Ultimate Justice 第19話 〜夜明け〜
2.throne

EP0044年6月24日 サッポロ

 サッポロへ向かう途中に、クラストたちは予定より半日遅れている事を教えられた。クラストたちは、当初大気圏突入艇に乗り、東アジア海で回収されるはずだった。回収を予定していた、巡洋艦はいくら待っても来ないので、作戦が失敗したと諦め作業を終了した。しかし、トウジョウ中将は、最後までクラストたちが失敗したという報告を信じなかった。中将は、ニホン地区の全域の捜索を命令した。その結果、半日後にサッポロ郊外で発見するに至ったのである。

 サッポロに着くと、リナはすぐにURES議会ビルへとトウジョウ中将と共に消えていった。計画通りにいけば、議会は臨時法の適用の終了を宣言し、リナは満場一致で再びURES大統領へと返り咲く事となるはずだ。

 一人残されたクラストは、どうしようかと議会の前で立っていると、思いがけない人物から声をかけられた。

「久しぶりだな、クラスト少尉」

 大統領護衛隊(PED)の制服に身を包んだ、エリク・ナウム少佐だった。ほんの数ヶ月前までは、クラスト自身の上司だった人物だ。その顔を見た瞬間、体が勝手に反応し、敬礼をしていた。

「少佐、お久しぶりです!」
「すまない。あの時は・・・」

 ナウム少佐が口にした「あの時」というのは、クラストが大統領を誘拐した犯人だと思ってしまった事だということはすぐに分かった。

「いいんです。あの時は、少佐がそう思われても仕様がないです」
「すまない」

 同じ言葉を口にし、ナウム少佐は深々と礼をし立ち去っていった。

「クラスト!」

 久しぶりに聞く懐かしい声にクラストは振り向いた。そこには、ルーン・リー少佐、フィリップ・ヘインズ大尉、そしてジョイスの姿があった。

「心配かけやがって!」
「無事だったんですね」
「よかった。無事で」

 3人が同時に喜びの声を上げ、クラストを囲んだ。そして、ルーンが疑問を投げ掛けてきた。

「しかし、どうやって地球に降りてきたんだ?
「自分でも分からないんです」
「はぁ?分からない?」

 その時、議会から、街の至る所から歓声が聞こえた。それが意味している事はただ一つ――リナ・ジュミリンが再び姿を現し、大統領に就任した瞬間だった。

 URES国民には、実はマックス・イナダによってリナ・ジュミリンは死亡したという偽情報が流されていた。それを知った国民は、1ヶ月以上も大きな悲しみに包まれた。しかし、死んだと思われていた彼女が、テレビを通して姿を現したのだった。国民には、今日URESは重大発表を行うとだけ言い、事前にそれ以上の情報を提供しなかった。その結果、国民の多くは大きな驚きと喜びに包まれたのである。

 クラストにとっても、待ちに待った瞬間だった。リナを守ってきた大きな一つの理由が、もう一度彼女を大統領にすることだったからだ。大きな仕事を一つ成し終えた同時に、一気に疲れがのしかかってきた。それを察したのか、ルーンはクラストの背中を叩いて言った。

「少尉!まだ休むのは早いよ。今から、最後の戦いに出掛けなきゃならないんだからね」

 威勢の良い言葉をかけられ、クラストは気を引き締め直し、ルーンたちと共に、サッポロにある作戦司令部へと向かった。


同時刻 デス・ロックス 旗艦「キリネ」

「父上、全て整いました」

 エスティン・シャアが、紅い目の老人にお辞儀をし報告する。それを見て、先日までシール・グリーンと名乗っていたドウィック・サーキス2世は、ソファから立ち上がり、スクリーンに映る青い星を見つめ、息子であるエスティン・シャアに目配せをする。シャアは、何かのボタンを押した。

『・・・6世紀以上前、青い星はある危機に瀕していた。増えすぎた人という重荷を背負い切れなくなっていた。そこで、人は新たな世界を求め宇宙へと進出した。しかし、この星に捕らわれたアースノイドは、スペースノイドを顧みようともしなかった!』

 ドウィック・サーキス2世の映像は、太陽系全土にテレビ放送で流された。リナ大統領再任のニュースで盛り上がっていた多くの人々は、議会中継が突然切り替わったので呆気に取られたが、紅い目をした老人の姿に釘付けとなった。

『その結果もたらされたものは何か?数十億という人命が奪われ、今になっても癒される事のない深い傷跡を青い星に残した!人は、それでも懲りずに戦いを続けた!なぜか?アースノイドとスペースノイドという対立が続いたからだ。だがある時、人類は悔い改めるチャンスを天から与えられた。そう、今でも多くの人の記憶に残る、シャア・アズナブルという人物によって。
 彼は、その対立の構図を消し去る為に、戦乱の源である地球を、人の住めなくなる場所へと変えようとした!しかし、それは無念にも青い星の重力に引かれた人間どもの抵抗により失敗に終わった!
 時は流れ、再びある人物が立ちあがった。彼の名は、クラックス・ドゥガチである。彼の名は、あまり知られていない。しかし、彼はシャア・アズナブルが成し遂げることができなかった偉業を、あと少しで成し遂げるところだった。そう、再び愚かな人間さえ妨害をしなければ!』

 紅い目と同様に、興奮し顔が真っ赤になっていた老人は、ゆっくりとソファに座り冷静な口調で再び話し始めた。

『私、ドウィック・サーキス2世は、彼らが成し遂げる事が出来なかった夢を、必ず成し遂げることをここに宣言する。私は、人類を滅ぼそうと思っているのではない。私とて、人類が繁栄することを切に願っておる。しかし、地球に居座る寄生虫がいる限り、人類は永久に繁栄などできない!私は地球と呼ばれる星の鎖に繋がれている人々を解放しようと言っているのだ。
 そこで、地球にいる全ての人間に告ぐ、命が惜しいものは今から48時間以内に地球から脱出することだ。脱出用に、軌道エレベーター、スカイフック2基を完全開放する。そこを使った輸送船などは攻撃しないと約束しよう。しかし、それ以外の方法で、地球を脱出しようとする者は容赦なく撃ち落す。
 48時間経過と共に、我々は持てる限りのNBC兵器を使用し、地球を死の岩へと変える。もう一度言う、我々の目的はただ一つ、青い星を人が住めない岩の塊へ変えることだ!
 最後に、リナ大統領、再就任の中継を中断して申し訳ない。あなたは賢明な方だ。すぐに脱出することを私は勧める。もし、同盟軍が残存勢力を持ってデス・ロックスに挑んでも、決して破る事は出来ない。
 同盟軍の兵士達にも告ぐ!命を無駄にするな!これが、地球の重力から解き放たれる最後のチャンスだ。既に地球の重力に捕らわれており、逃げる気がないのなら・・・・・・地球と共に滅びるがいい!』

 演説が終わると、テレビは何事もなかったかのように議会中継を続けた。しかし、地球全体はパニック状態に陥った。人々の中から、リナ・ジュミリンが大統領になったことなど、もう頭の中から消えていた。彼らの頭の中にあるのは、ただどうやって自分が生き延びるかであった。
 
 クラストたちは、サッポロの作戦司令部で、ドウィック・サーキス2世の演説を聞いていた。

「無理だ・・・軌道エレベーター、スカイフック2基を使っても、数十億の人を宇宙へ上げることなんて不可能だ・・・」

 そう呟いたクラストの横にいた兵士は、顔が真っ青で、今にも倒れてしまいそうだった。よく見ると、クラストたち以外の全員が悪夢を見ているかのような表情をしていた。クラストは、兵士たちを元気付ける為に大きな声で言った。

「みんな、しっかりしてくれ!48時間以内に敵を叩けばいいだけだ」

 すぐに、横に立っていた兵士が興奮した様子で言い返してきた。

「あんたバカか?もう終わりだよ!どうやって数千の艦艇、MSを相手に、地上用を含めて千機にも満たないMSで戦おうって言うんだよ!?」

 クラストが口を開く前に、ルーン・リーがその兵士を殴り倒した。その様子を、作戦司令部の兵士たちはじっと見つめた。

「戦う気がないなら、この場所から消えなよ。ここにいる全員に言ってるのよ!まだ戦ってもいないのに、なに恐がってんのよ、子供じゃあるまいし」

 殴られ床に倒れたままの兵士は、頬を手で押さえルーンを睨み返し、何も言わずに司令部を後にした。彼に続き、数人も沈黙したまま出ていった。

「ふぅ、これでちょっとはやり易くなるんじゃない?重力に引かれた私たちの力を見せてやろうじゃないの!」

 ルーン・リーは残った兵士たちを見つめ口元に笑みを浮かべた。それにつられてクラスト、フィリップ、ジョイスも微笑んだ。
 
 作戦司令部に残った兵士は半分であったが、今までにない程の活気に満ち溢れていた。それを後押しするかのように、今度はテレビからリナ・ジュミリンの姿が現れた。

『皆さん、パニックに陥らないでください。皆さんのご協力があれば、皆さんを全員宇宙へ打ち上げることが出来ますので、ご安心下さい』

 パニックに陥っていた多くの人々は、テレビから聞こえるリナ大統領の声によって、不思議と不安が心から取り去られ、落ち着きを取り戻した。彼女の声には、何か人に安心を与えるような力があった。

『先程演説したドウィック・サーキス2世という人物は、かつてシール・グリーンと呼ばれていた方です。あの「恒星移民の父」が生きていたということは、とても喜ばしい事です。しかし、彼が成そうとしていることは、決して許されるものではありません。
 確かに彼の言う通り、地球は多くの戦乱の原因となりました。しかし、多くの良いものも地球から生まれきたのも事実です。
 仮に地球を破壊しても、私たち一人一人には、世代を超えて受けた多くの悲しみ、憎しみ、痛み、傷、怒り、分裂が刻まれています。もし、地球を失ってしまえば、それらが癒える機会を永遠に失ってしまうかもしれません。
 人類は今太陽系全土に広がり、さらに太陽系外にまで進出しています。それは、デス・ロックスの多くの方々、すなわち恒星移民者の子孫である、彼等による献身的な新たな地の開拓がなければ、太陽系でさえ膨れ上がる人類の重荷に耐える事は出来なかったでしょう。
 しかし、デス・ロックスがやろうとしていることは、私は間違っていると思います。地球は、幾多の戦乱の象徴でありますが、過去人類が犯してきた多くの過ちを後の世代が知り、そこから何か善いものを生み出すために、地球という存在は必要なのです。今までは、戦乱の象徴であった星を、私は平和の象徴へと変える為にも、デス・ロックスのなさんとしている事を全力で阻止します』


 モニターに映るリナを見つめながら、ドウィック・サーキス2世はぽつりと小さく呟いた。

「リナ・ジュミリン。結局は、あなたも地球に捕らわれた一人だということか・・・」

3.communicate
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