Ultimate Justice 第16話 〜日没〜
3.a moment

EP0044年6月21日 地球軌道ステーション「ジュダ」 MSデッキ

 月の港から出港したデス・ロックス艦隊は、確実に獲物を仕留めようとしているのか、それとも恐怖を与えようとしているのか、ゆっくりとした速度でじわじわと地球衛星軌道上に敷かれた、自由同盟軍の最終防衛ラインに近付いていた。そんな中、各軌道ステーション、各艦艇では兵器、MSの最終チェックが行われ、整備士は大忙しで働いていた。その働き振りを見つめながら、多くのパイロットは最後の休憩になるかもしれない時間を、思い思いの方法で過ごしていた。

 ジョイス・ミラーは、いつものように自機のコクピットでくつろいでいた。そこに、思っても見ない来客が現れたのだった。殺した相手の婚約者。どうやっても償いきれない相手、ルーン・リー少佐だった。

「大丈夫か?」

 もしかしたら、今度こそ殺されるのじゃないかと恐怖で硬直してしまっていたジョイスは、そのような言葉をかけられても、緊張しきった口が思うように動いてくれず、大げさに首を上下に振った。

 その仕草を見て、ルーンはおかしくて笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ。あんたを殺しに来たわけじゃないよ」

 しかし、ジョイスが警戒心を解く様子がないので、両手を挙げて見せて何もないことを行動で現した。すると、やっと信用してくれたのか、少し緊張気味な声で話し始めた。

「殺しに来たんじゃないのなら、一体、何の為に私の所に来たんですか?」
「まぁ、そう警戒しないでおくれよ」

 未だに、本当に何の為にルーンが、自分を尋ねて来たのかさっぱり分からなかった。そう考えている内に、ルーンはずかずかとコクピット内に入って、計器を見回していた。

「へぇ〜、これが私たちを苦しめた、ガンダム・タイプか」
「ちょっと、勝手に入ってこないで下さい!これは、軍の機密・・・」
「今は、同じ同盟軍だろう?そんなお堅いこと言うもんじゃないよ」
「それは、そうですけど・・・」

 ジョイスの方を向かず、計器類を見ながら、ルーンはさっきとは全く違う、真剣な口調で語り始めた。

「・・・キースって言ったっけ」
「キースが、どうしたんですか・・・あなたには、何の関係もないはずです」
「いや、あんたの兄弟みたいな存在だったんだろう?・・・本当に残念だな」

 まさか、ルーンからこんな言葉が出るとは思わなかったジョイスは、ルーンがどんな表情で言っているのかを知りたくて、顔を覗こうとしたが、すぐに顔を背けられてしまった。

「キースのことは、私も残念に思う。だけど、・・・私は、あんたが私から大切な人を奪ったっていうことを許すつもりはないよ」

 心の傷に、再び鋭い刃が当てられた感じがし、ジョイスはその痛みから逃げようと床を見つめた。

「でもな・・・私考えたんだ。結局、私はヨセフスが死んでから、何をしてきたのかなって。無人兵器や、アークスっていう疑似ニュータイプ装置の開発、研究の毎日、それも全部、ヨセフスを殺した奴を殺る為にね・・・」

 ジョイスは、ルーンとの戦闘で、何度も感じたあの殺気が、再び目の前にいる彼女から発せられているのを感じた。

「けど、こんな思いをずっと持っていても、ヨセフスは返って来ない。あんたの仲間を2人、自分の手で殺して、やっと気が付いたよ。あんたを、殺っても結局空虚感が残るだけだろうし・・・それに、ヨセフスも返って来ないし・・・ああっ!もう、やめた!」

 ジョイスは、恐る恐る顔を上げルーンの表情を伺った。すると、もう彼女からは、先程の殺気は微塵も発せられていなかった。

「わざわざ、それを私に言いに来てくれたの?」
「ああ、そうだよ。悪いか?」
「うんうん、本当に・・・・・・ありがとう」

 ジョイスの心からの感謝に、照れくさそうにルーンは再び笑みを浮かべた。

「もう殺そうなんて思わないさ。忘れないで欲しいのは、私はあんたを許さないってこと」

 ジョイスは、真剣な眼差しでルーンを見、頷いた。ルーンは、コクピットから出る際にジョイスに向かって言った。

「絶対、死ぬなよ!あんたには、ヨセフスの分まで生きて、生きて償ってもらわなくちゃいけないんだからね!」

 ジョイスは、涙を瞳に浮かべながら、大きな声で「はい」と答えた。その声に、一人の整備士は何事かとジョイスの顔を見るが、すぐに同僚の整備士に呼ばれ、MSの最終確認作業を再開した。

 地球圏を巡る戦闘が刻々と近付いていた。


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