Ultimate Justice 第10話 〜分岐点〜

2.earth sphere

EP0044年5月4日 L8コロニー群「オルロン」

 太陽系連邦が、地球圏での建造を認めた最後のコロニー群である。太陽系連邦が設立されてからは、地球圏以外の惑星圏の開発を優先させる法を定めた。人間は「故郷」に戻りたいという意識が無意識の内に働いてしまのか、法を定めなければ地球圏のコロニーばかりの建造が増え続けてしまうからであった。
 
 事実、太陽系連邦の設立時には、地球圏が有するコロニーの数が、他の惑星圏コロニー全部をあわせた数と、ほぼ同数という状態だった。それでは、まずいということで、太陽系連邦はL8コロニー群を最後に、地球圏での新規コロニー群の開発、建造は規制したのであった。

 L8コロニー群の初期計画では、周りにL9、L10という二つのコロニー群が開発される予定であった。しかし、太陽系連邦が設立されそれが実行に移される事はなかった。周辺宙域に、他のコロニー群は存在せず、スペースノイドからは「カントリー・コロニー」、田舎コロニーと名付けられていた。しかし、L8コロニー群は、地球圏にかわりはなく、外惑星圏の富豪が有する多くの別荘が存在していた。L8コロニーの市民にとって、外惑星連邦の人々はお得意様であり、戦時中にも関わらず、外惑星連邦との貿易は続けられていた。

 これに対して、URESは黙認するだけであった。さほど戦力的に重要な地域ではないため、貿易を止めさせる為に、わざわざ戦力を割り振る必要もないと判断したのであった。、その判断は、外惑星連邦にとって優位に働いた。
 貿易は、通常通り行われていたので、この2ヶ月間で少しずつだが、貨物船の中に分解したMSの部品を潜ませ、コロニー内に運び込んでいたのであった。5月までに、分解されたMSは、秘密裏に組み立てられ、その数は20機にも上っていた。そのような所に、外惑星連邦は侵攻を開始したのである。

 火星圏から発進した、外惑星連邦の3艦隊の内、2艦隊は月へ進路を向け、1艦隊はL8コロニーへと艦を向けた。URESは、L8コロニーへ向かう外惑星連邦艦隊を陽動作戦と判断し、月面へと戦力を大幅に増強させた。

 外惑星連邦艦隊から放たれた光の塊が、真空を突き進み、数回の爆発が起こったかと思うと、L8コロニー群「オルロン」は、外惑星連邦の前にあっけなく降伏した。それは、URESの防衛隊の少なさが大きな要因であったが、それよりも、防衛隊の中の人間も外惑星連邦に敵意よりも親しみを覚えている者の方が多かったからとも言えるであろう。

 「オルロン」の降伏がURES軍幹部に伝えられた時、大きな衝撃が走った。それは、アースノイドが9割を占めるURES軍幹部にとっては、屈辱的な瞬間であった。戦略的に重要な地域でないにせよ、「地球圏」の一部を外惑星連邦が占領した事にかわりはない。
 
 地球圏に、スペースノイド――アースノイドが、特に地球圏以外の宇宙移民者を呼ぶ時に使う――が領地を保有するという事は、太陽系連邦の設立以前の「宇宙戦国時代」以来であった。それは、既に400年以上前のことである。守りぬいてきた「聖地」とも言える地球圏が、汚いスペースノイドの手によって犯されてしまったのである。

 この事件は、URES軍の幹部、政府高官を奮い立たせる大きなきっかけとなった。それまでは、マックス・イナダ大統領と、シール・グリーン将軍が機会がある度に要求をしてきた、巨大機動砲台「ウィアロン」の使用に対して、軍幹部と政府高官は、『非人道的だ』という理由で、きっぱりと「NO」と答えていた。
 しかし、このままでは真の聖域である「地球」までもが、スペースノイドによって占領されてしまうという可能性が、夢物語ではないことを知った。すると、軍幹部と政府高官は、最後まで葛藤をし続けた彼らの中に残る『良心』を押し潰したのであった。

 結果、「ウィアロン」の使用を全員一致で決定した。決定後、すぐに準備が始められた「ウィアロン」は、口のように大きく開かれた砲口から常時荷粒子を発射する事が可能となった。それは、決定が下されてから僅か24時間後のことだった。

EP0044年5月5日 月軌道上 巨大機動砲台「ウィアロン」

 コロニー並の巨大な人工建造物が、二枚の輝く翼を広げ、暗黒の空にその姿を浮かび上がらせた。翼に見えたのは、近付くとそれが巨大な巨大粒子加速器であることが一目で理解できる。二枚の翼の間に存在する細い筒状のものが、巨大な砲身であった。それは、地球とは正反対の方向へと、その砲口を向けていた。

 巨大機動砲台ウィアロンは、100年前に太陽系連邦が建造したもので、当時は同型の砲台が12基存在し、地球圏を囲むように守っていた。しかし、太陽系連邦が崩壊した後、全ての機動砲台は大破していた。他の12基もの巨大機動砲台を修復し、維持していく為には莫大な費用がかかるため、当時のURESは1基のみを修復したのであった。50年近くもの間、幾度も修復され保たれてきたのであった。

「やっと高官と軍幹部も、ウィアロンの使用に許可を出したか」
 
 巨大機動砲台ウィアロンの、神々しいとも取れる姿を映すディスプレイを横目で見ながら、アマルティア・トウジョウ中将は小さく呟いた。彼は、2艦隊を率いて、このウィアロンを地球軌道から月への輸送任務を指揮していたのであった。

(あのアステロイド・ベルトの戦いの時に、使用許可を出していれば、地球圏に侵攻されるということもなかっただろうに・・・!)

 胸の内は怒りで満ちていたが、それを表に出す事はなかった。何故なら、兵士の中には、未だにこの「ウィアロン」の使用に反対するものも多くいたからだ。反対する兵士のほとんどが、まだ20代前半であった。それは、この「ウィアロン」がニュータイプの反乱時に、出力が強すぎ4基のコロニーを巻き添えにしたという事件を、ハイスクールなどで習ったからであろう。

「トウジョウ将軍、ウィアロンは月軌道に乗りました」
 オペレーターが、いつも通り冷静な声で必要最小限の情報を伝えた。
「分かった。いつでも発射できるように、照準を合わせろと伝えろ」
「了解しました」

 トウジョウは、そっとオペレーターの後ろに近付き、薄い電子ノートの命令書を無言で渡した。オペレーターは、その命令書に一通り目を通すと、その顔から血の気が失せていった。

「これは・・・!?」
「何も言うな。これが上からの命令だ。この命令書の通り、ウィアロンのコントロール・ルームにデータを送れ」
「・・・」
 オペレーターは、苦渋の表情を浮かび上がらせていた。
「返事は?」
「・・・はっ、了解しました」
「それでいい、君は命令に従い何も考えるな。これは、戦争だ」

 トウジョウはゆっくり、キャプテン・シートへ戻り、腰をおろした。オペレーターは、忠実にその任務をしていることが、後姿から見て取れた。

(これ以上スペースノイドが、この聖地を汚すのは許さん)

3.vanish
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