Ultimate Justice 第11話 〜門〜
2.artificial

EP0044年5月21日 火星圏 M2コロニー MSデッキ

 「地球圏自由同盟(以下:自由同盟)」と名付けられた同盟が、外惑星連邦、ティエラ、デス・ロックスの三国によって締結されてから、2週間が過ぎた。その間は、URESとの偵察隊との小競り合い程度の戦闘が4回、そして、規模の大きい進撃が発生した。しかし、自由同盟軍は、その進撃を食い止めることに成功する。

 クラスト・ミリングは、今までの実績を買われ自由同盟軍の第5MS部隊の隊長に任命され、ほぼ毎日外惑星連邦軍、デス・ロックス、ティエラのパイロットにより編成された、他のMS部隊と模擬戦闘訓練などを行っていた。

 一つ、外惑星連邦と合流した後、クラストを憤慨させたことがあった。それは、外惑星連邦のMSパイロットを見た時だ。自分の部隊に配置された部下、パイロット全員が同じ顔、そして体格をしていたからだ。

 それは、誰かに説明されなくても、封印されたはずの「F・テクノロジー」――クローン技術、遺伝子操作、ナノマシンなど、人間への使用を禁止された技術――を駆使し、昔「強化人間」と呼ばれていた人間兵器を、外惑星連邦が「大量生産」していた事実は、クラストにも容易に見て取る事が出来た。

 彼ら強化人間は、確かにMSパイロットとしては申し分のない働きをしてくれる。しかし、感情を抑制する装置か何かを埋め込まれているのか、喜怒哀楽を表すことは非常にまれだった。また感情を表すと、コクピットから出て来た所に、専門のドクターがどこからともなく飛んできて、精神安定剤と思われる液体を注射する姿を、この数日間で数え切れないほどクラストは目撃した。この、非人道的な事実は、何故自分がこの戦争を戦っているのか?という混乱の中にいるクラストを、さらに深い混乱へと押しやる。

 人間というよりも、機械に近い。それが、強化人間に対する正直な気持ちだった。そして、いつの間にか、彼らを人間として見れなくなっている自分自身にも、クラストは憤りを感じていた。

「クラスト隊長。準備が整いました」

 その声に、クラストは目を通していた書類から、視線を3名の部下に注いだ。いつになっても慣れない奇妙な光景だった。3人、全く同じノーマルスーツを着用し、皆、右足を少しだけ前に出した癖のある格好で立っている。クローン技術は、人間の癖まで完璧にコピーするのかと、仕様も無いことを考えながら、分かったと相づちを打った。

 外惑星連邦は、数種類の強化人間を「生産」していることが、数日一緒に過ごすと分かった。それは、パイロット、艦船クルー、エンジニアやメカニックマンといった、主に3つのにタイプが存在した。タイプごとに、顔や体格、人格も異なり、元となった遺伝子も違うのだろうと推理できた。強化人間一人一人を、外惑星連邦は名前では呼ばずに、代わりにナンバー・システムによって番号化されて付いた番号を呼ぶ。しかし、さすがにクラストは番号で呼ぶ気にはなれず、ピエテロ曹長、グレイ伍長、ボブ伍長と、一人一人名前を付けたのであった。

「ピエテロ曹長、今日の作戦を彼らに説明してくれ」
「はっ、分かりました」

 ピエテロと名付けられた褐色の人物は、外見も体格も全く同じである残りの2人に振り返る。そして、2人と向き合ったまま、口も開かず数分間、見詰め合うだけであった。

 この光景も、初めて見たときはクラストにとっても異様に映ったが、慣れてしまえばどうってことなかった。彼ら強化人間は、ニュータイプ能力、取り分けテレパシー能力というものが非常に高いらしく、意識による会話が成り立つと、外惑星連邦の強化人間プロジェクトの代表から説明されていた。

「少尉、全員に伝えました」
「ありがとう、曹長」

 ピエテロは、無表情のまま、敬礼をし2人が立つ横に加わった。

「では、各自MSにて待機。上からの命令が下り次第、出撃をする。以上だ」

 クラストは、溜息を付き赤いガンダムのコクピットに滑りこんだ。やっと、一人になれたと思ったら、目の前にジョイス・ミラーの顔があった。

「ジョイス?」
「だいぶ疲れてるみたいね。クラスト?」
「ああ、さすがに感情を表に出さない部下と、一日中付き合っていると、おかしくなりそうだよ」
「そう、大変だね」

 そう最後の言葉を吐いた後、ジョイスの顔が、一瞬曇ったように思えた。クラストは、出撃命令がいつ下っても言い警戒態勢の時に、ジョイスは何をしにきたのだろうと、ふと疑問に思った。その疑問に答えはすぐに出た。

『私ね、黙っていたんだけど、純粋なニュータイプなんかじゃないんだ」

 どのように反応すればいいのか、戸惑っているクラストを横目に、ジョイスはMSデッキに黙々と作業をする10人以上の、機体の修理、整備を専門とする能力を人工的に授かり、強化された人々に視線をやった。

「実は、私とキースは、彼らと同じなのよ」
「・・・同じって?」

 ジョイスが何を言わんとしているのか、なんとなく分かるような気がクラストにはした。

「・・・私とキースは、大量生産された人間の一人なの」

 本人の口からその言葉を聞いた瞬間、その言葉の重みと現実に、胸が押し潰されそうな感覚に捕らわれた。クラストは、目を逸らすのを我慢するのが精一杯で、慰めの言葉もかけることさえ出来ない。

「25年前から、外惑星連邦はこの強化人間プロジェクトをスタートして、私とキースの、2種類のタイプが試験的に生産されて、私たちはその先行量産型なの。当時、外惑星連邦が反URESテロを組織していたドマスティー大統領の元へ、軍事技術支援の計画の中に、私たちの試験管も入っていたらしくて・・・。本来なら、数倍の速度で成長を促すナノマシンを起動させて、すぐに実戦に投入するのが、強化人間の役目。でも、ドマスティー大統領は、私たちを里親に預けて育ててくれた・・・」

 次々とジョイスの口から吐き出される言葉に、クラストの心は沈んで行くばかりだった。自分の力では、どうしようもない事実が目の前にある。すぐ手の届く所に、傷つき苦しんでいる人がいる。でも、何も出来ない自分への無力さを感じずにはいられなかった。そう、これがあの宇宙世紀の「ニュータイプ」と同等に見られる自分の姿だ。無力な一人の人間。

「私たちが、その事実を知らされたのは5年前。でも、その時にはもう同じタイプの強化人間は、皆古くなって廃棄されてた。結局、私とキースが、強化人間計画の初段階の最後の生き残りなわけ」

「そうだったんだ・・・ごめん」
 
 長い沈黙の後、出た言葉がそれだった。クラストは、涙を浮かべるジョイスの横顔を見つめ、自然とジョイスを抱きしめていた。彼女も、少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに涙で頬を濡らしながらも、自分に微笑んでくれた。
 
 強化人間をいつの間にか、機械として見ていた自分。その謝罪の思いをジョイスに向けた事で、どうにかなるわけではない。しかし、ジョイスはその思いを、しっかりと受け止めてくれた。ジョイスは強化人間、だったら同じ強化人間であるピエテロ、そして自分の部下たちも同じように感情を持った人間として生きることも可能ではないか?そのような希望がクラストの中に宿った瞬間だった。

「じゃあ、行かなくちゃ。なんで、こんなこといきなり話したんだろ。自分でも、不思議」

 ジョイスは、涙をノーマルスーツを着た手で拭いながら、クラストから離れ、コクピットを去ろうとした。

「ありがとう。本当のことを話してくれて」

 ジョイスは、笑顔で振り向いた後、コクピットから身を乗りだし、自分のMSの方へと姿を消した。


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