Ultimate Justice 第15話 〜光の雨〜
2.clouds of light

EP0044年6月17日 月軌道上

 3機の赤い機体と、3機の白い機体は、その機体の至る所に傷を受けながらも、敵を前線司令部から遠ざける事に成功していた。

「何て数だ!」

 クラストは、既に十数機撃墜していた。しかし、いくら撃墜しても、次から次へと飛来してくるデス・ロックスのMAとMSにうんざりしていた。そして、度重なる戦闘は、クラスト自身、そして連携して戦っている仲間にも、じわじわと疲労を蓄積させていく。

 長時間に渡る緊張状態、そして、凄まじい精神力を必要とするサイコミュ兵器使用によってもたらされた疲労が、一瞬だがキールの反応を遅らせた。それを、デス・ロックスのノウヘッドは見逃さなず、ビームソードを振りかざした。その大出力ビームソードは、キールの赤いガンダムが展開するミノフスキーバリアーを突破し、その下半身をいとも簡単に切り裂いた。その衝撃で、キールは意識を失ったのか、ノウヘッドを捉えようとしていたファンネルが動きを止めた。


「よしっ!」

 クラストは、やっと自分の周辺の敵を撃墜した時に、その光景を目の当りにした。自分が乗る機体と同型の赤い機体の下半身がない。頭は目から送られてきた映像を、正確に言葉に翻訳した。しかし、クラストは理解できなかった。

(下半身がない・・・?)

 そして、次の瞬間、キースの乗る機体はジェネレーターに誘爆を起こしたのか、一瞬光ったと思うと、音のない爆発が目の前を明るくした。しかし、その爆発を見たにも関わらず、未だにそれが現実であることが理解できずにいた。そんなクラストを現実に戻したのは、悲痛なジョイスの叫び声だった。

「・・・キース!!」

 ジョイスが操る赤いガンダムは、怒り任せに踏みこまれたペダルに比例するように、バーニアとミノフスキードライブは機体に巨大な推進力を与えた。その勢いのまま、キーすを撃墜した機体へと向かった。あまりの早さにノウヘッドのパイロットも驚いたのか、隙を付かれてあっけなくファンネルの餌食となり、その機体は火球に包まれた。しかし、ジョイスの操るファンネルは、本人の代わりに怒り、憎しみ、悲しみをあらわすかのように、爆散したノウヘッドの小さな残骸さえもビームで撃ち、それを消し去っていった。

 その様子を見て、クラストはこの数ヶ月の間で亡くなった友、キム・ジョンソンとミカ・ルケードの顔を思い出していた。

(くっ、今悲しみに暮れたって。どうしようもない!)

 クラストは、心に蘇る悲しみを抑えるように、パイロットスーツごしに自分の胸を押さえた。そして、機体をファンネルでノウヘッドの存在を消し去ったジョイスの機体へと向け、接触回線を開いた。

「ジョイス・・・」
「・・・・うっ・・」

 彼女が泣いているということは、すぐに分かった。接触回線によってモニターに、コクピット内の彼女の姿が映し出されたからだ。

「キースが・・・キースが・・・」

 ジョイスが泣いている姿と、キムが殺された時のミカのイメージが重なって見えた。しかし、そんなことを全く気にも止めず、デス・ロックス軍は攻撃をしかけてくる。ビームが雨のように、無防備なジョイスの機体に降り注ぐ。クラストは、すかさずビームシールドを展開し、ジョイスを守る。

「ジョイス!悲しんでいる暇はない!」

 聞こえているはずだが、返事もなければ赤い機体はただ宇宙に漂い、ファンネルも全く動く気配がない。2機が動けない事を知ると、さらに砲撃が激しくなる。何とかクラストも、残ったファンネルで応戦するが、長時間の戦闘でファンネル自体のエネルギーも残り僅かとなっている。すぐに、ピエテロ、グレイ、ホセもジョイスの機体の囲い防御態勢を取るが、彼らの機体も五体満足なものは1機もなかった。

「ジョイス!聞こえてるだろ?」

 必死にクラストは呼び掛けるが、うんともすんとも言わない。警告音がコクピットに響いた。それは、全てのファンネルがエネルギー切れだという事実をパイロットに伝えた。

『敵アステロイド・コロニー前方に展開している部隊に告ぐ。ウィアロンが発射される。繰り返す、ウィアロンが発射される。射線上にいる部隊はすぐに・・・』

「隊長!ここは、私たち3人が盾となります。その間に、ジョイス・ミラー少佐を連れて、一時撤退して下さい!」

 ピエテロが、クラストの機体に接触回線を開き、そう言った。クラストは、モニターごしにピエテロの真剣な眼差しを感じた。こんな表情、ほんの1ヶ月前はしなかった・・・人間らしくなったな。クラストは、純粋に嬉しかった。
 
 クラストは、「生きて帰ってこいよ」と言い残し、ジョイスの機体を牽引しながら、一番近くの同盟軍艦艇へと向かった。

 クラストとジョイスの機体が、一番近くに展開していたURES軍レビル級空母に緊急着艦したちょうど同じ時。宇宙に再び、一筋の光が走った。ウィアロンが発射されたのだった。その光は、アステロイド・コロニー「エリュテーサン」に深く突き刺さった。


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