Ultimate Justice 第11話 〜門〜
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EP0044年5月25日 火星圏 

 1ヶ月前であれば、誰もこのような光景を見る日が来るとは夢にも思わなかっただろう。外惑星連邦の旗艦である戦艦ヒンメル、ティエラ共和国の同型艦ムンド、そして、デス・ロックスの戦艦アルマドが並んで航行しているのである。
 
 1ヶ月前、外惑星連邦はティエラを裏切り、実質交戦状態になった。また、デス・ロックスとは太陽系連邦崩壊後の約50年間、敵同士であった。その、敵対関係にある勢力が今、「地球圏の解放」を掲げ一緒に戦っている。
 
 デス・ロックスによってビーム・バリアー発生装置を破壊された戦艦ムンドも、先日やっと修復が終わり、戦線に復帰する事が可能となった。そのムンドのブリッジに、リナはキャプテンシートの横に設置されたシートに腰をおろしながら、横一列になっているヒンメルと、アルマドを見つめた。

 数ヶ月前まで、自分は戦争のない平和な世界を目指して、政治活動に励んだつもりだった。リナは、補佐官という立場に置かれて、結局は長い人類の戦いの歴史を、自分の力では止める事は出来なかったことを改めて痛感した。自分の思いとは裏腹に、自分自身が戦争の火種となり、太陽系に広がった人類に悲しみ、痛み、苦しみを与えてしまっている。

『敵を補足、迎撃態勢を取ります』

 リナが考えている最中、再び火星圏奪還に向けて動き出したURESの艦隊との戦いが幕を開けた。自由同盟軍の元首が乗艦する3隻の軍艦を中心に、艦船はだ円形の編隊を組み、URES艦隊を迎え撃つ準備を整えた。

 艦船から、次々と小さな光が飛び出していく。一つ一つの光が、意志をもった命。強化人間であろうと、そうでなくとも、同じ命を授かった人。リナは、その命を宿った光が、正反対の性質である死が潜む空間へと吸い込まれて行くのを感じた。何か、映画でも観ているような錯覚にリナは陥っていた。そんな、リナを現実に引き戻したのは、ブリッジにかすかに聞こえた男性の声だった。

『クラスト・ミリング、行くぞ!』
「少尉、どうぞ」

(クラスト・・・あなたは、何の為に戦うの?)

 赤い機体が、カタパルトに上がり両膝を屈めたと思うと、勢いよく宇宙へと飛び出されていった。

(戦争が起こったっていう事実は、もう変えることは出来やしない。だったら、俺に出来る事は、敵を倒してこの戦争を早く終わらせること・・・)

 ふと、そのような意識がリナの意識に入ってきた。それが、クラストの出した答え。

(でも、敵だとしても、彼らは私たちと同じ人。それに、同じ命の輝きを宿す人。何故、分かり合うことが出来ないの?)
(分かり合うなんて、そんな器用なこと俺も出来っこない。小さないざこざで人は、相手を罵る言葉を吐いたり、怒りを向ける弱い生き物だ。本当に、ニュータイプと呼ばれる人がいるのなら、分かり合えることは可能かもしれないけれど・・・)
(違うわ。ニュータイプなんかじゃなくても、人は分かり合えるはずよ)
(リナが、そんな時代を築いてくれ。俺は、その前の準備をするだけだ)
(クラストっ!)

 クラストの意識が、すっとリナから霧のように消えて離れていく。リナは、クラストが飛び去った後を、戦闘が終わるまで見つめ続けた。

 1機のジェスIIIが、URES巡洋艦へ向けて突撃を仕掛けていたクラストの前に立ちはだかった。クラストは、すぐ様ビームライフルを1機に向け、トリガーを引こうとした。僅かの間だが、ビームライフルを向けた機体に乗っているパイロットの存在を、「感じて」しまった。40代、2人の娘が地球の北欧地域で帰りを待っている。そんな、意識が映像となってクラストの脳を通過した。

「もらった!!」

 狙われていたジェスIIIは、ビームマシンガンをクラストが見せた一瞬の隙を付き発射した。

「隊長!」

 ピエテロ伍長の通信が、クラストを救った。ビームマシンガンから放たれた光条は、機体の肩の装甲の表面を黒く焼くだけに留まった。クラストでなければ、避けられなかっただろう。即座に、クラストはビームライフルを斉射した。一瞬にして、ジェスIIIの頭と両腕はビームによって破壊された。

「生きろよ」

 衝撃によって暗黒の空へ小さくなっていくジェスIIIを見つめながら、無意識の内にクラストは呟いた。

「知り合いですか?」

 全天周モニターに、ピエテロの真剣な顔が映り、そう問い掛けてきた。その純粋な問いに、「今、知り合ったばかりだ」と答えると、ピエテロは眉間にしわを寄せ、困惑の表情を見せた。

 ピエテロも変わりつつあると、クラストは確信した。ジョイスが過去を打ち明けてくれた後、クラストは自分の部下だけでも、感情抑制装置を外してくれと頼み込み、何とか承諾を得た。たった数日だが、特にピエテロは他の部下より、今までにない表情を見せるようになった。

「後で説明するよ。今は、戦闘中だ。いくぞ!」
「了解」

 
人は分かり合える事が出来る。例えニュータイプでなくても。そのリナの言葉を、胸に刻みクラストは再び死の空間へと機体を向けた。


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