Ultimate Justice 第10話 〜分岐点〜
3.vanish

EP0044年5月6日 L8コロニー群「オルロン」 宙域

 暗闇の宇宙に光が輝いた。その光景を言葉で表すならば、宇宙に稲妻が走ったといった方が適切かもしれない。その稲妻は、本来の力を保ちながら真空を突き進み、あたかも意志を持つ生き物のように目的地へと向かった。

 外惑星連邦は、URESが巨大機動砲台「ウィアロン」を月軌道にのせたことを把握していた。そこで、URESの元領土であるL8コロニー群を盾にして、艦隊を各コロニーに分散して配置したのであった。そうするとによって、「ウィアロンを発射することは出来ない」状況を人為的に作り上げることが出来ると軍幹部は判断したのであった。その判断に間違いはない。しかし、それは相手がまともな指導者であった場合である。外惑星連邦は、URES大統領マックス・イナダとシール・グリーン将軍という人物を知らなさ過ぎた。

 マックス・イナダとシール・グリーンは、躊躇することなくL8コロニー群を盾にした外惑星連邦艦隊の殲滅を命じた。そして、その命令は他の命令と全くと同じように指揮系統を下り、トウジョウ中将率いる艦隊にまで届いた。トウジョウが受け取った命令書には、「艦隊殲滅を優先せよ」という文が最後に記されていた。その命令を受け取ったトウジョウ中将は、すぐさまウィアロンに発射を命じた。その結果、ウィアロンから放たれた光は、分散して配置されていた外惑星連邦艦隊を、数基のコロニーごと呑み込んだのであった。

 1回の砲撃のみであれば、コロニーの崩壊は事故であったと言い訳が出来たであろう。しかし、2回、3回と砲撃は続き、その光条にコロニーは呑みこまれていった。その光景を、不気味な笑みを浮かべながら、キャプテンシートから眺めているトウジョウとは反対に、ブリッジのクルーは、自分たちの行っている事が、本当に正しいのかどうか分からず困惑していた。しかし、その疑問を口に出す事はなく、爆発を繰り返し、無残な姿に変わりつつあるコロニーを見つめるしかなかった。


同日 アステロイド・ベルト『エリュテーサン』

 URESがウィアロンを使用したという報告が、エリュテーサンの司令部に届いたのは、その発射から数分後であった。その報告が届いたのは、エリュテーサンの最深部の司令室で作戦会議が行われている最中であった。

「本当にあの兵器を?どのくらいコロニーに被害が!?」

 デス・ロックスの兵士がその報告を伝えた時、会議室の円形の机を囲み座っていたリナ・ジュミリンが、勢いよく立ち上がり普段それほど表に出さない感情を露にした。その様子に、情報を伝えようとした兵士は一瞬驚いたが、すぐに冷静な口調で現状を報告し始めた。

「現在入っている情報では、外惑星連邦の艦隊が4基のコロニーを盾にして駐留をしており、URESの巨大機動砲台『ウィアロン』による2回の攻撃で、外惑星連邦艦隊は壊滅、又4基のコロニーも直撃を受け崩壊しました。その後も、確認できるだけで計4回の砲撃があり、8基から10基のコロニーが崩壊したと思われます。さらに、ビームの余波や、爆散したコロニーの残骸が、さらに10基以上のコロニーに何らかの被害を与えたということです」

 そう兵士が言い終わると、リナは全身から力が抜けていくのを感じ、椅子に座り込んでしまった。

「これで、誰を攻撃目標にするかという議論に結論が出たのではないでしょうか?皆さん」

 エスティン・シャアが、作戦会議に出席しているティエラの代表とデス・ロックスの代表の顔を一人一人見つめながら言った。この数日間は、外惑星連邦とURES、どちらの勢力を重点的に攻撃するべきかという議論が持ち上がり、結論が出ないままデス・ロックスもティエラの両部隊は、何も動きを見せられずにいたのであった。全員の顔を一通り見終わると、シャアは再び喋り始めた。

「今回、URESは太陽系連邦時代の大量殺戮兵器を使用し、外惑星連邦の艦隊を駆逐したわけです。それも、一億人の自国民を犠牲にしてまでもです。このような、無慈悲な指導者マックス・イナダは、スペースノイドを、いや人類を滅亡まで追いやる脅威となっています。今こそ、外惑星連邦と手を組み、共にURESを倒し再び太陽系に平和を取り戻すべきではないでしょうか?」

 シャアの言葉に、デス・ロックスの代表は同意の表情を見せ、頷くばかりであった。しかし、作戦会議に出席しているティエラ代表のドマスティーは納得できずにいた。

 何故なら外惑星連邦は、この戦争の初めに、ティエラとの同盟関係を裏切り、敵にまわった勢力であるからだ。その勢力と、いまさら一緒に手を取り合って、URESを倒しましょうと言うのは何かおかしいと感じた。

 URESは、スペースノイド、特にニュータイプと呼ばれる者たちの排除を主張し、それに対して外惑星連邦はアースノイドの排除を唱えている。完全に、両極端な主張をしているのである。それは、このEPという時代が始まった頃から同じである。その真っ向から対立する主義主張の妥協点を見つけ出そうと努力したのが、暗殺されたリナの父ジョーイ・ジュミリンであり、又その娘リナであった。

 ドマスティー自身の主張も、リナと同じで、スペースノイド、アースノイドの双方が手を組み、この太陽系を統治していくシステムを構築するべきだという考えだ。どちらかに手を貸せば、勝利を得たとしても、そのシステムの構築は不完全なもので終わってしまう事は目に見えていた。

 さらにドマスティーを一番悩ませていたのは、このエスティン・シャア率いるデス・ロックスの真の目的が何か未だに掴めないことだった。ドマスティーは、彼の横顔を見てながらその心の奥深くに眠る陰謀を見透かそうとするが、隠れた人の心は簡単に読めるものではない。しかし、ドマスティーはシャアが今の太陽系の混乱をあたかも喜んでいるかのように思えて仕様がなかった。このドマスティーの不安は後に的中することとなる。


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