Ultimate Justice 第19話 〜夜明け〜 |
3.communicate EP0044年6月25日 デス・ロックス旗艦「キリネ」 シール・グリーンこと、ドウィック・サーキス2世は、青い星から次々と脱出してくる宇宙船を満足気に眺めていた。そこに、厳しい表情をしたマックス・イナダが、二人の兵士に付き添われて入ってきた。 「グリーン、考え直してくれんかね?地球を滅ぼすなんて、私は聞いていないぞ!」 イナダは怒鳴りつけたが、紅い目に睨まれるとすぐに縮こまり、咳払いをし口を閉じた。 「マックス・イナダ。あなたも、地球の重力に引かれる一人だ。なんなら、大好きな地球と一緒に心中するかね?」 「なっ・・・ご冗談を!」 「冗談ではないよ。私は、地球に住みついている寄生虫どもを、地球と共に抹殺したいのだよ。我々恒星移民者の辛さ、苦しみに、全く目もくれなかった奴等をな!」 イナダは、これ以上彼を刺激すると、本当に地球へ降ろされてしまうと感じた。そこで、慎重に言葉を選び話題を変えた。 「・・・地球が滅ぼされたあとは、この太陽系をどうなさるおつもりですか?」 「太陽系をどうするだと?ふん、地球なき太陽系などどうでもいい。この銀河系には、至る所に太陽系のような恒星系が数百、数万とあるのだよ?」 「では、なぜ地球を滅ぼす必要があるのですか?」 「演説を聞いていなかったのか?地球は、人類発祥の地だ。地球と全く同じ環境の惑星が仮にあったとしても、それは『地球』ではない。 もう、アースノイドという寄生虫も生まれる事はない。何故なら無限に広がる宇宙には、無数に人類が住める惑星があるからだ。少数派だけが住める地球という安住の地、約束の地があるからこそ、人はそれを巡り戦乱を起こすのだよ。そうであれば、戦乱の根源である悪を取り除き、人類はこの銀河、さらには違う銀河にまで進出するべきなのだよ」 「しかし、私があなたに手を貸したのは、スペースノイドを排除し、アースノイド中心の世界を築くとあなたが言ったからです!」 イナダは、思わず声を張り上げた。再び、殺気に満ちた紅い目が彼を直視した。 「お前のような者が、いつまでも地球に居座っているから、人類は一向に高みに昇ることが出来ないのだよ!」 紅い目が、イナダの両脇に立つ兵士に何か目配せをすると、すぐに兵士たちはイナダの脇を抱えた。 「貴様ら!何をする!?グリーン!」 「イナダ元大統領を、彼の息子と共に大好きな地球へと送り返してやれ!」 「なっ、やめろ!!」 兵士たちに強制的に部屋から連れ出されながらも、イナダは必死に足をバタバタさせ抵抗した。しかし、抵抗空しくあっという間に部屋から姿を消した。部屋には、ドウィック・サーキス2世の笑い声が不気味に響いていた。 URES 首都サッポロ 東南アジア地区にある軌道エレベーターに向かう多くの輸送機が、青い空を埋め尽くしていた。そんな中、同盟軍は先日宇宙から降下してきた戦力、そして地上に存在する戦力全てを集結させ、最後の攻撃へと着々と準備を進めていた。 「集まったのは、これだけか?」 トウジョウ中将は、総合司令部のモニターに映し出された戦力の数値に目を細め、オペレーターに尋ねた。 「はい。今のところ、これが残る戦力全てです」 「予想していた以上に少ないな・・・」 「大気圏離脱能力がないMSを多数ありましたし、それに大気圏離脱機も多くありませんので、これほど少なくなったと思われます」 「そうか・・・では、離脱能力のないMSなどは、各主要都市に配備し、対空装備をしろと伝えておけ」 「分かりました」 この戦力で、デス・ロックスがNBC兵器を発射する前に撃破しなければならない。絶望という思いが、トウジョウの心をじわじわと侵食していった。常識のある人であれば、誰もがこの戦力で戦うなど愚かな行為はしないであろう。トウジョウもそうであった。しかし、リナ・ジュミリンの声を聞くと、不思議と絶望の中にも僅かだが希望の光が見えたような気がし、こんな愚かな行為をしようとしている自分がいたのだった。 『作戦は12時間後に開始する。各自最終チェックを急げ』 クラストは、トウジョウの指令を新しく与えられたジェスIIIのコクピットで聞いていた。 「勝てる見込みは、万に一つか・・・」 冷静に状況を分析して出た言葉だった。ジョイスから通信が入ったのはその時だった。ジョイスは何か慌てた様子だった。 「クラスト、すぐにコクピットへ来て!」 「何か故障か?」 「いいから、早く!」 訳も分からないまま、クラストはジェスIIIから降り、数十メートル先に横たわっている赤いガンダムへと急いだ。 「ジョイス、大丈夫か?」 「クラスト、何か聞こえない? ジョイスが真剣な顔で問い掛けてきた。クラストは耳をすませたが、コンピューターがたてる僅かな音しか聞こえなかった。 「何も聞こえないけど・・・?」 「耳じゃなくて、ここに」 ジョイスが頭を指差した。クラストは、聴覚ではなく意識を集中した。すると、どこかで聞いた事のある声が、頭に響いてきた。 (クラスト・ミリング) (あなたは、確か・・・) 頭の中に人の輪郭が浮かび上がった。それは、すぐに焦点が合わされ、緑色の髪と蒼い目をした女性が見えた。 (あれは、夢じゃなかったのか?) 次に聞こえた声は、頭の中ではなく直接聴覚に訴えた。 『そう、夢じゃないわ』 クラストとジョイスは、突然全天周囲モニターに映し出された女性に驚いた。その女性の容姿は、まさしくクラストが意識の中で見たものと同じであった。 「あなたは、一体誰なんですか?」 『申し遅れました。わたくしは、外宇宙連合代表デミハ・アーシタです』 「外宇宙連合・・・?」 『ええ、そうです。数十の恒星系による連合組織です』 「・・・本当に太陽系外の?」 『勿論そうです。わたくしは今、太陽系から12光年離れた場所におります』 「12光年!?」 『驚かれるのも無理ないでしょうね。1世紀近以上、わたくし達とあなた方とは交流がなかったのですから』 「その外宇宙連合とやらものが、自分に何の用があるんですか?」 『あら、一度あなたとはお会いしたはずよ?』 「ああ、意識の中でな・・・」 『じゃあ、わたくし達が何の用があるかご存知のはずです。あなた方を助けたいのですよ』 「何故、百年以上も交流がなかったのに、いきなり俺達を助ける気になったんだ?」 『それは、今回の太陽系での出来事が、わたくし達が蒔いた種ですから。それを、刈り取る責任があります。それに、彼女リナ・ジュミリンにも一度お会いしたいと思いましたので』 「なぜ、リナと?」 『彼女となら、わたくし達は再び共に歩んでいけそうだからです』 モニターごしに、蒼い目の女性が偽りを言っていないことをクラストは感じ取った。 「本当に助けてくれるんだな?」 『ええ、12時間後ですよね?』 「どこで、その情報を・・・」 クラストはそれ以上口に出すのをやめた。12光年も離れた場所から、タイムラグなしで通信が出来る相手だ。こちらの情報など筒抜け同然だろう。 「では、外宇宙連合の援軍を期待している。こちらの司令官にもそう伝えておく」 『分かりました。では、12時間後に』 デミハ・アーシタと名乗った女性は、モニターから消える寸前に笑顔を見せた。そこには、どこかリナと同じような面影があった。それを見て、クラストは 彼女は信頼できる人間だと自分に言い聞かせた。 第20話へ |
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