Ultimate Justice 第19話 〜夜明け〜
1. at north


「・・・うん?」

 寝ぼけたような声を出し、クラストは目を開けた。真っ暗で何も見えない空間に手を伸ばした。少し身体を動かしただけなのに、やたらと身体の至る所が痛んだ。痛みをこらえ手を伸ばすと、手が何かに触れた。それは、コクピット内のモニターだった。

 そこで、クラストは自分がコクピットの中にいる事に気が付いた。そして、全天周囲モニターが、敵が放った光条で満たされた光景を思い出した。

(そうか、確か敵の攻撃にあって・・・それから・・・?)

 頭を強く打ったのか、それ以上思い出せなかった。ヘルメットのバイザーには、コクピットの中に充分な空気がある事を示す文字が記されていた。すぐに、現在地を調べないといけない。そう思い、汗でびっしょりとなったヘルメットを、空中へと脱ぎ捨てた。ヘルメットは、重力に引かれそのまま床に落下して転がった。

「・・・重力があるのか?」

 宇宙であれば、そのまま空中に漂うはずである。クラストは、自分がどこにいるのかさらに分からなくなった。故障していないようにと祈りながら、MSを立ち上げる。すると、いつものように電源が付き、全天周囲モニターも外の映像を映し出し始めた。外は、もう夜明けの時間なのか、空が蒼くなりつつあった。

「ここは・・・コロニーか?いや、空が広すぎる。とすれば、地球?」

 口に出しながらも、クラストは信じることが出来ず、現在地を特定する為に、素早くキーボードを叩いた。数秒の間に情報分析が終わり、コンピューターの割り出した結果がモニターに表示された。

<サッポロ中心部から南西9キロの地点>


「サッポロ?・・・本当に地球に降下できたのか?」

 クラストは念の為、2、3回コンピューターで現在地の特定を分析してみたが、やはり結果は同じだった。

「・・・ここは、どこ?」

 補助パイロットシートに座っていたリナが、同じようにヘルメットを脱ぎ、頭が痛いのか、頭を手で押さえながら尋ねてきた。

「リナ、怪我はないか?」
「大丈夫。ちょっと頭痛がするけれど、たいした事ないわ」
「よかった。どうやら、コンピューターによると地球らしい」
「えっ!?どういうこと?・・・あの攻撃をどうやってくぐり抜けたの?」

 そう、クラストもさっきからそれが分からなかった。敵MAボールが、近距離で放ったビームを避ける事はもちろん出来なかった。回避していても、敵を振り切る事など出来なかったはずだ。まして、地球になんて降下出来るわけがない。

 それに、この赤いガンダムという機体には、大気圏突入装備は搭載されていない。もし、搭載されていれば、わざわざ危険を冒して軌道ステーション「ペデロ」に、トウジョウ中将が準備してくれていた大気圏突入艇を取りに行く必要はなかった。

 「なぜ」「どうして」「どうやって」という疑問が、頭の中をグルグルとまわっていたが、今はそんな事ではないとクラストは気が付いた。生きているなら、当初の予定通りの計画を実行しなければならない。そう思い、機体を動かそうとしたまさにその時、3機のジェスIIIが目の前に着地した。その機体の肩には、数ヶ月前までクラストが所属していた、大統領護衛隊を示す「PED」の文字が刻まれていた。

 目の前に現れたジェスIIIに少し遅れて、大統領専用小型垂直離着機がゆっくりと降下し着陸した。大統領専用機からトウジョウの姿が見えると、クラストはコクピットを開け、先にリナを地面へと降ろした。護衛隊、医療チームがリナの周りをあっという間に囲んだ。

 トウジョウは、リナが生きている事を確認すると、クラストへと歩み寄ってきた。

「少尉、無事で何よりだ」
「ありがとうございます」
「全く連絡がなかったので、もう駄目かと思っていた。ペデロの大気圏突入艇も、全く使用された形跡がなかったし、ルーン・リー少佐も途中で通信が途絶えたと言っていたからな」
「トウジョウ中将、私たちはどうやって降りてきたんですか?」
「それを聞きたいのは、こちらの方だよ・・・少尉は、どうやって自分が降りてきたのか、分からないというのかね?」
「はい」
「少尉自身が分からないのなら、我々に分かる訳がない。そうだろう?」
「確かに・・・そうです」
「まぁ、その疑問は後で解くことにしよう。今は、一刻も早くリナ大統領を議会へとお連れしなければならないから。さぁ、急ごう」
「中将、私は自分のMSで向かいます」

 トウジョウは首を横に振り、クラストの肩越しに赤い機体を見つめ言った。

「あの機体は、もう動かすことは多分出来ないだろう」
「えっ?」

 振り向いてみると、クラストは赤い機体の変わり果てた姿に唖然とした。ガンダムと呼ばれたその機体は、無残にも装甲のほとんど剥がれ落ち、内部がむき出しになっていた。また、両腕も失われており、ガンダムが持つ特徴的な頭も、そこにはなかった。

「最初にこの機体が発見された時、誰もが生存者はいないだろうと考えた。しかし、お二人は生きていた。まさに奇跡としかいいようがない」
「・・・本当にそうですね」

 機体の状況を見て、クラストは本当にトウジョウの言う通りだと心から思った。コクピット内のコンピューターが、衝撃か何かで誤作動を起こし「損傷はなし」と表示していた為、クラストはトウジョウに言われるまで全く分からずにいたのだ。

「さぁ、サッポロの議会へ急ぎましょう。リナ・ジュミリン氏が、再び大統領になる為の準備は全て整っております」

 サッポロへ向けて、二人を乗せた大統領専用機は紅く染まった空へと飛び立っていった。

2.throne
 
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