Ultimate Justice 第18話 〜青い星〜
2.coup d' Etat

EP0044年6月22日 軌道ステーション「ジュダ」

 1隻の小型艇が、厳重にURES軍のMSに守られ、「ジュダ」を離れていく映像が、司令官の椅子に座るシール・グリーン将軍の手元にあるディスプレイに映し出される。

(トウジョウは、無事に降下出来そうだな・・・)

 そう確信すると、グリーンはちらりと腕時計を見た。そこには、通常の時間を知らせるデジタル数字列とは別に、時間が減少して続ける数字の列があった。その数字が「ゼロ」になった時、デス・ロックスへの同盟が結ばれることを示していた。数字は、あと2時間を切っていた。

(順調だ。URES軍の被害も少ない。それに、あやつの艦隊も無傷で残っておる。これからが本番だぞ。なぁ、ジュニアよ)

 グリーン将軍は、不気味な笑みを浮かべたが、その笑みも手元のディスプレイが映し出した映像を見ると一瞬にして消えた。軌道ステーション「ジュダ」内部の、監視カメラが捉えた映像。そこには、ドマスティー大統領とティエラ共和国軍の制服を着ている武装兵数十名が、この総合司令室に通じる通路を走っていく様子が映し出されていた。

(ドマスティーの奴め、気付きおったか。だが、もう遅い・・・)


同時刻 軌道ステーション401「ペデロ」 宙域

 4機の機体は、ペデロを包囲しつつあるデス・ロックス陣営に側面から突撃した。デス・ロックスの方も、まさか軌道ステーション「ジュダ」方面からの攻撃は予想しておらず、そちらからの攻撃には全くと言っていいほど無防備だった。

 デス・ロックス主力艦である「ワンド」3隻のブリッジが突如爆発する。クラストが放った、ファンネルのビームが直撃したのであった。そして、ジョイス、ルーン、フィリップも、それに遅れを取ることなく、各自持っている武器を駆使し「ワンド」を撃沈して行く。

「これなら、ペデロまで何とか行けそうね!」

 ジョイスは、その言葉を口にした事を後悔した。そう言い終えた頃には、数え切れないほどのボールとノウヘッドの機影が、レーダー上に映し出されたからだ。

「くっ、ペデロまでもう少しだっていうのに!!」

 ジョイスは、叫びながら敵が放つビーム攻撃を必死に避ける。それは、他の3人も同じだった。ペデロの近くに来れただけでも幸運だった。ジュダを離れた後は、全くと言っていいほど敵の機影はなかった。それは、デス・ロックスが、ほとんどの機体を軌道ステーション攻略に向かわせていたからだ。

 ルーンは、前方に展開している数十機の敵を突破できれば、軌道ステーションに行く事が出来ると、瞬時に状況を判断した。

「少尉!リナ補佐官を連れていけ!ここは、私達3人がどうにかする!」
「しかし!」
「リナ補佐官が生きていなければ、どうにもならないんだろ?だったら、迷わず行け!」

 ルーンの言葉にクラストは、同じ言葉を残して二度と会うことがなかったピエテロ、ホセ、グレイの顔を思い出した。

「どうした?早く行け!」

 再びルーンが叫ぶと、クラストは心を決め、命一杯フットペダルを踏みこんだ。クラストが操る赤いガンダムを、敵は追おうとするが、その前にルーン、ジョイス、フィリップの機体が現れ道を塞ぐように攻撃をしかけた。

「あんた達の相手は、私達だよ!」


軌道ステーション「ジュダ」 総合司令室

 ドーンという大きな爆発音と共に、自動小銃を持ったティエラ共和国軍の兵士が、総合司令室に流れ込んだ。総合司令室の中心に立ち、サングラスをかけた人物に、一斉に自動小銃を向けた。しかし、その老人シール・グリーンは、身動き一つしせず、ゆっくりと口を開き先頭に立つドマスティー大統領を見つめた。

「ドマスティー大統領、武装した兵士を連れて何か私に用かね?」
「デス・ロックスと、隠密に同盟を結ぼうとしていたのは本当ですか?」
「ああ、本当だ。それが、何か問題があるのかね?これ以上、デス・ロックスとまともに戦っても、勝てる見込みがない事は君にも分かるはずだ」
「いいえ、戦いは最後まで分かりません。地球に降り、もう一度態勢を整える事が出来れば・・・」
「地球に逃げてどうする?地球へ行けば、もう逃げる場所はないぞ?そこで心中するつもりかね?」
「最後まで戦い続けます」
「それは、それは勇ましいことだ」

 ドマスティーは、手で兵士に合図をした。兵士たちは、グリーン将軍を取り囲み、将軍の手に手錠をかけ捕らえた。

「シール・グリーン将軍、あなたを反乱未遂の罪で一時的に拘束します」

 グリーン将軍は、何の抵抗も見せずに兵士達に連行されていった。その顔に不気味な笑みを残して。

 ドマスティーは、ふぅと深呼吸をし、トウジョウに通信をしようとキーボードを叩こうとしたが、タイミング良く巨大スクリーンにトウジョウ中将の顔が映し出された。

「ドマスティー大統領、あなたがそこにいるという事は成功したのですね?」
「ああ、総合司令室は制圧した。そちらは、もう整ったか?」
「はい、艦隊の7割は私の意見に同調してくれましたが・・・残りは・・・」
「そうか、仕方がない。光の壁は、予定通り15分後に起動すればいいのかな、中将?」
「はい、そうです。味方に付いた戦力を地球へ降下させます。ドマスティー大統領も、起動後は速やかに軌道ステーションを離れて下さい。では」

 通信が切れ、巨大スクリーンは現在の戦況を伝える図面へと変わった。デス・ロックスを示す赤いマークが、一目見ただけでも同盟軍を上回っている事がわかる。そして、ドマスティーは3隻のURES戦艦――シール・グリーン将軍とマックス・イナダ大統領を奪還を目的とする――が、この軌道ステーションに向かっている事にも気が付き、溜息を漏らした。

「全兵士に告ぐ、戦艦3隻がこちらへ向かっている。総合司令室を死守せよ!」


軌道ステーション「ペデロ」 宙域

 クラストの機体は、ルーンたちのおかげで「ペデロ」まで、数十キロという所まで来ていた。しかし、そこで待ちうけていたのは違うデス・ロックスの艦隊だった。「ペデロ」を守る同盟軍は、必死に戦っているが、デス・ロックスに完全に押されていた。

 このままでは、軌道ステーション「ペデロ」が落ちるのも時間の問題だった。そうなれば、「ペデロ」にトウジョウ中将が用意してくれた「大気圏突入艇」が使えなくなる。

(どうすれば・・・!?)

 どうやって突破するか、クラストが考えていた最中に、どこからか放たれたメガ粒子のビームが、右手で握っていたビームライフルに直撃した。瞬時にビームライフルを手放すことで、機体への直接の被弾は免れたが、次々と光条が辺りを通過し、ミノフスキーバリアーに直撃したビームもあった。直撃はしたものの、幸運にもミノフスキーバリアーが防御できる許容範囲内だった。

 クラストは、機体をビームが放たれた方向へ向け、ファンネルを放つ。ファンネルを通して、脳に送られてくる映像に絶望する。十機以上のデス・ロックスのMAボールが、すぐそこまで迫っていた。そして、一斉に長距離砲からメガ粒子の光が放たれた。もう回避可能な距離ではなかった。その一撃にファンネルが撃墜され、その映像は途切れるが、すぐにコクピットの全周囲モニターの前方が明るくなった。

 綺麗だ。そんな言葉が、クラストの頭の中に浮かんだ。しかし、その光の一つ一つに憎しみが宿っているのを感じた。この赤いガンダムが持つサイコミュ装置が、ニュータイプ能力と呼ばれるものを増幅させているから、そう感じたのだろう。

(もう駄目だ・・・)

 クラストは、迫り来る光の雨の前にそう感じた。逃げる事は出来ない。ミノフスキーバリアーを展開したとしても、ボールの持つ大出力のビームは簡単にバリアーを突き抜け機体に直撃する。そう直感した。
 
 絶望と死。その現実が襲いかかる。小さな悲鳴が後ろから聞こえた。補助パイロットシートに座る、リナの声だった。彼女も、前方に映る光の雨、そして、その憎しみを感じたのであろう。

 今まで、戦闘中にクラストを邪魔しまいと口を閉じたままだった彼女も、死という現実が襲いかかったのだ。叫ばずいられないのは当然だ。そんな風に、クラストは冷静に今の状況を分析していた。しかし、一つの疑問が浮かんだ。

(本当に、彼女をここで死なせていいのか?)


 一つの疑問が浮かび上がると、次々と疑問が浮かび上がってきた。


(もし彼女をここで死なせたら、トウジョウ中将やドマスティー大統領はどうなるんだ?) 

(キムやミカは?ピエテロ、ホセ、グレイの3人は?キースは?)

(彼らは何の為に死んだんだ・・・?)

(彼女は、まだ死んではいけない・・・)

(そうだ、死なせてはいけない!)

「死なせるものかっ!」

 クラストは、今まで出したことのない大きさの声で叫んだ。

「・・・なんだ・・・?」

 クラストは、自分の目を疑った。自分が、MSのコクピットではなく、宇宙に漂っていた。次の瞬間、クラストの身体は猛スピードで、光の雨を付き抜ける。振り返ると、さっきまでモニターの半分を占めていた青い星が、拳の大きさになっている。

 しかし、すぐに青い星は暗闇へと消え、目の前に赤い星、火星が現れたかと思うと、それもすぐに消え去り、次々と惑星が現れ消えていった。太陽系の末端である、ニュースでしか見たことのない冥王星圏さえも、後方へと流れていった。

 それでも、スピードは緩まる事はなく、自分の横を次々と様々な色の星や惑星が、流れ星のように流れていく。そんな光景が、どれだけ続いたのだろう。そこでの1分は、1年のように長かったように感じられた。いや、そこには「時」という概念、存在さえもないのかもしれない。そう考えていたら、何かの声を耳にした。

ラ、ラ・・・・・・

 それは、女性の声だった。何かを歌っている。クラストは、辺りを見まわすが誰もいない。その声は、脳に直接響いていた。不思議に思い、もう一度辺りを見まわし、前方に目を向けると、そこには緑色の髪、蒼い目をした女性が立っていた。そして、先程聞こえた女性の歌声のように、脳に直接語り掛けてきた。しかし、先程の歌声とは声が違った。

(ねぇ、あなたは何で戦っているの?)
(戦いのない世界を創るために、戦いを終わらせなきゃいけないから・・・)
(だから、人を殺すの?)
(殺さなきゃ、自分が殺される!)
(それが許されるの?)
(それは・・・。でも、この戦いを終わらせるためには、誰かが敵を倒すしかない・・・)
(敵って何?)
(この平和を乱す奴等のことさ・・・)
(あなたも、戦争に関わっている一人よ。平和を乱す奴等じゃない?)
(違う。俺は、正しい事をしようと・・・)
(正しい事。正義なんて、どこにもないわ。あなたが正しいと思っている事は、相手に取って正しくないかもしれない)
(でも、誰かがやらなきゃ戦争は終わらない!)
(そう、あなたのように多くの人は考えたわ。だから人は、その発祥以来、ずっとこりずに戦ってきているわ。この戦いの後には、平和が来るという幻想を抱いて)
(幻想?実際に平和は来たじゃないか?あの太陽系連邦の時代も・・・)
(あなたが言う平和は一時的なもの。自分が生きている間だけ平和であれば、それでいいの?)
(それは・・・違う)
(今まで、人が平和と呼んだ日々は、結局、次の戦いの為の準備期間に過ぎなかったのよ。人の歴史はその繰り返し)
(だったら、それを断ち切ればいい!)
(相手を排除してでも?)
(そうだ。そうしなければ、人は永遠に戦い続けるしか道はない・・・。もし、この戦いを終わらせる事が出来れば、彼女がその連鎖を断ち切れると俺は信じている!)
(・・・彼女?・・・・・・そういうことね)
(どういうことだ?)
(分かったわ・・・あなたの言葉を信じて協力しましょう)

 クラストは、相手の言葉の意味が理解できなかった。その意味を問いただそうとしたが、自分の身体から力が抜け、意識が遠のいていくのを感じた。意識が途切れる前に、彼は、目の前に草木のようなものを見たような気がした。


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