Ultimate Justice
第3話〜動き出す宇宙〜

2.Sympathy

E.P.0044年 4月5日 URES宇宙軍 巡洋艦「イワナミ」

 イワナミは、「ノア級」最新鋭巡洋艦の第1番艦として、今年の初めに地球軌道ステーション403『ジュダ』で進宙した。初めてUBCS(無人戦闘管制システム)が、完全搭載された巡洋艦である。その結果、乗組員10人以下でも容易に運行することが可能である。実際は、無人でも充分に機能すると技術者は語るが、さすがに軍の上層部は、「乗組員の数をゼロにしてまうのは、軍人の大幅削減たちの反発を招く恐れがある」とのことで、完全無人化は見送られた。

 そこで、「五ヶ年計画」なるものをURES軍は発表し、5年間かけて徐々に軍人の数を削減していくことで、軍人の反発を緩和しようと考えたのである。

「ふふ、やっとこれからおもしろくなる。宇宙人どもに、一泡吹かせてやるぞ」
 
 ブリッジの中央に位置するシートには、まだ20代の若い士官がゲームを楽しむかのように、にたにたと不吉な笑いを浮かべていた。彼の名は、キンブル・イナダ。URES副大統領の5人の子供の末っ子である。

「おい、まだ地球からの命令は出てないのか?」
「はい。後少しで議会の決議が終わりますので、もうすこしお待ちください」
 オペレーターが怯えた声で、キンブル艦長の怒声に返事をする。
「ちっ、親父は何をてこずってるんだよ・・・」

 彼は、いつもの癖で親指の爪を噛みながら、ティエラ共和国軍の巨大戦艦の堂々たる航行をスクリーンで見つめていた。

「獲物が、こんな近くにいるっていうのに!ただ見物してろって言うのか!?」


同時刻 URES 首都サッポロ


「賛成300票、反対0票。よって、現副大統領マックス・イナダを、臨時法第4条に基き、臨時大統領への就任を認めます」

 議長が、ディスプレイに映し出された条文を読み、議会中で一斉に拍手が湧き上がった。臨時大統領となったマックス・イナダは、人々の拍手に手を上げ答え、スピーチをするために演台へ向かった。

 これで法的に一時的ではあるが、リナ大統領は実質もう大統領ではなくなり、一般市民となったのであった。

「ゴホン。皆さんの支持を感謝します。皆さんがご存知の通り、我々はURES成立以来の国家の危機に見舞われています。国家元首である大統領が、今誘拐され拘束されるという前代未聞の事件です。
 我々は、ティエラ共和国がこの事件に加担したという証拠を手に入れました。この臨時法が成立したことにより、その事実は消え去りました。現在、ティエラに拘束されているのは、大統領ではなくURESの一市民です。しかし、URES市民を拘束するような国家を断じて赦すわけにはいきません!
 ティエラ共和国、皆さんも知っているとおり、あの国家はテロリストが作った国家です。テロリストが、突然民主主義を掲げる国家に変貌することなど有り得ません。テロリストは、結局はテロリストなのです。彼らの本性が、今回の事件で暴露されたのです」

 議会で、罵声や怒りの声が響き渡った。イナダは、その怒りの声に耳を傾ける仕草をし、そして静まるようにと両手を動かした。議会は静寂に包まれた。

「皆さんが怒るのも当然です。ティエラは、このような重大犯罪を犯したにも関わらず、犯人は他にいると幼稚な言い訳をしているのです。このような国家の存続をを決して赦すわけにはいきません!」

 議会のそこら中で、議員が立ち上がり、イナダの話しに同調の意を示す。その雰囲気をイナダは読み取り、口調を変え、さらにヒートアップする。

「このような事が二度と起こらないように、我々はこのテロリスト国家に我々の正義を見せる必要があるのです!」


同時刻 ティエラ共和国軍 ソル級戦艦「ムンド」

「けしからん!何をこいつは言っているんだ!?」
 
 ティエラ軍司令官である、マルコ・タン大将が怒りをあらわにしながら、ディスプレイに映るURES議会の演台の男を罵った。

「自作自演もいい加減にして欲しいな」
 
 ティエラ共和国大統領リュウ・ドマスティーも呆れてため息をついた。そして、横に座るリナ・ジュミリンを見つめた。

「リナ大統領、これからあなたはどうされますか?」
「分かりません。でも一つ確かなことは、私がもう大統領ではないということです」笑顔でリナはドマスティーに答えた。

(この状況で、笑うか・・・。さすがは、ジョーイの娘だな。死なせるわけにはいかん)

「では、ミス・リナと呼ぼうかな?私も、これで一つ決心がつきました」
「というと?」
「あなたを、大統領としてではなく、一人の人間として死なせはしないと言うことです。あなたは、必ずこの太陽系にもう一度、平等と平和をもたらせる人物になる。これは私の直感ですがね・・・」
 リナは、その言葉に胸を打たれ瞳を潤わせ、感謝の意を込め深く頭を下げた。
「ありがとうございます。ドマスティー大統領」

 クラストは、待合室を出てMSデッキへと向かうジョイスたちの後を付いていった。その時に、自分が感じた「敵意」が何か判明した。艦内放送で、URES艦隊がこの戦艦を追尾しているという情報が流れた。自分が感じた「敵意」がURES艦隊だと分かると、すぐにでも出撃があるかもしれないと考え、MSデッキへと足を早めた。

 MSデッキには、既にパイロットが集まっていた。ジョイスとあの男の姿を探したが見当たらなかった。クラストは気付くと、引き寄せられるかのようにあの赤いMS「ガンダム」の前に立っていた。

「君を呼んでいるんだよ。このMSが」突然、横にあの男が立っていた。
「そうだ、自己紹介してなかったね。僕の名前はキール・クレーシー。階級は大尉。あっ、でもキールって呼び捨てしてもらって結構だよ」
「俺も、クラストでいい。よろしく、キール」

 二人は固く手を握りしめた。

「さっき、このMSが俺を呼んでいるって言ったよな」
「そう。このガンダムはニュータイプ専用に開発されたんだ。ニュータイプじゃなければ、機体を起動させることも出来ない。そういう人格が宿っているMSなんだ」

 赤いMSを見上げながら、自信気にキールは説明し始めた。

(人格が宿るMSか・・・、URESの無人化とは対照的だな・・・)

 クラストは、自分が乗ったジェスIIIの無機質な機体を思い出した。

「僕達も、実際どういうテクノロジーがこのMSに使われているか、本当のところ分からないんだ」
「分からない?ティエラが作ったんじゃないのか?」
「うんうん、このガンダムは外惑星連邦から譲り受けたんだよ。でも、外惑星連邦もこのテクノロジーを開発してない」
「じゃあ、誰が?」
「君たち、URESの人は忘れちゃっているかもしれないけど、遠く離れたもう一つの人類の故郷・・・そう、エイレーネっていう所で開発されたんだ」
「エイレーネ・・・」

 その言葉にクラストは聞き覚えがあった。確か、コロニーのパブリックスクールの授業で聞いた言葉だ。そうだ、1、2世紀前に誕生した太陽系外の人類初の国家だ。今存在するかどうかも、URESでは確認されていない。というよりは、もう太陽系外の事なんか興味がないといった方が正しいであろう。

「まぁ、未知のテクノロジー搭載のガンダムってこと。ロマンがあるでしょ?どう、乗ってみる?どうせ、1機余ってるし」
「何で1機余ってるんだ?」
「誰も、乗れる人がいないからだよ。言っただろ?このMSは人格があって・・・」
「ニュータイプじゃないと、起動もしないか・・・」
「そっ、よく分かってるじゃん。いつの時代も、ニュータイプはプレミアもんだからね」
 
 キールがクラストの背中を押した。クラストの体は無重力の空間を漂い、赤いMSに吸いこまれるようにコクピットに乗りこんだ。

 コクピットの内部は、別にジェスIIIや他のMSと大差変わりはない非常にシンプルな作りであった。クラストは、コントロールパネルのディスプレイを触ると、他のMSと全く同じように起動を開始した。暗かったコクピット内に光が宿った。ヒュ―ンというファンがまわる音がすると、コクピット内の壁が外のMSデッキの様子を映し出した。ちょうどミカとキムが、MSデッキに入ってくるのが見えた。
 
 キールは、クラストがあたかも照明を付けるかのように、簡単に赤いガンダムを起動させてしまったので、少し呆気に取られたが、すぐにいつも通りの笑顔に戻った。

(やっぱり、ジョイス少佐の目に狂いはなかった)

『WELCOME TO D.R.G. VERSION:DR003-C』

 コントロールパネルに起動開始の画面が表示された。起動が順調にいった証拠だった。二つの目が光り、ティエラのMS整備チームが、今までパイロットが居らずMSデッキで邪魔な存在でしかなかったMSが起動したので、驚いて集まってきた。何事かと思ったジョイス、ミカ、キムも赤いMSを取り囲んだ。ジョイスは、キールの表情を見て誰が起動させたか察した。そして、床を蹴りコクピットへと向かった。

(やっぱり、良い素質を持ってる)

 ジョイスは、自分の目に狂いはなかったと、満足気に腕を組みながらコクピットの中にいる人物を見つめた。その人物は、起動させたのは良いが、次にどこをどうすればいいのか分からずにいた。

(教えてあげよっか?)

「なっ、いきなり頭に話しかけないでくれよ」

 ジョイスの存在に気付いていなかった、クラストは、突然頭の中で声が聞こえ、驚いた表情で彼女を見つめた。

「ごめんごめん。でも、すぐに慣れるわよ」
「そうだといいが・・・。で、教えてくれるのか?この機体の扱い方?」
「もちろん」

 ジョイスは、このガンダムの特徴と、コクピットの機器の説明をした。クラストは、彼女が今までと違って真剣な顔をして説明する姿に、もう一つの彼女の顔が垣間見えた気がした。

「ありがとうジョイス、大体この機体の特徴は分かった」
「じゃあ、もうOKね。早くこの機体動かしたくて、うずうずしてるんじゃないの?でも君たちは、別に出撃する必要もないんだよ?」
「いや、協力させてもらうよ。俺は、この機体に乗ってみたい。それが本音かな・・・。あと、何か宇宙に無性に出たい気がするんだ」

 当初ジョイスに持っていた嫌悪感が急速に消えていくこと、クラストは少々戸惑ったが同時に喜びを感じていた。目の前にる亜麻色の女性とは、心から分かり合える気がした。
 
 クラストに赤い機体の操縦系統の説明を終え、ジョイスは自分の機体へ戻るために飛んだ。すると、彼女の手を誰かが掴んだ。彼女は、いきなり自分の手を掴んだ主を確かめようと振り向いた。クラストだった。

「ごめん、さっきのこと謝りたかったんだ」
「さっきのことって?」
 
 再びクラストの乗るコクピットへと引き戻されたジョイスが、不思議そうにクラストに問う。

「いや、待合室でちょっと俺、きつい言い方したかなって・・・」
 ジョイスは、あの意地悪な笑みを浮かべた。
「そんなことわざわざ言うために、私を引きとめたの?」
 自分の心を見透かされているなと、クラストは思った。
「いや、ただ何か・・・初めて心から分かり合えることが出来たというか・・・何て言えば・・・」

 しどろもどろの返事で、クラストは何とか説明しようと奮闘した。その様子を、ジョイスは笑みを浮かべながら見ていた。彼女の表情が、引き締まり顔を近付けてきた。また頭の中に言葉が響いた。

(君が何を言いたいか分かるよ)
(えっ?)
(私も最初そうだったから・・・)
(どういうこと?)

「ないしょ」

 彼女はそう言い残し、自分の機体へと無重力の海を泳いでいった。

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