Ultimate Justice 第20話 〜輝く日〜
2.splendorous universe

EP0044年6月25日 サッポロ

『・・・もう一度繰り返す、全てのNBC兵器はこの艦キリネにある!』

 シャア・エスティンの通信は、最後の抵抗を試みようとしていた同盟軍にとって大きな希望をもたらす事になった。同盟軍の最大の懸念は、果たしてデス・ロックスがNBC兵器を分散して保持しているか否かであった。何故なら、地球の軌道上から一斉にNBC兵器を発射されてしまえば、戦力が少ない同盟軍は全てを防ぐ事は不可能であったからだ。しかし、特定のしかも1隻しか保持していないのならば、それを集中的に叩けばいい。

 シャア・エスティンの述べたことが真実なのか、それともこちらを欺くための偽りなのか。トウジョウは、シール・グリーンと呼ばれた男が、自らの息子を射殺したという事実から、シャアの情報は正しいと判断した。他の情報分析員も同じ意見だった。

『全同盟軍諸君に告ぐ!我々は、敵旗艦を集中攻撃する。宇宙へ出られるものは、今すぐに合流ポイントへ向かえ!繰り返す・・・』


「予定より4時間も早いよ?」

 リナは、全軍に出された指令が記されている電子書類に目を通し終えると、クラストの方が機体の能力を最大限に引き出されるという理由で、ジョイスから譲り受けた赤い機体の調整をするクラストに目をやった。

「仕様がない。今敵を叩かないと、すぐにNBC兵器を撃たれる」
「でも、外宇宙連合が助けに来てくれるまであと4時間もあるのよ?今の同盟軍の戦力じゃ、それまで持ち応えれるとは思えない」

 リナは黙々と作業を続けるクラストを不安気に見つめた。こんな悲観的な言葉が、自分の口から出てくるのは嫌だった。でも、何とかして目の前にいる人物を引き留めたい。そう思ったのは、なぜかこれが彼と共有できる最期の時間のような予感がしたからだった。

「でもじゃない、やるしかない。外宇宙連合が来る前に、NBC兵器を撃たれたらもう地球は人間の住める場所じゃなくなる」
「もしかしたら・・・シャアが言ってた、発射シークエンスのプロテクトが4時間位は持つかもしれないのよ?」
「いつ破られるか分からないものに、地球の運命を預けるわけにはいかないだろう?」

 厳しいクラストの視線がリナを突き刺す。自分でも、こんなことは言いたくない。でも、彼をいま宇宙へ行かせたら、そのまま無限に広がる漆黒の闇の中へと消えていきそうで恐かった。

「リナ、一体どうしたんだ?いつもの・・・」
「・・・私らしくないよね。本当は、みんなを元気付けなきゃいけないのにね」

 こう話している間にも、目の前にるクラストがどんどん離れて行くような感覚が自分を襲う。リナは思いきって、その感覚を振り払い精一杯の笑顔を浮かべ言った。

「もう止めない。でも、クラスト一つだけ約束をして」
「何だ?」
「生きて返ってきて」

 もちろんだ。その言葉を直接クラストから聞きたかった。でも、クラストはその言葉を口にはせず、代わりに彼の唇がそっと自分の唇に触れた。これが、彼と共有できる最期の時間。様々な想いがリナの胸を満たし、いつの間にかボロボロと瞳から涙が零れ落ちていた。

 クラストの手が、優しく頬を流れる涙を拭った。そして、ぎゅっと力一杯自分を抱きしめ耳元で呟いた。

「大統領に涙は似合わないよ。じゃあなリナ」

 リナが再び口を開く前に、クラストの後姿はあっという間に赤い機体の中へと消えていった。リナは、ただ無事に彼が返って来る事を祈ることしかできなかった。


『全同盟軍の諸君、この戦いが終わった後、地球が今と同じ輝きを放っていることを願っている。出撃!』

 トウジョウの言葉は、総合司令部を通じて地球上のあらゆる部隊にその命令を発信した。

 宇宙から命辛々逃げ、そして再び地球で修復された外惑星連邦の艦艇、新たに宇宙用に換装されたMS、それらが次々とマスドライバーやHLV(大気圏離脱艇)によって空を駆け上る姿は、世界各地で目撃された。

「少尉、準備はいいか?」
「いつでもどうぞ」
「補助ロケットの切り離しの手順は分かってるな?」
「大丈夫です」
「OK、地球を救ってきてくれよ。ガンダムという名を受け継いだその機体でよ!」

 クラストは親指を立て通信を切った。一息ついた後、機体の背中に外付けされたロケットブースターを点火させた。赤い機体は、白い尾を引きながらぐんぐん空を昇っていった。

 クラストは、凄まじいGの中、正面のモニターに地球の姿を映し出した。広大な海、緑豊かな森林、天高くそびえる山々を持つ星。しかし、よく見ると人類が幾度もなく犯してきた過ちによって、大陸の形は変わり、砂漠化が進み、森林の多くは消えてしまった。

 デス・ロックスが言うように、この星を捨てなければ人は高みへと昇れないのなら、人は何て悲しい生物なのだろうとクラストは思った。戦いに次ぐ戦い――人類が刻んだ歴史は、「戦い」という単語一つだけで充分に説明できてしまうのではないかと思えるほど争いに満ちていた。

 もし、数千発というNBC兵器が地球へ放たれれば、人は二度とこの星を蘇らせる事は出来ないだろう。しかし、それが果たして人を高みへと、地球の重力に引かれる人を解き放つのだろうか。地球亡き後も、人は何とかして星を蘇らせる方法を見つけ出そうとするのではないか。それが、数百年、数万年という時が必要となろうとも。そうでなくても、地球を滅ぼした相手に対する憎しみというのは後の世代にまで遺伝し、地球を滅ぼした相手に復讐するために、彼らの住む星を滅ぼすかもしれない。そうなれば、悪循環は永遠に続き、この広い銀河系にすら人が住める星は消えていくかもしれない。

 そんなことを考えてる場合じゃないと、クラストは自分に言い聞かせた。全天周囲モニターが突然暗くなった。生命を育んできた地球の大気が薄れ、決して生命の育む事のない暗闇がクラストの機体を覆ったからだ。
 手順通り、機体を宇宙にまで上げてくれた補助ロケットを切り離す。目の前には、既に打ち上げられた同盟軍のMS、艦艇の姿が広がっていた。

『目標は、デス・ロックス旗艦キリネだ。情報が正しければ、外宇宙連合という軍隊が我々同盟軍を支援してくれる。しかし、彼らが来る前にNBC兵器を発射されてしまえば地球は終わりだ。何としてでも、デス・ロックス陣営の中心にいる目標に辿りつき破壊する。それが命令だ。諸君の健闘を祈る』

 サッポロの統合司令部にいるトウジョウの声が、全機体、全艦艇へと届けられた。それを合図に、一斉に同盟軍は前進し始めた。

 その光景を見ながら、クラストは人は何て不思議な生物なのだろうと思った。数ヶ月前まで、「敵」という存在を消すために、外惑星連邦、URES、ティエラは殺し合いを行ってきた。しかし、今は共通の目的を倒す為に、排除しなければならなかった「敵」は「味方」となって共に戦っている。このように「味方」となって、戦わずに生きることが出来るのなら、最初からそうすればいいのではないか?
 現実がそう上手くいく事はないと分かっている。人は他人を排除してでも、自分の追求する利益を得る為に行動する。今回は、その追及する利益が偶然にも合ってしまっただけだろう。しかし、クラストはそう信じたくはなかった。

 戦闘が始った。至る所に光球が宇宙に輝く。その美しさとは裏腹に、その光が輝く度に人の命が傷つき失われていく。クラストのすぐ横にいた、外惑星連邦のMAアウラーに光条が直撃し爆散する。すぐ横で仲間が死んでいった。しかし、失われた彼の命は何か意味があるのか?

 地球が滅びるか、生き延びるかは関係せず、この戦争はいずれ終わる。そして、「平和」が戻り人はその一時的な「平和」を楽しむだろう。だが、その「平和」は数年、数十年、数百年と続くかもしれない。しかし、いずれ再び戦火は人を呑み込む。この報復による報復という方程式が崩れない限り。

 巨大な刀を振り回すノウヘッドが、クラストに襲いかかる。頭上から振り下ろされたビーム・ソードを紙一重で避け、赤い機体が右手に持つビームサーベルを、一気に相手のコクピットへと突き刺す。また一人、人が死んだ。彼は、太陽系連邦に見捨てられた恒星移民の子孫なのだろうか。

 これ以上、人を死なせてはいけない。クラストは決断した。この無意味な戦争を終わらせるには、あの人類が開発したもろもろの悪魔の兵器を潰すしかない。クラストは、機体はデス・ロックス陣営へと消えていった。


デス・ロックス旗艦キリネ

「一機も、この艦には近付けさせるな!」

 ブリッジは、凍りつくような緊張感で満ちていた。一向に進まないプロテクト解除作業、そして予想以上に手強い同盟軍の攻撃に手を焼いているデス・ロックス軍。その様子に、ドウィック・サーキス2世は怒りを爆発させていたからだ。

「プロテクト解除はまだか!?」

 プロテクト解除作業を行っているクルーは、「まだです」と答えようとしたが、後頭部に当たる冷たい感触によって口を開くのをやめた。

「貴様、真剣にやっているのか?奴と同じように、私を裏切ろうとしているのではないだろうな?」

「違います」

 クルーは首を振りながら答えた。

「そうであるなら、今から30分以内にプロテクトを何としてでも解除しろ。どれだけ人数を使おうが構わん!」

 ブリッジを立ち去ろうとしたドウィック・サーキス2世を、オペレーターが止めた。振り返ると、オペレーターの青ざめた表情が目に入った。

「今度は何だ?」
「外宇宙連合が・・・」
「まさか、こんな早く付けるはずがない!何かの間違いではないのか?」
「いえ、この反応は超光速航行を使用する艦艇以外にありえません」
「くっ、外宇宙連合へ70パーセント部隊をまわせ!同盟軍の奴等は、足止めするだけで良い!」

 ドウィック・サーキス2世がそう言い終えたその時、一瞬空間が歪んだと思ったら、彼自身見たことのない艦艇がきらきらと太陽光によって輝いていた。ドウィック・サーキス2世は、表情を強張らせブリッジを後にした。

 同盟軍側も同じ映像を見ていた。多くの兵士が、外宇宙連合の支援については半信半疑だった。何故なら、外宇宙とは100年以上も一切の交流が途絶えており、太陽系に住む人々の記憶からもほとんど消えていたからだ。
 数百の艦艇を見たとき大半の者が、もしかしたら外宇宙連合は同盟軍を助けに来たのではなく、デス・ロックスを支援しに来たのではないかという疑念を抱いた。

 しかし、その疑念はすぐに消え去った。何故なら、同盟軍の全MSと全艦艇にある人物が映る通信が入ったからだ。

『外宇宙連合は、同盟軍を支援します』

 その通信は緑色の髪、そして迷いのない真直ぐな目をした女性――外宇宙連合代表デミハ・アーシタ――を映し出していた。

 戦後、多くの同盟軍兵士は述べた、「あの女性の目を見て信頼できる」となぜか理解できたと。


3.devastation
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