Ultimate Justice 第6話 〜死の岩〜

3.death rocks

EP00044年4月14日 戦艦「ムンド」 第12食堂

 小惑星帯の中立地帯であるアルファ地帯に潜伏して、既に3日目に入ろうという所だった。2日前に行われた、ドマスティー大統領による艦内演説で、クラストを初め、ほとんどのクルーがURESと外惑星連邦が休戦協定を結んだ事に驚嘆した。そして、ティエラ共和国、ルナポリス連邦の事実上の解体、この1隻のみが、URESに反旗を翻している状態であるということも、大統領の口から説明があった。

 クラストの予想とは裏腹に、クルーの士気は下がるどころか、今までにない程上がっていた。それは、多くのクルーがあの『ティエラ独立戦争』を生き延び、ある者は十年以上も反URES活動を続けていたからであった。

 元々、ティエラ共和国は「アンティ・ティエラ」という、傍から見ればテロ組織が母体となって誕生した国家である。その名残は、今でもアンティ・ティエラ時代に指揮官、指導者であったドマスティー大統領が、最高司令官を兼任しているところにも現れている。

 戦艦ムンド内は、どちらかというと巨大な家族というような雰囲気だった。そこに、クラストは馴染むことが出来ないでいた。最初の数日は、多くの兵士が寄ってきて話したりしたが、やはり地球生まれであるクラストとは価値観が、面白いほど違っていた。それが理由で、クラストはキールがいない時は、ほとんど一人で食事をとっていた。
 
 いつものように、クラストはMS兵器集の雑誌を読みながら、食事をとっていた時、軍服に身を包んだ長い金髪の女性が、食堂に入ってきた。今まで騒がしかった食堂が静まり返る。彼女が通り過ぎると、ほとんどの人は食べるのを止め、彼女がどこへ行くのかを静かに見つめた。彼女は、食堂のカウンターでお気に入りのハンバーガーを注文した。食堂にいる、多くの人の視線はさらに強まる。

「横に座ってよろしいでしょうか?」

 いつものように、一人で食べていたクラスト・ミリングは不意に声をかけられ、その声の方向へと顔を向けた。トレイを持った女性が立っていた。

「・・・リナ?」
「横は空いていますか?」
「・・ああ、空いてるよ」

 驚いた表情のまま、クラストは彼女が座れるよう二人用のテーブル一杯に散らばっていた雑誌をどけた。彼女が、クラストの向かいに座ると、食堂は再び何事もなかったかのように騒がしくなった。

「お久しぶりね。クラスト」
「そうだな。ちょうど1週間ぶり位かな?」
「もうそんなに経ったんだ。嘘みたい」
 クラストは、リナの表情が大統領時代とは違い、少し明るくなったように感じた。
「リナ・・・、いやリナ補佐官と呼ぶべきかな?」
「今まで通り、リナでいいわ」

 クラストは、久しぶりに見たリナの笑顔に見惚れてしまっていた。リナの方も、何も言わずにクラストがずっと自分を見ているので、少しあたふたした。

「・・・ク、クラストは、いつも一人で食べてるの?」
「ん?ああ、キールがいない時はほとんど一人かな。キールのヤツも、ニュータイプ養成の教官だから忙しくて、ジョイスもまだ精神が安定しないらしくて、1週間近く会ってないしな・・・」
「そうなんだ・・・」

 会話が途切れたその瞬間だった。ドーンという音とともに、艦全体が衝撃に見舞われた。食堂は重力ブロックにあるため、多くのトレイや人が床に倒れる音が響いた。何らかの戦闘が始まったことを理解したクラストは、倒れたリナを立ち上がらせリナと食堂を後にした。

「何が起こった!?隕石が激突したのか?」

 ドマスティー大統領が、ブリッジに飛び込みながら叫んだ。シャワーを浴びていたのだろうか、茶色の髪がまだに湿っていた。

「違います。ビームバリアー発生装置の1基が、何かの力で破壊されました」
 オペレーターの冷静な声が、ブリッジのクルーの緊張感を増加させた。
「第一戦闘配備。各MSパイロットにはMSで待機させろ。後、レーダーに反応は?」

 ドマスティーが、オペレーターにそう聞いた瞬間。再び、先ほどと同じ衝撃がムンドを襲った。ちゃんと固定していなかったのか、分厚いマニュアルが無重力で漂い、ドマスティーの前に流れてきた。ドマスティーは、そのマニュアルを手に取り、それが監視兵用マニュアルだと分かると、ブリッジにいる監視兵の元へそれを放り投げながら、オペレーターに現状報告を求めた。

「第3ビームバリアー発生装置、破壊されました!出力40パーセント低下!コンピューター分析によると、第一、第二波とも高出力のメガ粒子と判明しました!」
「ということは、敵か!MSを順次発進!敵を見つけ次第各自攻撃せよ。監視は何やっていた!?弾幕を張れ!」
 ドマスティーから飛び出す命令を、次々と正確にクルーはこなしていった。
「敵影発見。数は10・・・いえ待ってください」
「MSか?」
「隕石が多くて分かりませんが、約20だと思われます。熱源からしてMSです・・・ライブラリーに情報はありません」
「敵機の姿を確認できません!」
「よく探せ!必ずどこかにいるはずだ!」

 クラストは、2番目にMSに乗りこみ、カタパルトで射出された。射出されたのはいいが、至る所に隕石があり、何とか衝突を避けながらMSを動かすのが難しいくらいだった。

「こんなにたくさん隕石があったら・・・レーダーは?駄目か。他のセンサーは?」

 クラストは、ガンダムを一際大きな隕石の上に降ろし、周辺の状況を把握しようとしていた。一直線に伸びる光が、ムンドをまた襲うのが目視できた。その方向へと、機体を向けた時、また一本の光線がムンドを襲った。すると、今まで艦全体が放っていた鈍い光が薄れていった。

「ビームバリアーが消える?」

 クラストの勘は的中していた。5基あるビームバリアー発生装置が、ピンポイントで破壊されたのだった。ムンドの先頭部しか、ビームバリアーは展開されていなかった。次の瞬間、クラストは自分の目を一瞬疑った。ついさっきまで、機体を乗せていた隕石が突如巡洋艦へと変貌したのである。変貌したと言っても、変形したわけではなかった。

 すぐ様、ガンダムの右手に握られているビームライフルを放った。しかし、着弾すると確信したが、突然姿を現した巡洋艦にはビームバリアーらしきものが展開されており、ビームライフルの光は光の膜に吸い込まれていった。

 迎撃に出ていた、他のMSもその巡洋艦の存在に気付き、実弾、ビームライフル構わず斉射するが、巡洋艦に直撃する前に全て無力化された。
 ムンドからの対空砲火、そして主砲による攻撃も見えない鉄壁によって阻まれた。成す術もないまま、巡洋艦はムンドの横に停止した。

「大統領!敵がムンドに乗り移ろうとしています!!」
 
 クラストが叫んだ時、目の前にあった隕石郡が巡洋艦が現れたのと同じように、MSの部隊が姿を現した。そのMSをクラストは見た事なかったが、ビーム兵器らしきものを、こちらに向けていることは理解できた。

『こちらデス・ロックス。貴艦は既に完全包囲されている。無条件降伏を要求する。全乗組員の命は保障する』

 ティエラの全MS、ムンドのブリッジにもこの男性の声は響いた。一般回線で語りかけてきたのだった。それに、ドマスティー大統領が答えた。

「こちら、ティエラ共和国大統領リュウ・ドマスティーだ。分かった、君たちの言う通りにしよう」
『頭の良い大統領で良かった。こちらも、無駄な血は流したくない。詳しい事は貴艦で話すとしよう。以上』

 クラストは、周りを見渡すと50機以上のMS、そして10隻の巡洋艦に囲まれていたことが分かった。クラストは、機体の右手のビームライフルを、目の前にビーム兵器を向け続けている相手へ流した。それを受け取り、相手はついて来いと仕草をした。

『ティエラ共和国のMS部隊は、全機帰艦せよ』

 また、あの声がコクピット内に響いた。クラストは、反撃する気はなかった。何故か、敵意を彼等から感じなかったからだ。しかし、敵意が感じられないのは、自分の間違いかもしれないと思いつつ、機体をムンドのMSデッキに着艦させた。
 ガンダムのコクピットを開けると、自動小銃の銃口が目に入った。両手を上げ出ると、MSデッキは武装した黒いノーマルスーツを着た数十人によって占拠されていた。

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あとがき
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