Ultimate Justice 第18話 〜青い星〜
3.falling stars

EP0044年6月22日 軌道ステーション『ジュダ』

 軌道ステーションにドッキングした3隻の戦艦から、数百人規模の特殊部隊が一斉に内部へと侵入してきた。ティエラ共和国軍は必死に抵抗を試みるも、次々と特殊部隊の銃弾に倒れていった。

「ドマスティー大統領。あと10分程しか持ちません。申し訳ございません」

 兵士が、総合司令室に一人立つドマスティーに報告し、自動小銃を抱え銃弾が飛び交う通路へと向かった。ドマスティーは、その兵士に敬礼をし、光の壁を起動させるために必要な情報を、キーボードに打ち込んだ。間を置かず、パァと外が明るくなるのが、総合司令室の外を映し出すモニターからも見て取れた。

 地球圏防衛システム、最終防御兵器「パレ・デラ・ソル(光の壁)」が順調に起動した証拠だった。ビーム・バリアーの展開は、地球へと降下を試みる同盟軍を追撃していた、多くのデス・ロックス艦艇をパニックに陥れた。突如、目の前に現れた光の壁に、方向転換も空しく衝突し撃沈する艦艇やMS、そのような光景が至る所で見られた。

 事前に、トウジョウ中将により展開のタイミングを知らされていた多くの同盟軍艦隊は、光の壁が展開されるよりも内側、つまり地球側に入っていた為、そのような惨事からは免れ、追撃を恐れることなく安全に地球へ降下する事が可能となった。

 次々と、地球へ降下する同盟軍艦艇を見て、ドマスティーは、最期の仕事を終え、ほっと胸を撫で下ろした。次々と地球へと消えていく、同盟軍の艦艇のマークを見つめていると、背後で銃声が聞こえ、次に人が倒れる音が聞こえた。振り返ると、数十人の特殊部隊の兵士とマックス・イナダ、そしてシール・グリーンが立っていた。

「これで、デス・ロックスに勝ったつもりかね?ドマスティー大統領」

 シール・グリーンが、不気味な笑みを浮かべながら話しかけ、ドマスティーの周りをゆっくりと歩きながら続けて言った。

「確かに、一時的に君は、彼ら同盟軍を助けた事になる。しかし、彼らが滅びるのを先延ばししたに過ぎない」
「私は、最後まであきらめはしない。ティエラが独立を勝取ったように、今度も勝取ることが出来ると信じている」
「そうだったな。君は、アンティ・ティエラの時も、窮地に追い詰められながらも、我々URES相手に最後まで挑み続け、そして勝利を治めた」
「そうだ。今回もそうなる」

 グリーンが浮かべる笑みが、さらに不気味さを増した。

「残念だったな」
「何がだ?」
「今回は、ティエラのようにはならない。そう断言しても良い」
「どうして、そんなことが言える。実際に、私たちティエラはURES相手に勝った」
「いや、違うな・・・・・・勝たせてあげたのだよ。我々が!」
「なっ!?」

 ドマスティーは、激しく動揺した。アンティ・ティエラを組織し、URES相手に数十年にも渡り独立運動を指導し、念願の独立を「ティエラ戦争」で勝取った。自分達の力で、それを成し遂げたと今まで思っていた。そして、そのことを自信に思っていた。しかし、グリーンが嘘を付いているようには思えなかったからだ。

「わざと、我々URESが負けてあげたのだよ」
「嘘だ。なぜ、そんなことをする必要がある?」
「太陽系内で、新たな戦乱を生み出す為だ」
「どういうことだ?何を言っている?」
「そうだ、ドマスティー大統領は知っているかね?ドウィック・サーキス2世という人物を?」

 突然、話しを変えられドマスティーは戸惑うが、グリーンが口にした人物の名は知っていた。その名は、パブリック・スクールの歴史の教科書には必ず載っている有名人だからだ。

「恒星移民の父と称された方だ。それが、これと何の関係がある?」
「大ありなんだよ。彼は、太陽系連邦設立以前から、恒星間移民プロジェクトに携わり、人が住み得る恒星を見つけ移民船で、何度も太陽系と恒星を行き来した。そして、人類初の恒星国家エイレーネを設立した」
「そして、彼は地球への帰途に事故に遭い亡くなられた。そうだろう?」
「よく歴史をご存知だ。しかし、それは間違っている。死んではおらんよ」
「どういうことだ?」

 グリーンの「死んではいない」という発言には、ドマスティーだけでなく、マックス・イナダも驚いた。

「冥土の土産に教えてやろう。彼は、事故などには遭わず地球へ帰還していた。そして、彼は初期移民プロジェクトに関わった3万人の地球への帰還を要望した。しかし、地球に住む太陽系連邦の奴等は、一言も感謝の言葉や、労いの言葉を彼らにかけなかった。そればかりか、彼らを「逃亡者」「非国民」「浮浪者」と邪魔者扱いにした!」

 話を聞きながら、ドマスティーには、シール・グリーンが、あたかもその場面に居合せたかのように、怒りや憎しみを言葉に込めて、吐き捨てているように思えた。

「そして、地球に住む奴等は、恒星移民という新しい境地を開拓した彼らへの代償として、太陽系からの永久追放を命じた。それも、恒星へたどり着く為に必要な半分の燃料と食料でな!素晴らしい話だと思わんかね!?ドマスティー大統領?」

 シール・グリーンは、狂ったように一人で笑い出した。イナダも、ドマスティーも、今までとは別人のようになったグリーンを呆然と見つめる事しか出来なかった。

「まだ分からんかね!?私がドウィック・サーキス2世なのだよ!!」

 とうとう頭が狂ったか。そこにいる誰もがそう思った。ドマスティーは、呆れて溜息をついた。グリーンがサーキス2世のはずはない。何故なら、仮にサーキス2世が生きていたとしても、優に三百歳を超えているはずだからだ。イナダも、その事に気が付いたのか、馬鹿らしいと、呆れた顔でボケた老人を見つめた。

「私が嘘を言っていると思っているのだろう?だがな・・・真実なのだよ!」

 グリーンは、サングラスに手を伸ばし、それを床に投げ捨てた。ドマスティーだけでなく、そこにいた兵士たちも、その瞳を見て凍りついた。


紅の目


 ドマスティーは、その「紅の目」を目の当りにし、間違いなくこの老人がサーキス2世だと言うことを悟った。それは、F・テクノロジーに指定されているナノマシン技術に関するデータの中に、その「紅の目」の写真を見たことがあるからだ。その説明文には確かこうあった。

『人体への医療ナノマシンの過剰摂取は、人体の寿命を数倍にまで延ばすことが可能となる。しかし、その副作用として、目が紅色になることが発見された。その原因は、未だ不明である』

「これは、どういうことですか・・・グリーン将軍?なぜ今まで黙っておられたのです?」

 怯えた様子で、マックス・イナダが紅の目の老人に語りかける。老人に直視されると、ひっという声を上げ後ずさりした。

「マックス・イナダ、もうお前は必要ない。私の元から去れ」
「なっ・・・共に太陽系を支配すると約束したじゃありませんか?」
「ふん、太陽系がどうなろうと私の知ったことではない」
「なっ・・・話が違います!」

 イナダは絶句した。あれだけ、太陽系の支配を目標として掲げ、共に歩んできた老人が、一瞬にして態度を翻したからだ。

「私の目的はただ一つ・・・・・・地球の破壊だ」

 その言葉に、総合司令室にいる全ての人間が再び凍りついた。老人は、そんなことを気にする様子もなく、予想外の展開に頭が真っ白になったドマスティーの横を通り過ぎ、パレ・デラ・ルズ(光の壁)の解除コマンドを入力した。数秒で、地球を覆う光の壁は消え去った。それと同時に、総合司令室の巨大スクリーンに、デス・ロックス首領のシャア・エスティンの映像が映し出された。

 シャア・エスティンは、老人がサングラスを取っているのを目にし、笑顔で言った。

「父上、この日を待っていました」
「ああ、ジュニアよ。我々を侮辱し、暗闇の外へ追いやった地球人たちに、やっと復讐の日が到来した。あの準備は整っているか?」
「はい。イナダ大統領の息子、キンブルの艦隊は予定通り捕獲しました。そして、その大量破壊兵器も・・・」
「ジュニア、よくやった。トウジョウの反乱は予想外だったが、まぁ良かろう。同盟軍に少しの希望を与えて、それを徹底的に踏み砕くというのも、おもしろいだろうからな」

 二人の笑い声が、総合司令室を満たした。そこへ、次々とデス・ロックスの兵士が軌道ステーションに侵入し、URESの兵士、ドマスティー、そしてイナダを捕らえられ連行された。

 ドマスティーは、最後に総合司令室に立つ老人を見つめ、自分たちが完全に躍らされていた事を悔やみ、血が出るほど唇を噛んだ。そんなことをしても、どうにもならないことは分かっていた。しかし、何もせずにはいられなかった。


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