・ライネル――が、人を見下すような表情をしているのが分かった。

『我々は、これ以上無駄な血を流したくないのだよ』
「いまさら、何をおっしゃるのです?」
『我々は、URESと手を組み共に和平の道を歩もうと考えているのだよ。だから、君はおとなしくURESへ戻れ』
「な・・・何を!?」
『今戻れば、数年の処罰だけで済む。そのように、今回URESとは話しをつけた』
「あなたという人は、同じスペースノイドを裏切るつもりですか?」
『同じ?笑わせるな。お前たちは、いつまでも地球圏に寄生虫のようにへばり付いているではないか?外惑星に住む我々は、君たちとは違うのだよ。そう、ニュータイプなのだよ!』
「それが、あなたの本性ですか?しかし、私達ティエラ共和国の独立の為に多くの支援をして下さったではありませんか?」
『ふん、我々が支援したのは、URESと共倒れになれば良いと思って支援したまでだ。まさか、本当に独立を勝取るとは夢にも思っていなかったよ』

 ドマスティーは、強く唇を噛んだ。自分たちが、外惑星連邦によって躍らされていた事が分かったからだ。又、数千万というティエラ共和国国民を、自分の人を見抜く力のなさの故に、苦しめることになるということが、ドマスティーには耐えがたかった。

「ティエラ共和国を、どうするつもりですか?」

『もう、ティエラ共和国は存在しないのだよ。ルナポリスと共に、URESの自治区となった』

 リュウ・ドマスティーは、34年という長い年月をかけて、ティエラ共和国の独立の為に人生をささげてきた。悲願の独立を達成し、ティエラ共和国はEP0040年に誕生した。しかし、その4年後に、自分が知らない間に崩壊してしまったのである。独立は、外惑星連邦の手を借りなければ決して達成できなかったと言ってもいいだろう。しかし、その援助を差し伸べてくれた天使は、時の流れと共に悪魔へと変わったのである。

『そういう訳で、三国防衛協定、及び三国軍事同盟は破棄する。もうティエラという国家は存在しないからな。後、君たちが外惑星連邦領内に入ることは認めない。一歩でも入れば、撃沈する。君たちには、二つの選択肢しかない。URESに戻るか、それともアステロイド・ベルトを墓場にするかだ。以上、通信を終わる』

 ドマスティーは、何も言う事が出来なかった。次に何をすればいいのかさえ思いつかなかった。自分が生涯かけて作り上げたものが、一瞬にして崩れ去ったのだから。ドマスティーが一人、頭を抱え込んでいた時に、来訪を告げるブザーが鳴り、女性の声がインターホンから聞こえた。

『リナ・ジュミリン補佐官です』
「リナ補佐官か、ちょうど良かった。入ってくれ」

 リナ・ジュミリン、彼女はちょうど1週間前までは、URESの大統領であった。彼女は、自分の無力さをを知り、ドマスティーに自分に何か出来る事はないかと申し出た。ドマスティーは、考えた結果、リナの為に『大統領補佐官』というポストを用意したのだった。さすがに、元国家元首であったのでその手腕は確かなものだった。今では、1週間も経っていないのにも関わらず、リナはドマスティーにとって、最も信頼できるパートナーとなっていた。

「どうなさったんですか、顔色が悪いですよ?」
「そうかね?」
「先ほどの通信、ライネル大統領は何をおっしゃったんです?」

 ドマスティーは、どのようにこの事実を、リナに伝えようかと考えていたが、言葉が見つからなかった。ドマスティーが、言葉をつまらせていると、リナが何かを察したのか深刻な顔を見せた。

「・・・ティエラ共和国が、なくなったのですね」

 リナは、自分でも何故このような事が分かったのか、理解できなかった。ただ、ドマスティー大統領から発せられる何かを感じた。それが、図星だということが、ドマスティーの表情から見て取れた。彼は、立ち上がり大統領室にある大きな窓から見える、無限に広がる黒い空を見つめた。

「君の言う通り、ティエラはURESの自治下に置かれた。先日の戦闘はURESと外惑星がティエラとルナポリスを滅ぼすための謀略だったのだよ」
「そんな・・・」

 ティエラ共和国の崩壊、その事実は何となくだがリナにもわかっていた。しかし、まさかURESと外惑星連邦が企んだものだとは夢にも思わなかった。ドマスティーは、淡々と話しを続けた。

「数時間前、URESと休戦協定を結んだと伝えてきた。もし、今URESへ引き返せば、我々への処罰は軽いもので済むとも伝えてきた」
「大統領、引き返そうと思っていらっしゃるのですか?」

 ドマスティーが悩んでいた事を、ぐさりとリナの言葉が貫いた。

「たった1隻では、どうしようもないことは、軍にあまり詳しくない君でも分かるはずだ。。URESは、我々が戻ればティエラ国民は保護すると言ってきた」
「・・・URESが、そのような約束を守ると思いますか?もし、私達が引き返したら、それこそ彼等の思う壺です」

 強い口調でリナが返答した。リナは、ドマスティーがこのようなことで悩んでいることに、少し怒りさえ覚えていた。もし、自分が彼の立場であったなら、すぐに決断しただろう、そう戦い続けると・・・。 ドマスティーの顔は見えないが、笑い声が聞こえた。

「リナ補佐官。やはり、君はジョーイ・ジュミリンの娘だ」

 リナは、振り返ったドマスティ―の顔から悩みが消えたことを、はっきりと感じた。

「忘れていたよ。私は、いつの間にかティエラという国家が出来たことに、満足してしまっていた。向上心が、私の心から逃げ出してしまっていた。取られたら、取り返さなければいけないな・・・故郷を!」

 ドマスティーは、そう言うとすぐにブリッジへと回線を開いた。

『ムンドを、小惑星帯の中立地帯へ向かわせろ。そこで、しばらく潜伏する』

「リナ補佐官、今度は私が君に助けられたな。感謝している」
「いえ、私が今生きているのは、大統領が助けてくださったからです。当然のことですわ」

 リナとドマスティーは、強い握手を交わし、ブリッジへと向かった。



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