Ultimate Justice 第18話 〜青い星〜 |
1. long trip EP0044年6月21日 軌道ステーション「ジュダ」 トウジョウが去った後、クラストはドマスティー大統領の前に立った。その振るまいは、先程の無気力だった彼とは別人のようだった。クラストは、しっかりとドマスティーを直視し敬礼をした。 「大統領。今まで、ありがとうございました。このご恩一生忘れません」 それに答えるかのように、ドマスティーもクラストに敬礼をする。そして、笑顔でこう答えた。 「そうだな・・・戦争が終わったら、お礼として地球でおごってもらうかな」 「失礼しました。この戦争が終わったら、サッポロの行きつけの店へとお連れ致します」 「ああ、そうしてくれると嬉しい。地球には、この数年間足を踏み入れてないからな・・・」 ドマスティーは、綺麗に輝く青い星を映し出しているスクリーンを悲しそうに見つめた。そして、視線をクラストの横に立つリナに向け、再びクラストに移した。 「冗談はさて置き・・・もう、私は君たちと会うことはないだろう」 「そんな!?」 ドマスティーの言葉に最初に反応したのはリナだった。彼女の瞳は溢れ、今にも涙が流れ出しそうだった。 「リナ大統領。このジュダを制圧するには、さすがにテロ組織を率いた私でも不可能に近い。ティエラ共和国の兵士も数十人しかいません」 「不可能でしたら、私たちと一緒に地球へ降りればいいのでは・・・」 「いえ、そんなことをしたら、せっかくトウジョウ中将が命懸けで立ててくれた計画が台無しになってしまいます。私は、ここに残り、やれることのだけはやります。あなたは、地球へ降り・・・新たな未来、戦いのない未来を創って下さい」 「ドマスティー大統領・・・」 ドマスティーは、その大きな腕でリナを優しく抱擁した。その感覚は、よくリナが子供の頃、父親が抱いてくれた時に感じたような、優しい温もりだった。しかし、その感触はすぐに消え去った。ドマスティーが、リナの両肩をつかみ離したからだ。 「さぁ、国民の代表である大統領が泣いてはいけません。クラスト少尉、彼女を頼みます」 「はい」 「これ以上、時間を取っていると怪しまれますので、これで失礼させて頂きます」 再び、クラストとドマスティーは敬礼を交わす。リナは、何とか笑顔をつくろうと頑張っているが、彼女にとって命の恩人でもあるドマスティーと別れるのは辛く、涙が次々と人工重力によって床へと零れ落ちていく中、ドマスティーの決意を固めたその背中はドアの向こうへと消えていった。 同時刻 最終防衛ライン 前線 「ちっ!!次から次へと、こりずに沸いて出てくる!」 ルーンは舌打ちをし、敵MAボールが放つ拡散メガ粒子砲の光条を、ぎりぎりで避け、怒りを声に出して叫んでいた。束の間の休息は、同盟軍に補給する時間を与えてくれた。しかし、それはデス・ロックスも同じであった。かなりの数を撃墜したはずなのに、さらに数を増してボールとノウヘッドが次々と飛来してくる。 ルーンは、冷静さを取り戻す為に、戦闘の合間にヘルメットのバイザーを開け、無重力で浮かぶペンダントを手に取り口付けした。 「ヨセフス、守ってよ!」 対ニュータイプ兵器として開発され、一時的にパイロットの能力をニュータイプ並にまで引き上げる装置「アークス(ARCS)」の使用、そして、禁断のテクノロジーであった、強化人間のクローンパイロットによって、何とか同盟軍は戦線を維持出来ている状態であった。しかし、未だにアークスと強化人間には、多くの問題点があった。 アークスは、パイロットによって、起動時間に差があるといった問題点が解決されておらず、さらにアークスの長時間使用は、パイロットに大きな精神的ストレスをもたらし、身体的にも大きな負担をもたらす問題点も解決されていなかった。 それは、強化人間のクローンパイロットも同じで、長い時間にわたる戦闘は無理であった。それは、薬剤による精神安定剤を一時間置きに注射しなければ、精神が不安定になり、戦闘どころではなくなるからであった。 しかし、アークスと強化人間なしで戦っていれば、最終防衛ラインは最初の攻撃で崩壊していた。長時間の使用を控えろといわれても、その指示に従うパイロットは誰一人いなかった。それに従えば、次の戦闘で自分がやられるのは確実であったからだ。 ルーンとフィリップも、アークスの長時間の使用によって、心身共にかなりの疲労が溜まっていた。しかし、ジョイスの手助けもあり、何とか強い精神力によって、戦闘を続行している状態であった。 「14機目!」 フィリップが、チームを組んでいるルーンとジョイスに少しでも精神的に楽にさせようと、明るい声で報告した。フィリップの顔が、2人のコクピットの一つのウィンドウに現るが、その明るい声とは裏腹に、表情からは相当無理している事が読み取れた。それを見かねたルーンは、一言命令した。 「フィリップ、1回補給しに戻れ!」 「何を言うんですか?自分が抜けたら・・・」 「いいから、戻れ!」 そう会話をしている内にも、巨大な光の刀を振り回すノウヘッドが襲いかかってくる。話していたせいか、ルーンは判断するのが一瞬だが遅れた。迫り来る光の刃が、全天周囲モニターを明るくする。ヘルメットに内蔵されたスピーカーからは、ジョイスとフィリップの叫び声が聞こえる。自分の判断の遅さを呪い、ルーンは覚悟を決め目を閉じた。しかし、いくら経っても身体の感覚がある。汗が背中をつたるのも分かる。 なぜだと疑問に思いながらも、ゆっくりと両目を開けた。すると、目の前には、コクピットを打ち抜かれたノウヘッドの機体が浮かんでいる。そして、ふとモニターの片隅に目をやると、切断された腕が青い星へと流れている。その手には、自分を切り裂くはずだったビームソードが握られていた。 ピィーという音ともに、コクピットに「プライベート回線」という文字が浮かび上がり、一人の男の顔が現れた。その顔を見て、自然に笑みがこぼれた。 「遅くなって申し訳ありません。ルーン・リー少佐」 「ああ、遅かったな・・・クラスト・ミリング少尉」 「クラスト!!」 「少尉!!」 ジョイスとフィリップの声が、突如聞こえた。彼らにも、クラストは通信回線を開いていたのだ。 「ジョイス、遅れてすまない・・・後、フィリップ大尉、先日のことでお礼を言いたい。あの時は、ありがとう」 「あの時の少尉は、おかしかったんですよ。感謝されても困ります。自分はただ、少尉を殴っただけですから」 「それでも、感謝するよ大尉」 ルーンは、クラストの目が前とは違うことに気が付いた。その瞳は、何か大きな決断を下していた事を示していた。 「・・・命をかけて守りぬく覚悟が出来たというわけね」 「はい。自分の命をかけて、彼女を守ります」 クラストが「彼女」といった時に、後ろをちらっと見るようにした何気ない動作を、ルーンは見逃さなかった。あらゆる情報を頭の中で瞬時に計算し、一つの結論に達した。 「リナ・ジュミリン補佐官が、そこに・・・いるのか?」 その言葉に、ジョイスもフィリップも驚き、ウィンドウに映るクラストの顔に視線を移した。クラストはゆっくりと首を縦に振った。 「こんな戦場に何で・・・まさか、少尉またら致をしようとでも言うのか!?」 クラストが、サッポロからリナ・ジュミリン大統領を「ら致」したように、またら致するのではないかと、真っ先にルーンは考えてしまった。しかし、すぐにそれは、軍が発表した偽情報だったことを思いだし、軽率に口に出した言葉を、すぐに撤回した。 「いや・・・補佐官を脱出させるのか?そうだな、少尉?」 クラストは、再びこくりと頷き、固く閉じていた口を開け、詳細を話し始めた。 「軌道ステーション401『ペデロ』に向かわないと行けない。出来れば、ルーン少佐、フィリップ大尉、ジョイス少佐に、そこまで護衛してもらいたい」 「軌道ステーション401までだと?どれだけの距離があると思っているんだ?それに、あそこは現在もっとも激しい戦闘が行われているんだぞ?」 こんな忠告をしても、覚悟を決めたクラストがその決断を変えることはない。ルーンは、クラストの真直ぐな目を見て観念した。 「少尉、何かがこれから起こるんだな?」 「はい」 「詳細は後で言います。今は、一刻も早くリナ大統領をペデロに向かわせなければ行けません。協力して下さいますか?」 リナ補佐官を、「大統領」と呼んだ事に、ルーンは気付き眉を潜めた。 (クーデターか何かを起こそうというのか?) 少しの沈黙の後、ジョイスが真面目な顔でクラストに言った。 「私は協力するよ、クラスト」 すると、それを追うようにフィリップも笑顔で述べた。 「今の少尉でしたら、自分も協力します」 1人残されたルーンは、一瞬躊躇したが頷き「分かった。詳しいことは後で聞く。ペデロへ向かう!」と言うと、それを聞いたクラストは笑みを浮かべ、感謝の意を込めて敬礼をした。 2.coup d' Etat |
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