Ultimate Justice 第16話 〜日没〜
2.words from the past

EP0044年6月20日 地球軌道ステーション「ジュダ」 総合司令部

 総合司令部の巨大スクリーンには、デス・ロックスの2000隻以上によって構成される大艦隊が、最大望遠で映し出されていた。意外なことに、その大艦隊の中には、URES軍や外惑星連邦軍の艦艇やMSの姿が多数あった。

 外惑星圏は、既にデス・ロックスの占領下にあり、月面や地球圏のコロニーもそうだ。デス・ロックスは、占領下に残されていた兵器を使用するのは別に珍しい事ではない。そう同盟軍首脳たちは、自分たちに都合の良いように言い聞かせていた。しかし、現れた映像は彼らの甘い考えを一瞬にして葬り去った。

 巨大スクリーンに映し出されたエスティン・シャアの後ろには、数ヶ月前までは共に戦った軍人の姿が数多く見受けられたからだった。各首脳の驚いた表情を、愉快にシャアは見つめ、爽やかな笑みと共に話しかけた。

「地球の皆さん、そして地球軌道上にいる皆さん。おはようございます。私と共に戦ってくださる同士を紹介しましょう。外惑星連邦首都防衛隊、そして、外惑星圏の各コロニー、各惑星の防衛隊、新たに誕生したばかりの月面都市連合、そして、コロニー連盟の方たち。見覚えのある顔ぶれではないでしょうか?彼らは、進んで私の同士となってくださったのです。この太陽系の秩序を乱す、自由同盟を滅ぼす為にね」

「ふん、滅びるのは貴様らの方だ!」

 ローセルト・ライネルが、どすのきいた声で答えた。

「まぁ、そう言わずに。これがラストチャンスです。今、降伏すればあなた方を、良いポストにつけてあげますよ?今までの争いは、なかったことにしましょう。どうです、地球圏の皆さん?」

「するわけないだろう、エスティン・シャア。今、降伏すれば、死んだ私の息子を返してくれると言うのなら、話は別だがな・・・」

 ローセルト・ライネルの問いに、シャアは何も答えなかった。さすがに、外宇宙のテクノロジーでも死んだ人間を生き返すことは不可能なのだろう。リナは、ライネルの横顔を見て、ヨシュアという後継ぎを失った悲しみが、彼を一気に老いさせたように思えた。

「リナ・ジュミリン補佐官」

 シャアの声が、総合司令部内に響く。リナは巨大スクリーンに映し出されシャアと対峙した。

「あなただけでも、私たちの方へ付きませんか?」
「結構です。シャア閣下」

 き然とした態度で、リナが即答する姿を見て、シャアは大きく溜息をついた後、ゆっくりと口を開いた。

「リナ・ジュミリン補佐官、あなたのような貴重な人材を失いたくはなかった・・・・・・それでは、自由同盟の皆さん、今から攻撃させて頂きます。もう、降伏宣言は受け入れませんので、お手柔らかにお願いします」

 その言葉を最後に、通信は切れた。重苦しい空気が総合司令部を満たし、誰もが緊張した面持で立ちすくんでいたが、シール・グリーン将軍の「戦闘配置に付け」という掛け声によって、兵士たち全員が動き出した。

(もう後には引き下がれない)

 通信が終わったにも関わらず、スクリーンを見つめているリナに、リュウ・ドマスティーは小声で言った。

「シャアが言ったように、あなただけでも降伏して、生き延びてくださった方が、後の世の為にも良かったのかもしれません」
「ドマスティー大統領。いいえ、もし私が降伏したとしても、シャアは私を円滑に統治するための道具としか利用しないでしょう」
「そうかもしれません。しかし、生きてさえいれば、いつかは、反乱などを行うチャンスが巡って来るかもしれません」

 リナは、改めてドマスティーに向かい合い、笑顔を浮かべ深深とお辞儀をした。その表情につられて、ドマスティーも笑みを浮かべ理解した。もう、彼女は自ら進むべき道を決めており、何を言っても無駄だということを。

「お気遣い、本当にありがとうございます。でも、まだ私が死ぬとは決まっていません。最後まで、希望は捨ててはいけない。それは、数十年間、大国相手に抵抗運動を続けて独立を勝取った、ドマスティー大統領の得意分野ではありませんか」
「そうだったな・・・忘れかけていたよ」

 ドマスティーが、リナの顔を見ながら、笑みを浮かべているので、それを不思議そうにリナは見つめた。

「すまない。本当に、君は父親にそっくりだと思ってな・・・」
「いいえ、光栄です。ドマスティー大統領」

 リナの父、ジョーイ・ジュミリンは、テロ組織と呼ばれていたドマスティー率いるアンティ・ティエラと、まともに取り合ってくれた、ただ一人のURES議員だった。彼は、周囲から批判され続けたが、最後まで平和交渉を続け、遂にはその活動が、国民にも受け入れられ大統領に選出された。そして、念願のティエラ共和国誕生の為の会談が始った。

 しかし、会談の場で、ジョーイは何者かが放った銃弾によって倒れ、ジョーイとドマスティーが、共に築き上げてきたティエラ共和国誕生の夢は消え去ることとなった。最後にジョーイは、「私の一人娘、あいつは政治家になる資質がある。もし何かあったら、あいつを助けてやってくれ・・・」と横の席にいたドマスティーに言い残し息を引き取ったのであった。

 このことは、ドマスティー自身、誰にも話したことはなく、胸の内に閉まっていた。リナの横顔を見ながら、その過去の言葉を心の中でじっくりと噛み締めながら、ドマスティーは深く心に誓った。

(ジョーイ、お前の娘は絶対に死なせはしない)


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